中国が放射光でも列強入り〜満を侍して北京光源に着手

すでに中国経済は減速しつつあり為替レートにも影響が出始めているのだが、不動産・土木建設バブルは急に止めれば成長に大きくすぐには止められないのが現実である。行き過ぎた高層ビル・アパート建設ラッシュは地方自治の汚職の根源となり、近年規制が厳しくなっているが、それでも地方の中核都市は建設の手を緩めるどころか、さらに多くの建設予定地がひしめきあっている。

 

技術立国を目指す中国

その中で科学技術予算は技術立国を目指す中国にとって将来性のある投資であるため、近年、世界最大口径の電波望遠鏡など多くの「世界一」の規模の施設が中国に集中することとなった。中国の大型科学技術予算は例外なく中国科学アカデミーの狭き門を通らなければならない。加速器の世界でもLHC以降の巨大加速器の建設計画が中国に集中している。

加速器のひとつである放射光はどうか。意外にもこの分野では中国の予算化は極めて慎重でむしろ他の国に比べて建設の頻度は低い。筆者の滞在するNSRLは上海の3.5GeV光源SSRFと北京の高エネルギー物理研究所にある2.5GeVBSRFに挟まれたVUV光源である。中国の放射光はこの三箇所しかないがいずれもユーザーの需要が多く、光源の建設が必要であるにも関わらず、新光源の建設は進展が遅かった。

 

SSRFは上海の誇り

SSRFは中国唯一の第三世代光源で、地元のTV番組ではたびたび取り上げられる上海の科学技術のシンボルであるが、ビームラインは8本のみ。各実験分野で最低限必要なビームラインとなるが、内容的には世界の第三世代光源と遜色のないレベルの機器が揃っている。2004年から建設開始で電子の蓄積は2007年の12月というから4年で完成しているがビームラインの整備は後合わしであった。現在はエミッタンス3.9nmrad、ビーム電流200mAで主力マシンとして全国からユーザーが殺到している人気施設である。筆者の調査ではRFキャビテイがACCELのものであることを筆頭に多くの機器とソフトがSLSからの技術導入によるもので、洗練されたものに仕上がっている。つまりキャッチアップが早かったのは外国の第三世代光源の技術移転によるところが多かったせいだと思われる。

しかし新規ビームラインの建設はようやく第2フェーズが始まったが、2016年までに24ビームラインの新しい整備が計画されていたが、実際には13ビームライン建設が2015年から始まった。それらのビームラインにしてもユーザーの希望と先端性が丁寧に議論され、絞り込まれたことは他分野に比べても厳しい予算化だという印象を持った。私見になるがこれは中国のこの分野の研究者が育つ時間に合わせたのではないかと考えている。外国の施設で先端技術と研究手法を学んだ若い世代を中心としてその次の世代が自国に育つのを待ったと考えられる。

 

北京のBAPS

北京の計画に話を戻そう。上海のSSRFに性能的に先をいかれたBSRFも年間2000時間の運転時間を目一杯使って北部の大学・研究所ユーザーのX線実験に重要な役割は今も変わらない。中国の放射光コミュニテイは台湾も含めて学会活動では5施設(注1)の研究発表が一堂に介するのだが、注目すべきことは個々の施設の動向が逐次発表され、極めてオープンに将来の方向性が議論されることである。もちろん科学アカデミーの狭き門を通るのは競争が激しいから時には強い語調でまくしたてることも少なくないが、結局最後は同意があり和やかに各施設に帰っていくのである。

(注1)台湾には3GeVのTPS、1.5GeVのTLSというふたつの蓄積リングが一箇所(NSRRC)に存在する。TPSは最近完成した3GeV第三世代光源、TLSはあいちSRあるいは佐賀LSのような性格の蓄積リング。

 

北京光源の正式名称はBAPS(Beijing Advanced Photon Source)という。これまで謎の多かったスペックであるが以下のようにエネルギー5GeVのMAXIVタイプラテイスの第1案(下の表)の他に6GeVのESRFタイプラテイス(7BA)の第2案(2番目の表)がある。これまで関係者ははっきりしたことを言わなかったが、筆者に伝わってきたのは北京の計画は確実に予算化される、ということ。順番からいくと上海、北京、NSRLの順に予算がついていくそうだ。

 

BAPSQingQin

 

BAPSQingQin2

Source: Qing Qin (中国科学院高エネルギー物理研究所)

 

これらの案を比較すると第2案(2番目の表)では48pmradという世界最高のエミッタンス性能となる。前にも書いたが中国科学アカデミーの予算をとるには「世界一」であることが要求されることからすると、こちらの案が有望だが今日(2016.8.15)予算が取れて建設が2018年秋からスタートするということだった。スペックの詳細がわかったらまた報告したい。BAPSに予算がつくのは科学アカデミー直下の研究所であることからすれば、当然ともいえる。

仮に6GeVとなれば第4世代蓄積リングとしてアップグレード後のESRF、APS、Spring-8IIの3極に加わることになる。中国の放射光はそれでもコミュニテイの需要に応えられるわけではない。次はいよいよNSRLの次期光源の番が回ってくる。エネルギー2GeV、周長1000mの大型リングができればSSRF、BAPS、HALS(Hefe Advanced Light Source)の3リングのフル稼働により、この国のアウトプットは飛躍的に向上するであろう。

SSRFと異なりBAPSでは独自開発の加速器技術が使われる。この分野(放射光源)でもまた中国は列強の仲間入りを果たす。

 

 

 

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