Q-weak研究チームが陽子の電弱精密測定に成功

標準モデルは綻びが出てきたとはいえ、素粒子物理学の理論的枠組みとしては現時点での教科書であることに間違いはない。 ただ暗黒物質の存在と大きな観測物質・反物質を説明することができないため、標準モデルの成り立つエネルギーは低すぎる考えられている。そのため標準モデルを超えた領域の物理探査には、 エネルギーフロンティアで直接検索し、精密フロンティアで間接検索(検証)することが必要となる。両者は相補的であるがここで紹介する陽子の弱電荷精密測定(電弱精密測定)実験は後者の代表である。

 

陽子の弱い電荷は、陽子が電磁気力から受ける電荷と似ている。この2つの相互作用は、電磁気力と弱い力を原子核と相互作用する単一の力の2つの異なる側面として説明する標準モデルでは密接に関係している。ジェファーソン国立加速器施設のQ-weak研究チームは、4つの基本的な力のうちの1つである弱い力の精密測定を試みている。この度、研究チームはプロトンの弱い電荷を高精度に測定することに成功した(The Jefferson Lab Q-weak Collaboration, Nature 557, 207, 2018)。電子-陽子弾性散乱から標準モデルで計算できるQpw=0.0710±0.0007との差を精密に測定できれば、それが標準モデルを超えた新しい枠組みの検証基準となる、というのが目的であった。

 

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Credit: The Jefferson Lab Qweak Collaboration

 

研究チームは陽子の弱い電荷を測定するために、液体水素を含むターゲットに強力な電子ビームを照射し、このターゲットから散乱された電子を精密な測定装置で検出した。 この実験のポイントは、ビーム内の電子が高度に偏極していることである。加速する前の電子のスピンはビーム方向に平行または逆平行に揃っている。偏光方向を逆転させて測定した結果、2つのビーム偏光状態の極めて小さい差(1000万分の2程度)が測定された。

 

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Credit: The Jefferson Lab Qweak Collaboration

 

実験の原理は縦に偏光した電子ビームを 液体水素ターゲットに照射して飛散する電子を、8個の方位角対称溶融シリカ 検出器で計測するもの(上図)である。

実験によって陽子の弱い電荷は、Qpw= = 0.0719±0.0045であることが判明した(注1)。これは、既知のすべての素粒子に作用する力を考慮した標準モデルの予測と良く一致した。陽子の弱い電荷はこのモデルで非常に正確に予測されるので、実験結果は、これまで観察されていなかった重粒子の予測、例えばヨーロッパのCERNでのLHCや将来のFCCなど高エネルギー粒子加速器によって発見される可能性のある素粒子の予測ができるようになると期待されている。

 

(注1)同じ研究チームの2016年の論文ではQpw=0.064 ±0.012で遥かに誤差が大きかった。

 

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Credit: Nature

 

Q-weak実験の結果は、非常に異なる基本粒子の特徴を逆転させることができる仮想粒子であるレプトクォークに制限を与える。10年以上に渡る慎重な実験を積み重ねた研究グループは、標準モデルを超えた物理学の探求が絞り込まれたことも意味している。Q-weak実験は、エネルギーフロンテイアの加速器を補完する貴重な成果をもたらした。

この成果は同時に国際研究チームの協力を支える10年以上のコア予算継続が不可欠であるエビデンスになる。

 

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