ビルゲイツが東芝と協力して進めるTWRに中国が資金援助

ビルゲイツは世界一の富豪でビルゲイツ財団を率いて多くのハイテク環境起業を援助している。そのゲイツが最も力を入れているのが自身がオーナーであるテラパワー社である。テラパワー(TerraPower)社はTWR(Traveling Wave Reactor)と呼ばれる聞きなれない名前の小型原子炉を販売することが目的である。

 

 

ビルゲイツの主張は以下のような骨子である。世界中のCO2発生量(TCO2)は簡単に示せば、TCO2=P(人口)・S(サービス)・E(エネルギー)・C(CO2排出量)で表せる。Pの項は増加の一途をたどり、2050年には倍増する。Sは社会が各個人に提供するあらゆるサービスで生活の質は向上の一歩をたどっていてこの項も増大する一方である。個人消費エネルギーも増大する一方である。最後に残るCO2排出量だけがゼロエミッション化できる因子となる(注1)。したがってゼロエミッションのエネルギー源を作り世界(特に後進国)に供給することによって、CO2排出総量をゼロにして、人々を豊かにすることができる。そのための技術がTWRだ、というものである。

(注1)地球温暖化を疑問視する専門家の意見は多い。また気温上層とCO2排出量(大気中濃度)の関係は成り立つとしても主客逆転の説もある。CO2排出量規制の意義についてはまだ科学的議論・吟味の余地がある。

 

少々荒っぽい理屈であるが、原子力エネルギーのメリットとしてベース電源としての安定性とCO2排出量が少ない点が挙げられる。実際には使用済み核燃料の再処理や運搬、貯蔵などのインフラを含めれば、そのアドバンテージは低くなるのだが、化石燃料の発電に比べて優位性を主張する人々はこのことには触れず発電所の比較でCO2排出量の少なさをアピールしてきた。

テラパワーが開発中のTWRとはどのようなものなのだろうか。BWR、PWRなどの軽水炉の燃料はよく知られているように臨界に達しない低濃縮ウランではない。濃縮工程で大量に生じる劣化ウランすなわちU238の同位体比が天然より多い、逆に言えばU235を集めて残ったU235成分比の低いウランである。

 

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Image: Visual News

 

TWRの原理はこの劣化ウランをカートリッジに詰めて反応フロントが徐々に移動していき(このためTraveling Waveと呼ばれる)、密封されたカートリッジの終端に達するまで、メンテ不要で熱源となる原子力バッテリーのようなイメージである。東芝の次世代高温炉「4S」では燃料交換なしで30年間1万kWの出力が得られるものである。4S技術の一部をTWRにも流用できることから東芝とテラパワー社は協力関係にある。しかしテラパワー社単独で開発資金を集めるのは難しく、訪米した習近平によってテラパワー社への中国からの資金援助の交渉が決まった。

テラパワー社のTWRは1-10万kWで1000kWクラスである軽水炉の1/10以下の小型原子炉となる。米国では小型原子炉の開発はロスアラモス研究所のスピンオフ企業が提案しているが、それよりもテラパワー社TWRは大型となる。

しかし最大の疑問は捨ててしまう劣化ウランをどうやって核反応を起こさせるのかということだろう。原子力利用のボトルネックは実は燃料のウランの燃焼効率が悪い(5%程度)ことと限られたウランの埋蔵量で安定供給に不安があることである。U238の核反応は中性子衝突により開始される。U239のβ崩壊により最終的にはPu239となる。ここで最初の反応を起こすためには「種火」が必要でその時だけU235の核反応を起こすのである(下の図)。核反応を円筒状のカートリッジ断面の2D領域で起こすことによりその面が燃え尽きると次々に反応面が移動していくようにしたい。しかし最初の「火種」のU235の核反応を使い発生する中性子でU238の核反応を起こすのは極めて難しい。

 

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Source: TeraPower

 

ビルゲイツの計画ではまず実証炉を開発し有効性を示すことだが、技術者を集めることはできた段階で、実証機の開発に資金がいる。中国の力で資金問題が解決したことで設計・製造に。この実証炉で使用済み核燃料や濃縮過程で生じる膨大な劣化ウランが燃料に転用できることが立証されれば、批判にさらされて弾みがついたと思われる。核廃棄物を再利用できるTWRで原子力利用への風当たりが変わるとしている。現時点で北米だけで核廃棄物は700,000トンにのぼるが、これらの廃棄物の大部分が再利用可能になれば、ほぼ無尽蔵とも言える原子力エネルギーを手にすることになるからだ。

TWR実証炉の完成には2010年時点で後10年かかるとされるが、すでに半分が過ぎようとしている。資金も手に入れたなら実証試験が近いと期待しても良いはずだが今の所その発表はない。

TWRは最終生成物がPu239であることが問題でもある。なぜなら世界中にTWRが販売されるということは、米国が最も恐れてイランを目の敵にした水爆製造につながる核拡散に他ならない。従って燃料カートリッジの回収を行い貯蔵しなければならない。その場合、Pu239の半減期は2万4千年なので数万年の地下貯蔵庫を安全に管理する必要がある。もしビルゲイツが本当にTWRを普及させたかったら、燃料カートリッジ回収・貯蔵事業も起こす必要があるのではないか。

 

travelling wave reactor

Source: aetherwavetheory

 

上記のカートリッジが60年間安全な容器になるのかも気になるところである。東芝の「4S」、日立―GEの「PRISM」の研究開発も進んでいるので、後10年もすればより安全で使い易い原子炉が登場するだろう。人類は少し原子炉の商業利用を急ぎすぎたのかもしれないが、そのためにP・S・E・Cの全ての因子が加速されCO2排出量が増えた。コスト優先で完成度の低い状態で市場に出したことの代償は大きかった。完璧な装置は存在しないことを頭に置いた上で、原理的に優れた代替え方式があるなら再チャレンジする価値はあるのかもしれない。

 

 

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