第5の力で覆るとみられていた標準理論が復活か〜新素粒子確認できず

宇宙に存在するすべての物質は4つの相互作用で説明されてきた。4つの相互作用とは重力、電磁気力、強い相互作用、弱い相互作用である(注1)。しかし最近の大型加速器やカミオカンデの実験結果が4つの相互作用を基盤とする標準理論で説明できないことがわかると標準理論も絶対的なものとは言えなくなっていた。

(注1)重力は太陽など質量の極めて大きい場合に、その存在が重要になるもの。電磁気は物質の結合に重要な力、強い相互作用と弱い相互作用は原子核やその構成要素である素粒子に働く力である。

 

第5の力を実証したと主張するハンガリーの研究グループ

2015年にハンガリー科学アカデミーの研究者グループはリチウム7原子に陽子を衝突させて、電子の質量の34倍の質量の軽いボソンを見出し、第5の相互作用を検証したと主張した。ハンガリーの研究グループが正しければこれまでの宇宙物理が書き換えられることになる。4つの相互作用はこれまで発見された素粒子を矛盾なく説明出来る標準理論の基盤であったからである。しかし彼らの主張は「仮説」として無視されてきたが、最近になって米国のカリフォルニア大学の研究グループがこの結果を詳しく調べ、発表された論文の結論すなわち第5の相互作用が存在することを再確認した。

 

一方、2015年12月にCERNのLHC(世界最大の円形加速器)がヒッグス・ボソンの6倍の質量を持つ新しい素粒子を発見したことが非公式に伝えられた。標準理論では説明できないこの新素粒子の存在は標準理論を超える新理論あるいは暗に第5の相互作用の存在を示唆するものとして、世界的な注目を集めた。ハンガリーの研究グループにより第5の相互作用の実在が現実的になっていたこともあって、LHCでも4つの相互作用で説明できない素粒子が発見されたなら、より確実に標準理論の破綻が迎えたことが明らかになるはずであった。

そこで2016年4月から7月まで実験結果を再現する試みが始まったが、現時点で2015年12月の実験が再現できていない。LHCは13TeVという高エネルギーで陽子ビームを衝突させる周長27kmのハドロンコライダーで、ATLAS、CMSという独立した検出器を有している。2016年12月の実験では両方の検出器が750GeV(質量換算)(注2)を検出した。

(注2)崩壊で生じた2光子を検出する実験はγγと呼ばれる。粒子が崩壊して光子に変換される時、発生する光子(γ線)のエネルギーが粒子に対応する。4つの相互作用を仮定する標準理論の枠内には素粒子はないため、750 GeVに対応する確認できれば第5の相互作用を含む標準理論の拡張が必要となることが期待された。

 

実際にはこのピークの起源が新粒子でないとする意見も専門家の間では飛交っていたが、新素粒子発見を示唆する衝撃的な記事がメデイアに取り上げられて世界中に広がった。2016年の実験ではヒッグス・ボソンの6倍(陽子の800倍)に相当する質量を持つ新素粒子が検出されたとされるデータが下図である。標準理論には綻びが見え始めているとはいえ完全に覆すには至っていないが、ハンガリーの研究グループの第5の相互作用に関する実験結果が否定されたわけではない。

 

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Credit: ATLAS

 

素粒子の世界では3σの統計確度(上図)では新素粒子として認知されない。750 GeVに対応する質量が一つの素粒子でなく複数の素粒子である可能性を含む新理論も登場している。このような微妙なデータを前にするとルミノシテイを上げて再々度実験に臨みたいところであるので、LHCに託された課題はまだまだ続くだろう。今後10年間はLHCから目が離せない。

 

 

 

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