2.4GeVで軟X線回折光源を目指すHALS

筆者は現在、NSRLに滞在中なので新しく建設される予算がついたHALSの近況を簡単に伝えたい。NSRLのHLSはアップグレードでHLS-IIに移行したものの、上海のSSRFが稼働してからすっかり影が薄くなってしまった。これまでHLSの次期マシンとしてHALSが計画されてはいたが、当初計画は結果的にHLS-IIに相当するもので、新規マシンとしてはみるべきものがなかった。

 

初代HALS(HLS-II)の性能は電子エネルギー0.8GeV、300mA、周長66.13m、エミッタンス165nmrad.と正直パッとしなかった。この周長だと建物を流用できる計画ではあったため、アップグレードとして実行されHLS-IIが誕生した。4セルTBAのHLS-IIはUV-SOR-IVを目指したものであったが、実際にはUVSOR-IIIくらいかという印象で、特にビームラインの近代化が遅れていた。またライフが短く1日3回入射が長く続いたが、ユーザーの突き上げもなかったようで鳴かず飛ばず状態が続いていた。

 

その後、マシンの規模が拡張され2015年の時点では1.5GeV、周長388m、500mA、エミッタンス300pmradになった。これは周長からして現在の場所と別の場所に設置する計画が浮上したということになる。この時点でラテイスはMBAを採用しWang教授をリーダーとしてデザインスタデイを開始した。HALSという名前がHLS-IIから出発しているので混乱を与えるが、当時はNSRL職員でさえも実現性(予算化)は低いと考えていた。北京と上海に予算が集中するからだという言い訳だったように記憶している。ただNSRLは北京、上海、台湾の放射光研究者を集めた研究会を開催し、コミュニテイをまとめていた。

その後、NSRLは第4世代放射光のワークショップを2回開催し、所長が交代し海外の先端放射光の設計思想に強い影響を受けて最終的なHALS計画に到達する。エネルギーを2.0GeVと2.4GeVについてエミッタンスを計算すると、78pmrad、58pmradとなることから、最終的には2.4GeVに決まった。ただしこれらのエミッタンス計算ではIBSの効果が現実的でないという見方があることを記しておく。ちなみにSOLEIL-IIの72pmradが現実的な先端スペックだとALSもDiamondも認めている。

 

中国は北京、上海、合肥の3都市を科学技術拠点と制定したことで、HALSの運命も大きく変わった。建設計画が予算化されスタデイが本格化した。今年のIPAC2018には磁石列の設計案が発表されている。HALSのキャッチフレーズは軟X線回折光源である。VUVではすでにHLSのお手本となった分子研の蓄積リングが達成している。HALSの軟X線の意味はTender X-rayであることはこれまでのワークショップの議論から推察できる。

HALSの磁石列Longitudinal Gradient Dipoleと呼ばれる双極磁石と高磁場勾配(80T/m)4極磁石とのハイブリッド磁石と強力な収束用の6極磁石が開発課題の中心となり、設計にはPOSSION、Radia、OPERA-3Dの計算コードが使われている。

 

NSRLのオフイスのロビーからHLSの模型が撤去され、HALSの模型が置かれている(下の写真)。蓄積リング建物のそばに透明なプラスチックの建物が配置され、それぞれXFEL-1、XFEL-2と表記されている。中国のXFEL計画はVUV、XFELが開始されているが、NSRLの役割は軟X線なのだろう。実はすでに赤外XFEL計画は予算化され、小規模ながら開始されている。ふたつの建物を直線的に配置しながらも別の建物であることは、これまでの直線型加速器の設計とは異なるコンパクトなXFELを想定しているように思えた。なお透明なプラスチックという意味は予算化されていないためと思われる。なおこの蓄積リング建屋の中心部は開放空間になっていて、(拡大すればわかりやすい)リゾートのようなパラソルが点在する。実現したら実験に疲れたユーザーの憩いの場所になるだろう。

 

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Credit: NSRL

 

北京の光源は6GeV以上になることは確かだが聞くところによればスタデイへの要求が相当にきびしいということであった。HALSが2.4GeVとしたのは(筆者の個人的な意見となるが)bending magnetを使うTender X-ray分光利用では好ましいのではないかと考えている。というのも昔PFで、3GeV試験運転というのがあって、3GeVを使いこなすにはミラーをそれなりに準備(調整)する必要が生じたのと、(細かいことをいうと)0.5GeVエネルギーをあげただけでビームが荒れた印象があるからだ。そういえば加速器主幹が加速器運転の難易度がエネルギーの5乗に比例するといっていたので当時は納得したが今は時代が違う。3GeVに最適化されたMBAではこのような事態にはならず、次元が違う世界になるだろう。

日本では軟X線光源が3GeV光源にすり替えられ、また回折限界光源の具体化もいつのまにか遠ざかってしまった。2.4GeVHALSはTender X-ray領域に絞れば、意外と使いやすい回折光源になるかもしれない。

 

それと重要なことだが長い運転された施設にはカルチャーや持続的な発展しようとするDNAが発生する。それを守って将来計画を持ち続けることが重要だと思った。もしHLS-IIに満足していたらHALSは実現しなかっただろう。予算化チャンスは回ってくるのだから、計画をブラッシュアップし続けることが重要だと思う。更新はありえないとNSRLの職員も諦めていたが加速器グループは違った。

 

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