ICFA のILC早期実現を奨励と予算削減
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- カテゴリ: 放射光/加速器科学
- 作成日:2017年11月11日(土)13:55
- 投稿者: Hiroyuki
「国際将来加速器委員会(ICFA)」は、いわゆる「ヒッグス・ファクトリー」として250ギガ電子ボルト(GeV)で運用する国際リニアコライダー(ILC)の建設を支持する声明を発表しました。声明の中でICFAは、ILC計画を継続的に支持するとともに、ILCを日本のイニシアチブによる国際プロジェクトとして、時宜を得て実現をすることを強く奨励しました。
以上、ILC通信より(声明全文の日本語訳あり)
ICSFのILC建設推奨とは裏腹に全長31kmの当初計画から20kmに短縮して経費を節約する計画である。これまでILCの建設費用の半分が誘致国の出費となるため、経済効果と天秤にかけられた結果、各内外の強い要望にもかかわらず政府の決断が得られなかった。
新計画では20kmのトンネルを掘削して直線加速器を設置、その後アップグレードとして30km、最終的に50kmに延長する。
一方でCERNは円形加速器LHCの拡大版であるFCCの建設を前倒しで進めることになった。ILCとFCCの計画推進は中国がWang教授のリーダーシップでLHCを上回る大型円形加速器を建設する動きに危機感をつのらせた結果と解釈されている。
しかしILCの全長を切り詰めることはエネルギーを下げることになり、建設費の30%節約以上のサイエンス製菓の損失を招くとの見方もある。CERNはFCCでエネルギーフロンテイアの座を譲らなくて済むが、ILCはサイエンスに制約ができることは避けられない。
文科省の最終的な誘致決定は2018年とされている。それにしてもTDR(下図)にこぎつけたということは加速器の設計が済んで、あとは予算待ち、という最終段階であるので残念だが、政府が決断を控えた背景には債務超過でも優先せざるを得ない予算確保のためと、経済効果の評価の違いのためなのだろう。苦渋に満ちた計画変更だが少なくとも狙うサイエンスと当初計画とアップグレードでそれぞれどうなるか、を打ち出すことと経済効果の精度をあげる必要がある。
Credit: ILC
追記
ここまで書いて、気になる点を以下に追加するが、個人的な印象になる点をお許し願いたい。
まず計画縮小案(予算減)の打診に対して、ILC国際交渉担当者は「縮小案でもやれることはたくさんあります」、という回答をしたそうだが、これは逆手に取られる危険性がある。「予算縮小してもそれなりの成果を出せる」というと省庁は、待ってましたとばかりに、「ああそうですか、ではこの額でやれますね」となる。しかし、「全額つかないと何もできない」と強気になれば、今度は「予算化はなくていいですね」となる。
苦渋の決断だと思うが、計画縮小でも成果が出るなら、「閉塞状態を脱して一歩前に進む」ことを選択したことは間違いではないものの、LHCのように「資金が流れ込む」仕組みをつくれなかった点は残念だ。
しかしもっと気になるのはICFAの今回の決断が、FCC前倒しの動きが強まる中で起きたこと、である。FCC参加国に配慮した結果であるならば、なぜその前のILC建設がFCCに先立って建設する必要性を、各国にアピールしなかったのか残念な気がする。参加国には財政難で完全版ILCとFCCの予算時期のオーバーラップが負担になっている国があるのではないだろうか。そこまで調査していなかったとなれば、戦略不足だった。
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