LCLSのXFELによる酵素中間体の構造決定

世界保健機関(WHO)の最新の世界的な結核報告によると、咳やくしゃみで感染する肺疾患、結核は、他のどの感染因子よりも世界中で多くの人々を死に追いやっている。また、毎年何十万人もが、結核を引き起こす細菌が抗生物質に抵抗性になるため、治療ができないケースが報告されている。

LCLSの国際的な研究者チームが、X線自由電子レーザー(XFEL)を使って結核細菌が抗生物質をどのように不活性化するかを調べる新しい方法を発見した。SLACの実験で、結核細菌が使用するβ-ラクタマーゼと呼ばれる酵素と抗生物質を混合し、酵素が抗生物質を攻撃して不活性化するのをリアルタイムで観測した。

新しい手法は混合注入(Mix and injection)シリアル結晶学と呼ばれ、SLACのLCLSによって生成された超高速なパルスを利用する。反応が開始されてから30ミリ秒から2秒後に撮影されたX線スナップショットは、ラパマイザが抗生物質セフトリアキソンに結合し、その化学結合の1つ切ることを示した。

 

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Credit: BMC Biology

 

この実験は、プロセス中に分子の形状と中間体を直接調べることができることを示している。(Olmos Jr. et al., BMC Biology, online May 31, 2018

結晶学では、科学者は蛋白質の多くの複製から結晶を形成し、X線で回折パターンを生成し、分子構造を明らかにする。これまでは比較的大きな結晶でしか使えなかった。また抗生物質を含む溶液が結晶に拡散して酵素と反応するため、この方法では限界があった。結晶中の多くの蛋白質分子が一緒に化学プロセスを開始するため観測が反応より速いことが重要である。

 

LCLSや他のXFELは、強力なX線ビームで、数百万分の1メートルのより小さな結晶から回折パターンを取り込むことができる。そのため、抗生物質はすぐに酵素に到達することができる。この研究ではLCLSや他のXFELで、より大きなクラスのタンパク質(酵素など)を時間分解測定できる可能性を示した。研究チームは、β線ラクタマーゼの小さな結晶を、X線パルスを照射される前にわずか数秒で抗生物質と混合しながら測定セルに注入した。

 

 

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Credit: BMC Biology

 

反応中に数百万のX線スナップショットを撮り、それらを合成して、抗生物質が室温で酵素と相互作用するときの3次元構造の変化が調べられるようになったが。将来の実験では、反応の過程でより多くのスナップショットをとることで、ラクタマーゼの構造と化学的挙動のより詳細な情報を得る予定である。

この実験方法は、酵素が反応を開始または誘導する他のタイプの生物学的プロセスの研究にも適用できる。この技術を用いたこれまでの研究では、レトロウイルスおよび癌の研究にとって重要なRNA「スイッチ」の反転を捕捉した。より多くの情報があれば、科学者は抗生物質の設計を最適化できる。

 

数日分のデータを数分で必要なデータを収集することができるほか、反応のスナップショットをより緊密に取ることもでき、迅速な化学反応をより完全に理解することができると期待されている。2重管で混合するシステムもある(以下の図)。

 

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Credit: Nature

 

すでに光源開発のフェーズは終了しXFELの本格的な結晶構造解析への応用が活発化している。装置ができたらそれで終わり、最小限の維持費でいいと考えるのは大きな誤りである。装置ができたら可能性を引き出して結果を出す、というライフサイクルまで予算体制を組み、人材を投入することまで考えないといけない時代になった。設備整備が終わったとき利用研究は始まり、なのである。

余談になるがLCLSの成果がここまで伸びた原因は、European XFELとDESYの層の厚い研究者が、自分たちのXFELが完成する前にLCLSで先行研究を行ったことにあると筆者は考えている。背景にあるEMBLを含めれば全欧州とLCLSの協力体制が推進力となったのである。立派な施設をつくることも大切だが、そのあと世界中の研究者を呼び込んで先端研究に門戸を開くことが重要なのではないだろうか。

 

 

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