技術立国で経済を立て直す中国

中国の不動産バブルは頂点に達している。こぞって株に投資した一般の中国人が不動産に向かったため、林立する住民のいない高層マンションが所狭しと立ち並ぶ都市風景が中国全土に共通に見られる。鬼城と呼ぶ空き家マンションだけではない。日本と桁が違う規模の「箱物」も全土に建設され、農村から都会への大移動も経済の低迷で行き場を失い、排気ガスなど環境汚染と並び社会問題化した中国が新しい指導者でどのように弾けたバブルを処理して立ち直るか世界の注目が集まる。

 

 

中国は住宅バブル真っ只中

大学ランキングで北京大学に次ぐ上海の大学に通う若者に聞くと上海では住居を持つのは不可能だという。上海株価の低迷にも関わらず住宅価格は高騰しているからだ。開発が進む他の中核都市の大学でも同じ答えが返ってくる。富裕層である大学教授ともなれば高層マンションを複数所有しているのに、若い世代や農村から移り住んでくる働き盛りの人たちには手の届かない世界だという。一時的に落ち込んだ住宅価格は上海、北京などの大都市では(株価と相反して)急騰した。つまり経済は減速に転じているが不動産バブルは続いている。

その中国に不動産投資と軍事開発一辺倒から脱却し技術立国を目指す兆しが見られる。中でも宇宙、加速器、原子炉は積極的な姿勢が明らかな分野である。習近平は「宇宙強国」を目指している。

 

宇宙開発

習近平の肝いりで2020年前後をめどに独自技術で宇宙ステーションを開発する。具体的には2016年に宇宙ステーションや月面探査機を打ち上げるロケット(長征5号、長征7号)を開発し、打ち上げる。宇宙実験室「天宮2号」、宇宙飛行士2名が乗る有人宇宙船「神舟11号」を順次打ち上げ、ドッキング技術を開発する。

続いて2017年には宇宙での長期滞在を目指し燃料・食料など物資を運ぶ貨物ロケット「天舟1号」を打ち上げて「天舟2号」へ補給を行う。2018年に宇宙ステーション本体を打ち上げ、拡張し2020年前後に宇宙ステーションを完成する。一方、月探査も2017年には無人探査機「嫦娥5号」を打ち上げ、月表面に着陸して調査を行い月面サンプルを持ち帰る。また2018年には月の裏側の探査を世界に先駆けて行う。

これらの計画を行う予算は全人代で採択された2016-2020年度の「第三次5カ年計画」に盛り込む。計画全体では今後5年間の宇宙ロケット打ち上げは110回に及ぶ。宇宙開発は材料開発や真空、電子制御など先端技術が一気に開発されやがて民間に一部が流れ、雇用を創出するなど社会的インパクトが大きい。またロケット技術は軍事に転用すればミサイル開発となる。社会基盤として総合的な影響力の大きい宇宙産業への投資が不動産にとって変わることは、雇用を作り経済低迷を脱出する手堅い施策となる。

 

加速器

現在、素粒子物理実験の先端はエネルギーフロンテイアにある世界最大の円形加速器LHCである。2012年に「神の粒子」ヒッグスボソンを発見した。その勢いでほぼすべての加速器をアップグレードし、エネルギーを倍増して今度はヒッグスボソンを超える新しい素粒子の発見で、標準理論を葬り去ろうとしている。

LHCは周長27kmの陽子陽子衝突実験のための円形加速器である。しかし粒子ビームの性能にこだわれば円形加速器より直線加速器の方が優れているとして日本を中心としてLHCの次の加速器は超伝導空洞を用いる直線加速器ILCを推進している。日本は北上山地への誘致に向けて積極的であるものの1兆円を超す建設費の大半を負担しなくてはならないこともあり、学術会議は時期相承として事実上、凍結している。

LHCで最後と思われた円形加速器であるが、中国はILCの次の電子陽電子衝突型の円形加速器(Circular Electron Positron Collider, CEPC)の建設に着手した。中国科学技術院の計画では2016年度にCEPCの設計を終えて、2021年度から2027年に建設する。2027年度からCEPC運転開始としている。電子と陽電子衝突によりLHCよりヒッグスボソンの収率は飛躍的に向上する。CEPCはLHCの周長の2倍で、エネルギーもアップグレード後にLHCの倍となる超大型円形加速器である。

そのため「ヒッグスファクトリー」とも呼ばれる電子陽電子衝突マシンをILCを改造するもしくはLHCのトンネルを使うなどの提案がなされていた。CEPCの建設費は中国得意の安価なトンネル掘削のため、ILCの半分程度であるという。

中国の加速器、核開発といえばこれまで先進国からの技術流入と人材教育に頼っており予算の制約もあって世界の先端から距離のある存在であった。しかし技術立国を目指す上で加速器技術も裾野が広い産業への影響力の大きい分野である。中国はそこに目をつけた。

 

原子炉

中国は高度成長によって電力不足が深刻になった。原子炉の開発と建設、輸出に力を入れる理由は、自国の電力不足を解消するためと途上国の原子炉需要に目をつけて高速鉄道と並ぶ輸出で利益を得るためである。

現時点で稼働中の原子炉は太平洋岸にある22基で26基が建設中である。宇宙強国と同じく第三期5カ年計画(2016-2020年)に盛り込まれた原子炉建設計画では毎年6-8基の原子炉を整備することにより、約40基が追加されて110基体制を2030年間でに達成するとしている。

新たに建設される原子炉は安全性の高い第三世代で自国技術による新型原子炉を途上国向けに輸出することも並行して行う。中国は自国の技術による原子炉と並行して米国の第3世代PWR、ウエスチングハウス(東芝)のAP1000、欧州型原子炉EPRも設置して新技術、(特に安全保証に関して)の習得にも熱心である。

一方、英国に原子炉を売り込むことにも成功し、国営化されたものの資金難に苦しむアレヴァを統括するフランス国営電力企業と共同でフランスと英国に建設中のEPR完成を支援するなど習近平のトップ外交により輸出が好調になっている。しかし中国の技術に対して高速鉄道の脱線事故や2015年の天津爆発事故などにより、技術的問題が懸念されている。

また原子力規制や原子炉運転に経験の少ない中国が原子炉を同時に多数建設することへの不安は大きい。原子力産業の重要な課題は技術者の養成だが中国は運転を急ぐあまり経験や知識のない技術者に任せることが批判の対象になって入りる。そのことを中国政府も認めており人材育成も計画的に推進しつつある。

 

人材育成

原子力を含む重要な技術開発分野の育成のため、中国は計画的な人材養成プログラムを持っている。そのなかで「百人計画」、「千人青年計画」というものがある。筆者は中国のある研究会議に招待された際にホストが「百人計画」で選出されたといって自慢していたし、会議では「千人計画」で選出されたという肩書きの若い研究者が活発に登壇していた。彼らと話をする機会があり「千人青年」たちが優秀であることは実感できた。欧米への対抗心とは裏腹に研究開発現場では「欧米化」が行なわれている印象であった。

現実に(不安要素があるものの)中国の原発輸出が拡大している背景には、福島や911の影響で原発建設計画に安全保障が重くのしかかりオーバースペックでコスト高騰となっているからである。高価な原子炉は建設が挫折し一方で安い原子炉を途上国が求めている。今や原発建設には技術的優位性より国家によるトップセールスと金融支援が欠かせ亡くなった。経済低迷という現実だが、こうした支援がまだ可能なのが中国だけであることから、先進国が苦しむ中で一人勝ち状態担ったのである。

人材育成プログラムが間に合うのか安くて危険な原子炉が事故を起こすのが先に来るのか予想もつかないが、中国が不動産バブルから足を洗って技術立国を真面目に目指すのなら日本にとって脅威となるだろう。現時点では稼働中の原子炉は全て太平洋岸に面しているが、奥地の開発が進み温室効果ガス規制が強まれば汎用原子炉を地震の多い奥地に建設しなければならなくなる。その時こそ技術立国の夢が叶うか原子炉事故で取り返しのつかない汚名を着るのかはっきりするだろう。

 

 

 

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