HHGによる高フラックス軟X線ビーム

大型施設(放射光)でしか得られなかった高フラックス軟X線がテーブルトップの短パルスX線発生技術のおかげで、実験室で得られるようになると、有機分子の電子の動的研究が容易になる。そのような時代がもう遠い未来の話ではなくなった。まるでかつて高嶺の花だったレーザーが急速に実験室に普及する「夜明け前の」時代のようだ。

 

軟X線領域のゲームチェンジャー

この軟X線発生技術は、高価で希少な大型施設の建設を待つことなく、世界中の実験室で高速反応の時間分解測定が可能になることを意味する。紫外光の外側にある軟X線が物質に照射されると、それは特定の原子に強く吸収され、他の原子には強く吸収されない。特に、水はこれらのX線に対して透明だが、炭素はそれらを吸収し、有機物や生物学的物質のイメージングが可能になる。

数千億円規模の自由電子レーザーなどの大規模な設備を建設すれば、短パルスの軟X線が発生できるが、インペリアルカレッジの研究チームは標準的な研究用レーザーを使用して高速かつ強力な軟X線パルスを生成することに成功した(Johnson et al., Science Advances 4 eaar3761, 2018)。これまでは、非常に短い軟X線パルスを実験室で発生することは困難であったが新しい技術で 100万分の1秒間の短X線のパルスが使えれば、電荷の移動や反応経路を決定する電子の動きをイメージングできる。

 

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Credit: Science Advances

 

鍵となる位相整合

この方法では、数100アト秒の軟X線パルスを発生することができるため、時間分解能の測定が実験室で可能になった。研究室軟X線パルスを発生させるには、位相をずらせてで光子を放出するように順番に励起して、位相空間で重ね合わせで強いX線パルスを作る。これを位相整合と呼ぶ。

しかし、このように軟X線を発生させようとすると、原子の雲の影響がレーザーを大きくぼかし、位相整合を乱してしまう。そこで研究チームは、薄い高密度の原子雲と短いレーザーパルスを用いた。これによって、光子が長距離にわたって位相を保つ短い軟X線パルスの効率的な生成が可能になった。

 

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 Credit: Science Advances

 

上図は基本的なレーザーの伝搬における (A)軸上のピーク強度(赤線)、イオン化を無視したピーク強度(赤色破線)、ガス密度(陰影付き領域)、軸上イオン化率(緑色の線)、および最終的な電子密度(紫色の線)は4バールの背圧の伝播方向に沿っている。 (B)時空間ガスターゲットの中心における軸上の基本的なレーザー場の構造を示している。

研究チームは高調波発生プロセスをシミュレートし、安定にX線を生成するための最適なレーザー条件を予測した。

インペリアル大学チームは、有機高分子材料、特に太陽エネルギー利用や水分解技術を研究する計画を立てている。現在使用されている多くの材料は、太陽光によって励起される電子のために、不安定であるか非効率的であるので、これらの電子の高速相互作用のより詳細な研究は、太陽電池および触媒研究の強力なツールとなる。

 

水の窓領域で過去最高のフラックス

この装置で発生する600 eVの光子エネルギーまでのアト秒パルスといわゆる「水の窓」(284〜540 eV)では従来の10倍高いフラックスが得られている。

高輝度軟X線パルスを目指すなら放射光を建設する必要がなくなるかもしれない。普及するには企業や組織の壁を越えて研究者を連携する必要がある。現時点では欧州のレーザー企業が有利な状況にある。やがては実験室が軟X線実験の拠点になることは予想に難くない。(軟X線を名目にした)建設が遅れるなら優位性が失われるリスクが出てきたことは、喜ぶべきことなのか悩ましい。

 

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