欧州が圧倒する大強度レーザー科学の背景〜米国の復権はあるか

ここで紹介する話はレーザー科学(研究開発)に関する格差についてであるが、筆者はレーザー科学だけではなく、放射光を含む加速器一般についても成り立つかもしれない危機感を持っている。実際に第3、第4世代の放射光施設の多くが、欧州に集中している。大強度レーザーに代表される大型研究設備が欧州に偏っている現状を紹介しその理由を探って見たい。

 

欧州が大強度レーザー分野を圧倒

最新の調査で明らかになった大型大強度レーザー施設の欧州の優勢に米国エネルギー省が危機感を抱いて、バークレー研究所のBELLA(Berkley Lab Laser Accelerator)という開発センターを拠点にして、レーザープラズマ加速器のR&Dに乗り出すこととなった。このプロジェクトは「第2次レーザー革命」の看板を掲げた大強度レーザーのR&Dで欧州に追いつくことが目的である。

 

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Credit: "Opportunities in Intense Ultrafast Lasers: Reaching for the Brightest Light "

 

3極の格差が拡大

上図に大型大強度レーザー施設の出力総和を米国、アジア、欧州の3極に分けて示した。この図から米国の非力さ(というよりは欧州の圧倒的な優勢)が明らかである。似たような状況は第4世代と呼ばれる最先端の放射光施設にも成立する。一体いつ頃から欧州に先端施設が集中するようになったかは、EUの成立と長期的なビジョンの素で進められる科学技術予算計画と無縁ではないが、その背景に優秀な人材の流動性にあると筆者は考えている。

米国エネルギー省は大型大強度レーザーR&Dには政府系研究所、大学、企業連携強化が不可欠であると考え、そのためには限定した研究機関へに集中投資だけではなく、大規模な関連研究組織の連携と産官学間の技術交流が重要だとしている。エネrギー省管轄の研究所間の連携としてはミューオン2と呼ばれるミューオンg因子の精密測定プロジェクトがある。このプロジェクトはブルックヘブン国立研究所で6年前にスタートしたが、最終的な実験はフェルミ研究所の円形加速器にアルゴンヌ国立研究所が磁場更正に協力して、最終段階にこぎつけた。

 

かつて日本で叫ばれた「産官学連携」は死語になりつつある。一方で危機感を持った米国が産官学連携の必要性を訴える背景には、欧州が(研究のパイオニアであった)米国をレーザーR&Dで抜き去った要因の一つに組織連携と研究人材の流動性があるという分析があるのだろう。

また欧州の先端施設では必ず開発の核心テクノロジーを持ってスピンオフが起業し、技術の普及を加速している。しかしその性格は米国のシリコンバレーとは大きく異なり、営業利益優先ではなく、母体となった研究所のインフラを分担し協力する。ちなみにテクニシャンの少ない日本では研究者がR&Dを分担せざるを得ないし、米国では研究所のワークショップのテクニシャンを活用せざるを得ない。研究機器の進展に伴いクロスオーバー的要素が増えたため、これらの特殊な環境が研究の足かせとなることが多くなったように思える。

 

一方、欧州はR&Dを(いわゆる外注でなく)スピンオフ企業が分担する別のアプローチをとる。また研究者の流動性が高ければテクノロジーの流動性も高まる。少々脱線するが、研究者が仕様書を書き入札企業が契約してからR&Dに取り掛かるのでは遅いし非経済的だ。研究所からのスピンオフ企業が装置のR&Dを請負って、契約することができると歯車が無駄なく噛み合って研究効率も経済性も上がる。独法化しても公開入札にこだわる理由が理解しがたい。

 

米国加速器の復権をかけたBELLA

名前の通りBELLAはレーザー加速器の研究開発に特化した研究組織で、その目的は高エネルギー衝突実験や放射光の加速器の限界をコンパクトレーザー加速器で打破することにある。それが第2次レーザー革命なのである。また調査報告ではこれまで特定の(つまり加速器関連の)研究所に集中していた研究人材が広範囲の研究所や大学に分散している現状を踏まえ、分散した(ユーザーを含む)研究人材を連携・統合する研究環境(プログラム)の必要性を提言している。

すでにレーザー加速に関する研究に先駆的な実験をはじめとして数々の実績があるBELLAはR&D拠点となる。BELLAは高エネルギー実験への応用も視野に入れたコンパクト加速器の実現に向けてのR&Dを目指している。下の写真は長さが9cmのレーザープラズマ加速器。

 

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Credit: BELLA

 

2014年には4.2GeVというコンパクト加速器の世界記録を達成し、10GeVクラスのコンパクト加速器を目指している。

企業におけるレーザー開発指針は平均出力の高さと超高速パルス性にある。これは学術的な方向性と工業用レーザーにとって共通因子であるためだ。高出力パルスの繰り返し速度をあげれば平均出力の向上になる。このため調査報告書ではピーク出力、繰り返し率、パルス長、波長などのレーザーの基本特性を明確にしてR&D目標とすることを提言している。

BELLAのレーザーは2012年にペタワットの世界記録を樹立して以来、繰り返し率をkHzクラスの1,000/秒を目指している。レーザー加速器の実用化には10,000-100,000/秒のサブMHzクラスが必要とされるため、それでも十分ではない。

新計画ではBELLAに光子ビーム同士や光子ビームと電子ビームの衝突実験のための第2のビームラインを追加する。その他に低エネルギー電子ビームの加速器開発も予定されている。レーザープラズマ加速器の実用化に必要な高い平均出力のレーザーが実現すれば、欧州との格差是正になるばかりでなく、SSC 中止以来失われた加速器科学の優位性の復権となるかもしれない。

 

ELIで欧州の優位性は保たれるか

しかし欧州はすでに大出力レーザー施設ELIの建設が始まっているので、この分野の競争は激しくなるだろう。ただし競争と言ってもELIには米国リバモア研究所の技術が使われていて、欧州の研究組織の強みは人材と技術を国境を越えて集める国際協力の寛容さにあるだろう。一方、アジア(日本)でも大強度レーザーの国家プロジェクトが予定されているときく。しかし機器開発の根幹は研究人材の活用で全国的な研究者の連携で流動性を高めなければ、欧州との格差が簡単になくなるとは思えない。予算がつけば動き出すといった受身的な発想でなく、研究組織を越えた研究人材の連携と流動性が問われているように思える。

 

Layout of the ELI Beamlines facility The laser systems including oscillator front

Credit: ELI 

 

欧州の圧倒的な優位さの背景にあるエンジンが(若い世代の)人材の流動性なのであれば、日本にもまだまだ改善の余地は残されているのではないだろうか。国境を越えて意欲のある(若い世代の)研究者を集め、長期的ビジョンで予算を集中する。LHCの持続性も放射光もレーザープラズマ加速器も同じ手法が功を奏した結果なのかもしれない。日本においては少なくとも研究所や組織の壁を低くして研究人材に流動性を持たせたい。

 

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