アミロイド線維のフェムト秒コヒーレント回折〜XFEL単分子構造解析

XFEL光源の登場で、アルツハイマー病およびパーキンソン病のような疾患の特徴である、大型の糸状生体分子のクラスであるアミロイドの構造研究が可能となった。 この分野で世界的な権威であるヘンリー・チャップマンが率いる国際研究チームは、強力なX線レーザーを使用してさまざまなアミロイドサンプルの構造を調べた(Seuring et al., Nature Comm. 9: 1836, 2018)。

 

アミロイド線維からのX線散乱は、1952年にRosalind FranklinがDNAから得たよく知られている2重らせんの発見につながった回折パターンと類似したものが得られたが、対象の質量も時間スケールも大きく異なる。

フランクリンのX線管よりも数兆倍も強力なX線レーザーは、アミロイドフィラメントの成分である個々のアミロイド線維を調べることができる。しかしこのような強力なX線ビームを使用すると、小さなフィブリルからの信号は、背景散乱に埋もれてしまう。グラフェン超薄膜はこの問題を解決し、サンプルの回折パターンを背景散乱と区別して記録することができる。

 

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Credit: Nature Comm.

 

アミロイドは、数千の同一のサブユニットからなるタンパク質の長い、規則的な鎖である。アミロイドは、神経変性疾患の発症において主要な役割を果たすと考えられているが、近年、より多くの機能性アミロイド形態が同定されている。例えば、エンドルフィンは、脳下垂体にアミロイド線維を形成することができ、その周囲の酸性度が変化すると個々の分子に溶解する。

アルツハイマー病に罹患した患者の死後の脳に見られるような他のアミロイドタンパク質は、脳内にアミロイド原線維として蓄積し脳機能を損なうと考えられている。アミロイド線維の形成と構造の役割を理解することは神経変性疾患の理解につながる。

 

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Credit: Nature Comm.

 

研究チームは、米国のSLAC のLCLSを使用して実験を行った。問題は、フィブリルとして知られているアミロイドの鎖が結晶として成長することができないため、一般のX線構造解析が使えない。個々のアミロイド線維は数ナノメートルの厚さしかないので、X線回折強度が弱すぎるのである。そこで通常は、フィブリルを互いに平行に並べて、それらの信号が重ね合わす。しかし、これでは、回折パターンの位相情報が失われ、個々のフィブリルの情報が失われる。

そこで個々のアミロイドをキャリア流体に懸濁させる代わりに、グラフェンでできた超薄型固体担体上に置いた。グラフェンは、原子の薄い単層であり、キャリア液の散乱と異なる鋭い回折パターンが背景になる。またその規則的な構造によって、タンパク質原線維が同じ方向に整列する高配向サンプルが得られる。

 

この方法は50個未満のアミロイド線維から回折パターンを得ることができるので、構造的差異がより明確に現れる。LCLSの高輝度ナノビームでタバコモザイクウイルスのサンプルについても、評価実験を行い、ウイルスに関する構造データが実際に0.27ナノメートル(ミリ秒単位)の精度で得られた。これは、ほぼ単一の原子スケールの分解能に相当する。

ホルムボンベシンで作られたエンドルフィンおよびアミロイド原繊維からなるはっきりと小さいアミロイド原線維の実験でも、0.24ナノメートルの精度が得られた。チャップマンによれば、フランクリンと非常によく似た実験ではあるがXFELで感度が単一分子レベルに到達したという。

 

ドイツのDESYグループは放射光とXFELの構造解析でも世界の先端にいることは不思議ではないが、先駆的な実験はLCLSが引き受ける。ドイツと米国が協力し合うことで当たり前のように世界初の実験が生み出される。背景にあるのはドイツにおける蛋白構造解析のステータスの高さではないかと思う。薬事会社が経済の一角を引っ張るからなのかもしれない。近くドイツのバイエル社は米国モンサントと合併して世界最大の薬事・農薬企業が誕生する。

 

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