ITERと別の道を歩む核融合研究

核融合は核分裂と異なり、原子炉のように高レベル放射性廃棄物をださないことから、原子力に代わる代替えエネルギーとして期待されている。また核融合のもうひとつの重要なメリットはプルトニウム製造に結びつくことによる核兵器の製造への道が閉ざされていることもある。

 

そのため各国の国立研究所で研究開発がさかんであるが、ロッキード・マーテイン社のような巨大企業から小規模なベンチャー企業にいたるまで、民間企業も開発に乗り出している。核融合は英国では13歳の少年が核融合装置を自作して中性子を発生して話題になったほど、現代の「錬金術」のように扱われる科学技術である。無尽蔵ともいえる燃料(水素同位体)で無限のエネルギーが安全に手に入るとなれば高まりつつある注目度は容易に理解できる。

試行錯誤の実験の結果、国際コミュニニテイの研究手法はふたつに絞られることとなった。トカマク型に代表されるプラズマ閉じ込め方式とレーザー圧縮方式である。フランスで建設が進んでいる国際協力プロジェクトITER(トカマク型)が核融合に最も近い存在と考えられているが、レーザー圧縮方式が日本の核融合研究所や米国のローレンスリバモア国立研究所で進められている。

もっとも起こしやすい核融合反応は二重水素(D)と三重水素(T)の「水素爆弾」型核反応であるが、1億度以上のプラズマ温度を持続するのが最大の難関である。

D + T ->4He + n

ヘリウムの運動エネルギーは3.5MeV、中性子(n)は14.1MeVで後者を容器の外側にあるブランケットでそう受け止めて熱エネルギーを利用するかが発電の技術的課題となる。実際にはプラズマの到達温度と保持時間は点火条件を満たさない。トカマク型が高温達成の最先端にいるものの、ヘリカル型炉も日本やドイツなどで進められているほか、中国も独自の核融合炉を開発しており、民間も含めると王道とされるトカマク方式プラズマ閉じ込めやレーザー圧縮方式、それ以外にも様々な方式の研究開発が進められているので、そのなかでもダークホースを狙う3装置を紹介する。

 

ドイツのステラレータ型核融合炉

W7-X(Wendelstein 7-X)はマックス・プランク・プラズマ物理研究所が建設したステラレータ型核融合炉で、2014年に組み立てが完了しいよいよ2015年に最初のプラズマが導入される。

国際コミュニテイがITERに収束した現在、ドイツが独自に開発したヘリカル型核融合炉の特徴はプラズマ閉じ込めに独特な「ねじれ磁石」を採用したことである。これまでのヘリカル型炉はドーナッツ状のプラズマを円筒形のコイルで囲む単純な構造で、そのため大学や研究所で建設が容易であった。これに対しいW7-Xの「ねじれ磁石」方式はステラレーター型(注1)と呼ばれる。WX-7が稼動すれば世界最大のステラレータ型プラズマ閉じ込め装置となる。

 

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Source: Max-Planck Institute

 

ヘリカル型とトカマク型は磁場閉じ込めでプラズマを逃さないようにしながらRFパワーを入力して高温プラズマを発生させる。ヘリカル型(注2)はドーナッツ状の容器の外側に磁石をカゴのように配置し、磁力の網でプラズマを閉じ込める方式である。トカマク方式はプラズマ温度を高くできるためにJT-60やITERで採用されたが、外壁とプラズマの相互作用に起因する様々な問題がある。ステラレータ型はプラズマが外壁と接しないため、トカマク特有の問題が解決されるとされる。

(注1)ステラレータ(Stellarator)はプリンストン大学のスピッツァー教授が製作した世界初の核融合炉(ヘリカル型)の意味であったが、ここではヘリカル型の発展として「ねじれたコイル」を組み合わせて閉じ込め特性を改良したタイプの意味である。

(注2)超伝導コイルを用いた核融合研究所のLHDが世界最大のヘリカル炉となる。JT-60やITERにトカマク型が採用されたのは、磁場対称性が良いために大型のプラズマ閉じ込め容器の製作が容易であることとプラズマの到達温度が高いためである。トカマク型の欠点は高温が得られるがその持続時間が短いことであるため実用炉に適していないとする研究者も多く、そのため別の方式で相補的な研究開発が行われている。

WX-7では磁場閉じ込めの「ねじれたコイル」の形状と配置をきめ細かくし、計算機解析で均一な磁場がプラズマを外壁に接しないようした。W7-Xは50個の非平面超伝導マグネットを持つ。ステラレータ型で実用炉に適しているかが調べられその結果次第ではトカマク型一辺倒から実用発電での方式の方向修正もあり得る。

 

中国の核融合炉EAST

超伝導マグネットを核融合炉に使ったのは中国が最初である。中国科学技術院は北京と上海の中間にある中核都市に「科学島」とよばれる研究所群を建設したがそのなかのひとつであるプラズマ物理研究所に超伝導トカマクEASTが設置されている。「科学島」は周囲の環境に恵まれた学園都市で研究所群はいずれも若い研究者で活気に満ちた印象であった。

 

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Source: snst.ustc.edu.cn

 

EASTはプラズマ閉じ込め容器の大きさがJT-60Aの半分程度であるが、超伝導磁石を用いるために磁場はEASTが上回っている。EASTとJT-60SA(アップグレード後)、ITERを比べるとEAST->JT-60SA->ITERの順で容器とプラズマ温度が大きくなる。そこでJT-60やITERとデータベースを比較することにより、プラズマ状態に関する様々なパラメーターとプラズマ温度の関係がわかる。

EASTの運転目標は10keV程度のプラズマ温度の達成でITERの先行研究を担うとしている。ITERが完成して核融合条件が満たされたとしても発電に使う実用炉の開発が必要になる。そのため六ヶ所村に原型炉の建設のための日欧共同プロジェクトが進行している。ITERで核融合炉実用化といっても発電炉の建設にITERと同程度の費用(160億EU)もかかるのなら採算性のとれる発電炉が原発を置き換えるには程遠い。

 

ロッキード・マーチン社の小型核融合炉

ロッキード・マーチン社は10年以内の実用化を目指してコンパクトな高ベータトカマク炉(注3)とよばれる装置を開発している。

(注3)ベータ値とはプラズマ粒子の圧力とプラズマ閉じ込め磁場の比で、高ければ小型の炉が実現できる。

ロッキード・マーチン社の小型核融合炉はMIT研究チームの設計になるドーナッツ外側の半径3.3mのトカマク型(http://phys.org/news/2015-08-fusion-power-closer-reality.html)で200-250MWeの発電出力を持つ計画である。中心の磁場はレアアース酸化物系高温超伝導マグネットで9.2T、パルス磁場の最大値は23Tに達する。ロッキード社の小型核融合炉のキーテクノロジーは高温超伝導マグネットにある。周囲におかれる中性子吸収体(ブランケット)には液体のFLiBe溶融塩が用いられるが溶融Naに比べて安全性が高い。

 

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Source: MIT ARC team

(注4)米国では溶融塩を冷却材とする原子炉(MSR;Molten Salt Reactor)の研究がオークリッジ国立研究所で行われたが実験炉に終わり開発は打ち切られた。液体金属を冷却材とする高速炉を主張するアルゴンヌ国立研究所と熾烈な開発競争を繰り広げた。ナトリウム冷却高速増殖炉はGE日立ニュークリアエナジ社がPRISMと呼ばれる小型原子炉(第四世代原子炉)として提案されている。

 

ここで紹介したW7-X、EAST、ロッキード・マーチン社の核融合炉には全て高温超伝導マグネットが用いられている。高温超伝導研究の予算は非常に厳しく「氷河期」といえる状態だが、ここでとりあげた核融合装置に共通するキーテクノロジーである。高温超伝導マグネットはすでにNMRやMRIなど民生機器において実用化されている。圧力下ではあるが超伝導転移温度は203Kに達した。1986年の発見から30年で高温超伝導は核融合研究やLHCなど大型加速器にブレークスルーをもたらすことになった。

 

 

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