NASAがPu238を手にするまで

 マニピュレータを使うプルトニウム製造過程では5重の鉛ガラスがオイルを間に満たして貼り付けられた厳重な遮蔽のもとで行われる。オークリッジ国立研究所(ORNL、注1)ではこうした高レベル放射性物質の作業は日常茶飯事の作業である。しかしいまプルトニウムを製造する施設は公式にはない。かつてマンハッタン計画ではウラン濃縮施設として知られるこの地でなぜ今プルトニウムが製造されるのだろうか。(Nature 486 2014より)

(注1)マンハッタン計画ではウラン濃縮が行われ、その後は核技術の代表的な国立研究所となった。現在は研究所の正門には、"Managed by UT and Battel"とあるように、テネシー州立大学と民間の研究所によって共同運営されている。アメリカの国立研究所は政府の財政難により予算削減を強いられていて、今後20%の人員削減が予定されている。

 

NASAがPu238を欲しがる理由

高レベル放射性の液体のプルトニウム238はORNLで製造され精製される。プルトニウム238は原子力電池として宇宙空間で使われる。崩壊熱で高温になった塊の熱を熱電素子で電気に変換する原子力電池は、宇宙空間で長期ミッションを支える発電装置である。

火星やそれより遠い惑星へのミッションでは太陽から離れるので太陽電池の出力が低下する。NASAはプルトニウム238に長期ミッションの電源として有望視している。しかしプルトニウム238を製造するには原子炉が必要である。一方米国のプルトニウム供給施設は1988年にサウスカロライナ州のサヴァンナ川にある施設が製造を停止して以来、閉鎖されていた。

 

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Source: ethical havoc

 

不足するPu238に苦慮するNASA

そのためNASAの手持ちのプルトニウム238はたった35kg。火星や木星探査ミッションには足りない。しかも2013年に放射性同位元素を製造する予算が削減され従来の方法によるプルトニウム製造をあきらめた。

そこでNASAはエネルギー省に5千万ドル(日本円にして約60億円)ORNLの施設で小規模な製造に踏み切った。ORNLでも製造に携わっていた技術者は退職していて、実験室の建設方法をききとってようやく実現したものであるその製造能力はしかし年間1kgにとどまる。下の写真は原子力電池の安全性を示す有名な写真。

 

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Source: space exploration

 

原子力電池とは

原子力電池の歴史は以外と古い。1950-1960年代に宇宙ミッション用に米ソが開発したが欧州宇宙局は採用しなかった。米国は1961年から2011年の火星探査ミッションまで使用していた。

崩壊熱原としての重量あたりの崩壊熱の優位性とアルファ崩壊のために放射線遮蔽が楽であることから、同位体はプルトニウム238が最適との判断で、熱源の一部は発電の他、宇宙空間での機内温度調節にも使われた。最新のNASAの原子力電池システムでは4.8kgのプルトニウム238を用い、2000W熱源と110W発電が可能になる。半減期が87.7年であるため1世紀にわたる長期ミッションにも対応できる。実際、1977年に打ち上げられたVoyager 1は現在も引き地球から190億kmの宇宙空間を飛行中である。

手持ちの2酸化プルトニウム35kgがNASAの頼りであるが、製造から長期間を経過した現在では使用可能な量は半分とみられる。2010年に予定している次回の火星探査ミッションでは約5kgが使われる。NASAはエネルギー省との契約で2021年までに年間1.1kgのプルトニウム238(1.5kgの酸化物に相当)を確保したい考えである。

 

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Source: live science

 

Pu238製造過程

プルトニウム238の製造過程はアイダホ州のアイダホ国立研究所でのプルトニウム237を使用済み核燃料から取り出すことから始まる。ネプツニウム237はORNLに移送されるが、ウラン濃縮などかつての核物質取り扱い設備は過去の遺物となり使い物にならない。アイダホから運ばれたネプツニウム237はいったんペレットに成形されアルミニウムチューブに詰められる49年を迎える高フラックス中性子炉に運ばれる。炉心のベリリウムの円筒に入れられ中性子を照射される。円筒のチューブは次に下部の水槽に移され原子炉は25日間連続運転される。中性子照射でネプツニウム237はネプツニウム238を経てプルトニウム238となる。

 

照射が終わると円筒は次工程の建物に移送される。照射後のプルトニウム238を含んだ物質は硝酸で溶解後に酸化物となる。最後にプルトニウム酸化物はロスアラモス国立研究所に移送されて燃料ペレットに成形されるが、ここでも旧式の成形装置を新しいものに交換しなければならない。この他にも問題は山積みで中でもORNLにネプツニウム全良を中性子するスペースがないことが深刻な問題となっている。問題を抱えたORNLだが最大の問題はプルトニウム製造の熟練技術者がいないことである。

 

Pu238製造のボトルネック

ORNLの限られた施設の中でプルトニウムを扱うキャパシテイの不足がこの計画のボトルネックになっている。NASAでも熱電素子の効率を上げる研究開発を行い製造面での負荷を減らす努力を行っている。

NASAは発電能力が原子力電池の1/4のスターリングエンジンの開発を2013年に中止した。しかしエネルギー省側の対応は消極的である。惑星間の飛行ミッションでは300-900Wの電力が必要だが人類が惑星間旅行をするには数10kWの電力が必要になる。

電力不足は1965年に中止した核融合炉ロケット研究開発(注2)を検討するほど深刻になった。プルトニウム製造の中止でNASAの長期ミッションに狂いが生じた。

(注2)Helion Energyというベンチャー企業が重水を利用した核融合発電とプラズマイオン推進ロケットの電力原として開発を行っている。

 

新たなエネルギー源

冷戦の時代にはプルトニウム製造施設はフル稼動して膨大な熱核反応兵器(水爆)を配備した。また一度配備した核兵器も崩壊による「目減り」を定期的に補う必要があるため、フル稼動が終わっても供給施設は維持されてきた。人類が宇宙の探索と惑星間移住という平和利用に使おうとしたが、すでに製造施設が閉鎖されて時が流れ再び製造することができなくなっている、ということはなんとも皮肉だが、いざ平和利用となるとそのために製造に踏みきれない。そこで実験室規模で細々と製造することになった。

 

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