中国の原子炉

 天津の倉庫爆発では56名の死者、750名の負傷者を出したといわれる(注1)。倉庫内に保管してあった危険物の取り扱い基準の甘さが指摘されている。運営上の責任は免れることができないだろうが、本質的な安全対策の軽視問題は新幹線事故以来、改善されていないようだ。

(注1)報道が規制されているため被害状況は不明である。こうした中で中国は原子炉開発に力をいれている。短期的には自国内の電力事情による原子炉開発は、中長期的には高速鉄道と並んで原子炉はアジアインフラ投資銀行の有望な投資先となりつつある。しかし新幹線の事故や天津の爆発により安全面での不安が生じている。中国の原子炉はどのような特徴があるのか、またそれらは安全なのか。

 

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Photo: BREITBART BEITBART

 

中国の電力不足は深刻だ。農地を工業地帯に変え農民を都市部に集めるという政府の方針に一番重要なのは人口が集中する都市部と工場への電力供給で、安い電力は工場誘致に重要なセールスポイントである。一方でエネルギーミックスで圧倒的な比率(70%)の火力発電は温室効果ガスを大量に排出する石炭を燃料とする。またダム建設で河川の汚染が進み水力発電の比率を高めることもできない。その中で国内のウラン埋蔵量に限度があるとはいえ、手軽に大電力を得ようとすれば原子力が手っ取り早い。高度成長期の日本と同じ考え方である。

中国の一次エネルギー総消費量は2010年にアメリカを抜き去り、現在まで世界一の消費国である。都市部では家電製品が行き渡り家庭での電力消費も増大し、国内外の企業の工場誘致が続くため、エネルギー消費量が10年で2.4倍となった。

 

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一方、原子力利用に関しては計画中の原子炉(上の図)は多いが稼働しているのは2008年で3基、2015年で15基、かつての日本の54基に比べ、発電量で1/4と少ない。以前、別記事で指摘したように原子炉の設置箇所は電力消費の多い都市部に対応しているが、内陸部でも都市化と工場化で将来的には、内陸への原子炉設置が多くなると考えられている。

中国の原子炉一号機はフランスのアレバ社製であるが、その後ロシアやアメリカ製の原子炉を輸入しては、改良型を設置してきた。中国の新幹線にみられるように外国製品を輸入して隅々まで調べ、リバースエンジニアリングで改良し自国の技術で開発したようにみせかけるのはお家芸だが、福島第一の事故は政府の方針をも変えた。つまり一から研究開発を行い正常に開発したものでなければ安全性を担保できない、ことを認め、中国製の原子炉をウエスチングハウス社のAP-1000に統一する方針を打ち出した。

一方、中国はより安全な次世代原発の開発に熱心である。これは先に記したように地震のリスクのある内陸部への設置とアジアを中心としたインフラ整備の一環としての原子炉輸出のためである。次世代原発とはウランを使わないトリウム原子炉(TMSR)である。

TMSRについては別記事を参照していただくことにして、ここでは簡単に特徴を記す。燃料はトリウム232だが中性子照射でウラン233に変わり、最終的にはウラン232が核分裂を起こしてタービンを動かして発電する。ただしトリウムは溶融塩(フッ化物)に、着火剤にあたる核燃料と混ぜて用いる。溶融塩は冷却材を兼ねるので、熱エネルギーを取り出す際に溶融塩の配管が必要になる。この方式では核燃料が一箇所に集中して、反応で溶け落ちるメルトダウンは原理的に生じないとされる。またウランの核分裂反応の副産物であるプルトニウムがでいないので、他国に輸出しても核兵器の製造を助長することもない。

簡単にかくとこのようになるが、溶融塩の取り扱いとトランスポートは高度な原子炉工学技術であるので、大規模な研究開発の取り組みが必要となる。中国科学院は優秀な若い研究者を選別し「1000人青年」と呼んで特別の待遇を与えている。その科学院が溶融塩炉の技術開発に500人の若手研究者を動員するというから相当な力のいれようである。溶融塩を燃料とする(注2)ことへの不安を解消するために燃料を固形トリウム燃料としたフッ化物冷却高温炉(FHR)も研究対象とするとしている。

(注2)溶融塩炉(MSR, Molten Salt Reactor)

トリウム炉を含む溶融塩を冷却材とする原子炉、AP-1000などの第三世代に対して第四世代原子炉に分類される次世代原子炉のひとつ。さらに進んだ原理の固形トリウム燃料としたフッ化物冷却高温炉は進化形である。

 

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Photo: Wiki

もうひとつの次世代炉として期待の高まっている高温ガス炉(HTGR)の研究開発でも、開発を先行したが(原発停止で)研究を続けられない日本を抜き去ろうとしている。膨大な安全対策が必要な新型原子炉の開発を中国がやり遂げられるか、また稼働に漕ぎ着けたとしてそれらは安全なのだろうか。

 

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Photo: JAEA

 

筆者は最近、中国政府の招きで科学院の指定する「1000人青年」の数名と話をする機会を得た。まず彼らは熾烈な競争を勝ち抜いた若者であるから優秀であることは確かだが、それだけではなく欧米の洗練された科学技術や研究手法を(留学によって)身につけたエリートである。

彼らはまた中国技術の問題点をよく認識している。1000人青年に選ばれれば高給待遇が待っている。若くしてBMWの新車をのりまわす一人はBMWといってもMade in Chinaだといって笑った。品質が劣ることを認めているのだ。しかし1000人青年たちの研究開発の意欲と熱心さには舌をまく。昔の日本にあったような気もする。こうした集団が研究開発の先端にいるのであれば(かつて日本がそうであったように)遠くない将来、「技術大国」となり安全な原子炉を輸出するようになるかもしれない。結論をいえば技術とは絶え間なく作り続けることでのみ持続性が保持できるのであり、放棄すればそこで衰退が始まる。

 

だから原発を改良して作り続ければよい、ということではない。ひとつの技術の役割が終わったのであれば、それを捨てなくてはならないこともある。しかしその場合はそれに代わる技術を「1000人青年」のような熱心さで絶えず追求しなければならない、ということではないだろうか。若い世代が技術に対する期待、意欲、希望を失うのが怖い。

 

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