エリクソンが語るMBAの開発秘話〜DLSRへの道

第1世代の放射光源は、高エネルギー加速器の「寄生的」利用であったが、寄生的利用でも放射光の威力が世界中に知れ渡るのに、時間はかからなかった。第2世代というのは放射光専用リングのことである。第2世代の代表格は米国スタンフォードのSSRL、英国ダレスベリーのSRS、日本の物性研SOR-RINGそしてKEKのPFである。

専用リングで本格的な放射光利用が開始されたが、偏向電磁石からの放射光利用という点では、第1世代も第2世代も同じであった。なお細く言えばPFのように第2世代リングの中には、直線部分を(挿入光源のために)最初から用意したものもある。それらの挿入光源の利用に絞ればこれらを第2.5世代と呼ぶこともある。

 

第3世代光源の登場

1990年代は挿入光源を中心にした放射光、第3世代光源が登場する。フランスのグルノーブルにあるESRF、米国バークレーのローレンス・バークレー国立研究所のALS、アルゴンヌ国立研究所のAPS、日本の播磨地区に建設されたSPring-8などの第3世代貯蔵リングが登場した。最初に建設されたこれらのリングと欧州に建設された2.4-3GeV光源を区別して後者を第3.5世代と呼ぶこともある。

第3世代リングでは、アンジュレーターとウィグラーと呼ばれる周期的な磁石構造(挿入光源)が中心になった。これらの装置では、交互の磁界方向を有する短い磁石の列からなり、アンジュレーターでは100個ほどの永久磁石で構成され、それぞれが同じ方向にX線を放射しビームが重ね合わされる結果、X線の強度は2桁増大、さらに放出磁石間の干渉効果によって相乗効果で4桁程度輝度が増大する。

 

第3世代の光源では、加速器研究者は計算機コードの発展のおかげで、精密な格子を設計することができるようになると急速に電子のダイナミクスの理解が進んだ。現在、世界中に約50箇所の第3世代光源があり、それぞれに設置されたX線ビームライン(最大40本)を数万人のユーザーが利用している。

第3世代光源の電子蓄積技術は成熟していると考えられていたが、欠点を克服したMBAと呼ぶ新しい格子により、輝度がさらに(20-30倍)向上した。 いうまでもなくMBAのパイオニアはスエーデンMaxlabのMAX IVである。

 

MBAの開発経緯

MAX IVのアイデアは意外と古く、20世紀末に始まった。きっかけは性能(エミッタンス)とコストの両立であった。低コストで建設されたMAX IIリングは、比較的初期に建設された第3世代放射光源のひとつつであったが、他の放射光源が欧州に続々建設されると、相対的に競争力が低下したためリングの改造が必要になった。加速器設計チームの危機感が新しいアイデアのきっかけとなったのである。

第3世代の光源のラテイスは、1970年代からDBAが主流であった。SPring-8でも世界最長となる軌道を電子を安定に周回させるため、挙動がよくわかっていたDBAを用いた、というより、DBA以外の選択肢はなかった。典型的なDBAラテイスは10-30箇所のアクロマートから構成される。それぞれが2つの双極電磁石と複数の収束磁石が含まれる。

なおDiamondはアップグレードでDBAの対称性からMBAをDDBAあるいはDTBAラテイスを検討しているが、その理由のひとつは中央に3mほどの短直線部分ができるため、ここに3-ポールウイグラーなどの短挿入光源が入るので(挿入光源)キャパシテイが倍になるからだという。少々脱線するがKEK-LSの8BAラテイスも中央に挿入光源のスペースができる。後述するESRF-EBSのハイブリッド7BAでは3-ポールウイグラーの設置スペースはほとんどない。

 

クロマテイシテイ補正のための4重極と6極子(MAX IVでは振幅依存のチューンシフトを補償するために8極子を追加)アクロマートは、挿入装置を収容する直線部分に隣接して配置される。これらの部分における電子ビームサイズは、ビームの分散(電子の横方向位置のエネルギー依存性)をゼロに調整することによって最小限に抑えられる(注1)。

(注1)ストレージリングの進歩を表す(評価する)指標は、電子ビームのエミッタンスであり、電子ビームの大きさとその発散の積として定義される。

 

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Credit: Bartlini

 

このような戦略でのラテイスの改良でも今日の第3世代の蓄積リングは、X線ビーム自体の回折限界よりも数100倍大きい電子ビームエミッタンスの2~5nmである。理想的には(可視光のアッベ回折限界と同様に、)電子ビームのサイズおよび広がりをX線の回折特性に近づける必要があるが、より小さな電子ビームエミッタンスのラテイスは、不安定性や短いビーム寿命となり、硬X線エネルギーにおける回折限界に非常に遠くまで到達することは困難であった。

1990年代初めに、蓄積リングのエミッタンスは偏向磁石の数を増やせば減少し輝度が増大することは知られていた。電子を「曲げる」ことが「諸悪の根源」であり、曲げ角が小さくなれば(カメラレンズと同じように)色収差を小さくできる。エリクソンたちはこの原理を実行し、アクロマートに小型の偏向磁石を詰め込むマルチベンドアクロマート(MBA)を考案した(エリクソンの哲学に込められた放射光源の持続性とは)。

MBAは、より円滑に電子を周回させ、水平エミッタンスを低減する。偏向電磁石の数を減らすMBAの理念に影響されてDBAの延長となるDDBAやTBAを採用したリングも出現した。さらにMBAの理念はDESYのPETRA、SLACのPEP、CERNのLEPを含む高エネルギー衝突実験加速器でも採用されて、数GeVのエネルギーの蓄積リングのエミッタンスは飛躍的に低下することとなった。ただしMBAはコンパクトな光源を求めるときはさらにさらに小型化が必要になる。周長の大きいリングでは7BAはハイブリッド化されてESRF、APS、SPring-8のアップグレード、HEPSに採用されている。

 

MAXIVが切り開く第4世代光源への道

1995年のMAXIV設計チームの計算によると、7BAは、その時のESRFの1/10となる0.4nmの水平エミッタンスが可能であることが示された。新ラテイス検討の際にSLSの6BAとCLSの5BAも考察したが、これらのアクロマートの数が少ないため、回折限界につながるような大きな飛躍はできないことがわかった。

そこでMAXIVは、2002年に、3 GeVの電子ビームに対して1 nm radのエミッタンスに達する周長277 m、7BA案を提案した。 その後、2008年までに、エミッタンスが0.31 nm radの周長520 m、7BAラテイスでアンジュレータが全ての直線に挿入されるとさらに1/2に減少する。これが最終的なMAX IV蓄積リングとなった。

この案に到達するまでに設計チームは10年近く費やし、必要な小型磁石技術を開発するためにMAX IIIと呼ばれる周長36mの実験的蓄積リングを建設した。電子密度が非常に高いので、高周波(RF)キャビティを増やして電子バンチを4倍に伸ばさなければならなかった。

 

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Credit: MAXIV

 

MAX IVは、1.5および3GeVのエネルギーの2つの貯蔵リングを含む点が特徴である。1.5GeVリングはポーランドのSOLARISとして完全なコピーが建設され稼働している。それぞれのエネルギーが異なるが、リングがインジェクタなどのインフラを共有しているため、低コストで広範囲のエネルギー領域でアンジュレーター放射を利用することが可能になった。VUVリング(軟X線)とX線リングが近接して設置されるのは、歴史的にはNSLSが早かったが、現在では台湾のTLS-TPSやNew SUBARU-SPring-8のコンビネーションサイトがある。

18個の加速器ユニットで構成された3 GeV Sバンド直線加速器に沿って1.5GeV、3GeVの蓄積リングが並ぶ配置は世界中の放射光源の中でも独創的であるが同時に加速器スタデイに便利な配置でもある。

MAX IVの1.5 GeVリングは12個のDBAユニットで構成され、各ユニットはDBA磁石を設置する磁石ブロック(Girder)で構成される。 Girderのおかげで磁石を高精度に機械加工することができ、検査室が不要で、10μm未満の公差で位置合わせすることができる。Girderの概念は高精度な磁石設置と同時に低コスト化にもつながる。

 

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Credit: MAXIV

 

一方、小さな真空ダクトの寸法(直径2cm)は真空コンダクタンス低下をもたらすので、100%NEGコーティングされた真空システムを採用した。 CERNで開拓されたNEG技術は、極端な真空条件を達成するために金属表面吸着を使用している。 CERN真空システムを製造した企業にキーテクノロジーとなるコーテイング技術のライセンスが与えられていたため共同で作業し最終的には、ロシアのブデッカー研究所の真空専門家が、直線加速器と3GeVリング真空システムを整備した。

小さなビームサイズと高いビーム電流の蓄積リングでは、ビーム内散乱(IBS)とTouschek寿命効果が課題となる。電子のエネルギー偏差が小さいほどビームサイズが大きくなるため電子密度を減少させ、ビームを安定化させるために、バンチ延長型高調波空洞を有する低周波数(100MHz)RFシステムが導入された。このRFシステムでは商用ソリッドステートFM送信機電源を使用することで(周波数に制限ができるが)低コスト化が可能になった。

 

DLSRへの道

合計10個の第4世代リングが現在建設中または計画中で、70年後には輝度は110-100倍増加し、高いX線エネルギーでの回折限界を達成することができると期待されている(下図)。なお本格的なDLSRは周長の長い加速器再利用が近道と考えられている。シカゴのフェルミ研究所のテヴァトロン衝突器を収容していた6.3kmのトンネル、DESYのPETRA IV、PEP-X、KEK-Xなどは、回折限界リング(DLSR)の候補となる。これらの中でもっとも実現性の高いのは、PETRAIVである(放射光の最新話題〜第4世代光源の現実がみえたSRI2018)。

 

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