NSLSIIの放射光オペランド実験のポテンシャル〜Li-Sバッテリーの研究

放射光オペランド実験については記事を書いているが、この論文は数多いその手の仕事の中でも「お手本」のように、見事に放射光の威力を証明するものの一つと言えるだろう。ここでの実験はもちろんLiイオンバッテリーで、舞台となるのはブルックヘブン国立研究所の放射光NSLSIIである。

 

Li-Sバッテリー

リチウム - 硫黄(Li-S)バッテリーは、世界中で研究開発されている高性能Liイオンバッテリーである。Li-Sバッテリーの理論上のエネルギー密度は、最新のリチウムイオン電池に比べて5倍以上のエネルギーを蓄えることができる。

しかしせっかく蓄えたエネルギーを取り出す導電性が不十分だと発熱し、エネルギー効率が悪化するなどの問題を解決する必要がある。これは硫化銅(CuS)、二硫化鉄(FeS2)、二硫化チタン(TiS2)などの導電性金属硫化物を硫黄電極に添加することで改善することができるが、副作用として金属硫化物に依存する個別の問題が生じる。

NSLSIに近いストーニーブルック大学の研究チームは、様々な研究手法を相補的に用いるオペランド実験(下図A)で金属硫化物添加物、硫化銅(CuS)の構造および化学変化を追跡した(Sun et al., Scientific Reports 7:12976, 2018)。構造情報を収集するためのX線粉末回折、元素分布の変化を可視化するX線蛍光イメージング、およびX線吸収分光法が用いられた(下図B)。

 

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Credit: Scientific Reports

 

パフォーマンス向上のための添加剤の探索

CuSは、硫化金属添加物の中でも、その高い導電率およびエネルギー密度の観点から有力候補である。これまでの研究では、硫黄のみの電極にCuSを添加すると、CuSがより導電性で電気化学的に活性であるため、電池の放電容量が向上することがわかっていた。しかしハイブリッドカソードすなわちS/ CuSカソード(正極)は、Cuイオンが電解液中に溶解し、最終的にリチウムアノード(負極)上に堆積し、アノードと電解質との間の界面層を破壊してしまう。

研究チームはまず、3つのX線技術と完全に互換性のある電池セルを設計し、NSLS-IIの3つの異なるX線ビームラインでオペランド実験を行った。このセルでは両方の電極を測定できるだけでなく、光学的に透明であり、研究者がビームラインでのインライン光学顕微鏡検査および位置合わせを行うこができる。

 

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Credit: Scientific Reports

 

またオペランドX線粉末回折(XPD)を使用して、ハイブリッド電極が放電する際の構造変化を研究した。 NSLS-IIのXPDビームラインは、Li-S電池を含む電池反応を研究するのに役立った。XPDデータはまた、反応生成物が結晶ではなく、回折ピークがないことを示している。

XAS実験は、完全に放電した後のCuSが還元されたことを示している。また、CuSの溶解とアノードへの再堆積の可視化はサブミクロン分解能X線分光ビームラインでオペランドX線蛍光(XRF)イメージングが行われる。これによってバッテリ内の分布、およびその分布がどのように展開されたかをイメージ化することができた。

 

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Credit: Scientific Reports

 

硫黄-CuSハイブリッド電極の結晶相の成長と、放電中にCuSがどのように溶解するかがイメージングではっきり示された。放電の初期にはカソードの硫黄は完全に消費され、LiS3、LiS4、最終的なLiS8までポリサルファイドが生成する。次に、ポリスルフィドは非結晶Li 2 S 2に変換され、さらに結晶Li 2 Sが形成される。最終的に形成される非晶質CuSは、ポリスルフィドと反応し Cuイオンは電解質中に溶解し、そこで電解質は陰極から陽極に移動する。アノード表面上には様々な銅化合物が析出し、その直後にセルが破壊される。

 

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Credit: Scientific Reports

 

この研究では放射光源の性能はもちろん、マイクロイメージング、XPS/XASなどの手法のオペランド(電気化学的)実験設備が必要となるが、従来はビームライン、ステーションごとに別れていたこれらの手法を一箇所であるいは近くでユーザーが同時にあるいは時間的に接近して、実験できる運営方法が鍵となる。

放射光の性能の追求することだけではなく、測定系の整備と戦略的運用方法が重要であることを認識すべきだろう。NSLSIIは光源の最先端に位置するものでは無いが、ビームライン光学系や測定器開発と組み合わせた総合的なオペランド実験では世界の先端にあるのではないだろうか。

 

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