原発先進国の責任

先進国が原発から離れる傾向にある中で、中東地域は、サウジアラビア、イラン、トルコ、ヨルダン、アラブ首長国連邦、エジプトで原子力発電所の建設が進んでいる。政治的な背景が影響して、ロシアの国営原子力企業のロスアトムが多くの中東諸国で原発建設を請負っている。

 

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Photo: ARABIA TODAY

 

中東の原発建設ラッシュ

中東諸国が原子力発電所の建設を進める理由は、ひとつには安全保障の問題がある。原発と核兵器への転用が可能なウラン濃縮技術をイランが持っている。対抗策として原発建設を口実に各国は兵器開発につながる原子力技術を獲得したい。核兵器製造への道は(イランのようにウラン濃縮をして)ウラン型原爆をつくるか、原子炉でウランを核燃料として核反応によりできるプルトニウムでプルトニウム原爆をつくるかのいずれかである。

第二に中東の湾岸諸国は豊富な石油や天然ガス資源の輸出が国家収入に寄与してきたが、成長に伴い国内消費を増加させると、輸出用の石油や天然ガスが必然的に減少する。今後、必要とされる電力の需要を調達するのに上記と整合する原子力を選んだ。湾岸諸国は自国のエネルギー供給になるべく石油と天然ガス資源を使わず、これらを輸出に回して政治経済で優位に立ちたい戦略である。

 

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Photo: Middle East Perspective

 

サウジアラビア

サウジアラビアはロシアの国営原子力総合企業ロスアトム社と今後20年間に計画している原子炉16基、約1,800万kWの電子力発電所のトータルシステムにおける協定を結び、2040年までに17GWの電力供給を得る。サウジアラビアの2012年度の電力需要は全て火力だが年率5-7%の伸びで増大している。2012年には2032年までに17GWの原子力発電所と41GWの太陽光発電能力を備える計画を発表している。

一方、これより前、2006年に湾岸諸国(クエート、サウジアラビア、バーレーン、カタール、オマーン)は原子力平和利用に関するフイジビリテイスタデイに着手することを発表、フランスとイラクが協力を約束した。2011年に、サウジアラビアは韓国と原子炉建設の建設で覚書を取り交わし、湾岸諸国での受注を目指して原発メーカー(注1)の競争が激しくなった。

(注1)

世界の原子炉メーカーは5つ。そのうち3つに日本のメーカーが関与している。東芝=ウエスチングハウス、日立=GE、三菱重工=アレバの3グループ。これに、韓国のDoosan、ロシアのロスアトムが加わる。このため途上国の原子炉入札はこの5者間で争われる。システムの複雑化で工期と工費はかつての原発より大幅に増大し、採算性と工期遅れに悩間れる中、ロスアトムと韓国がトップ商談と低コストで追い上げる構図である。

 

トルコ、ヨルダン、アラブ首長国連邦、エジプト

トルコは、ロシアやイランの石油と天然ガスの輸入に依存している。ウクライナ情勢やイラン核問題で、同国のエネルギー安全保障上、原発の建設を選択した。2020年までに3基の建設を予定し最初の原発はロスアトム、2基目は三菱=アレバが建設予定。3基目は建設業者未定である。

ヨルダンは2013年にロスアトムと契約した1基目は2022年、2基目は2014年に予定されている。アラブ首長国連邦では2017年に最初の原発が稼働、2020年までに4基が稼働するする予定である。ロスアトムと原子力開発協定を結ぶが、1基目原発は韓国の企業連合が受注した。エジプトはロスアトムと最初の原発の建設を契約した。今後、全部で4基を計画している。下の写真はロスアトムが建設中のレニングラード発電所。

 

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Photo: Behance

 

先進国での原発ビジネスの落日

原子炉ビジネス最大手で知られるアレバ(AREVA)は1980年代国内の原子炉製造を行ってきた原発建設と核燃料製造の2企業がシーメンスの原子力部門を買収して生まれた。これまでの原子炉建設や核汚染処理に圧倒的な存在感を示してきた複合企業体である。

しかしアレバが2014年8月1日に上半期決算が6.94億EUの赤字に転落し経営不振に陥った。再建を探ることになり、2015年5月に採算性の悪い原子炉事業の売却を目指すこととなった。

アレバの株式の99%をフランス政府が持つ。売却はフランス電力(政府)の方針である。原子炉ビジネスの最大手アレバの経営不振は原子炉ビジネスそのものに影を落とすことになった。追い打ちをかけるようにオランド政権が2012年の大統領選挙で、原子力依存度を75%から50%に引き下げる公約で当選し、2015年7月22日、フランス議会下院は2025年までにオランド大統領の公約を中心とする原発削減のためのエネルギー移行法案を可決した。

2050年に世界のエネルギー需要は倍増すると予測されている。また成長期の開発途上国では特にエネルギー不足の傾向が強い。不足する電力を手っ取り早く確保するには、原子力が手っ取り早いと考えがちだし、同時に核兵器も手に入るとなれば、原発建設ラッシュも理解はできる。日本が原子力の道を歩んだ背景には、中東からの原油と天然ガス輸入への依存度が高いという、エネルギー安全保障上の現実があった。現在のアレバの顔は下の写真のような再生可能エネルギーである。実際にスペインの風力タービン会社と合弁会社をつくるなど、再生可能エネルギーのアレバに転換しつつある。

 

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Photo: RECHARGE

 

現在では原子炉を建設(購入)することは容易だが、ブラックボックスの「ターンキー方式」でなく、中身を知って建設し維持するためには自国で技術者を養成する必要がある。(注2)また核廃棄物処理工場を建設することにも、ためらわず資金をつぎ込む覚悟がなくてはいけない。原子力利用先進国がまず率先して責任ある行動(核廃棄物処理と情報公開)を取ると同時に、このことを含めて計画を立てるよう指導するべきなのかもしれない。

現状を冷静に眺めてみると、先進国では原発の危険性と後始末(廃炉と核廃棄物処理)を含めた全コストとリスクが国民に認知され、(例外的であったフランスを含めて)脱原発への道を歩みだした。原発を止めても核廃棄物処理の責務は負の遺産として未来の世代に引き継がれていく。一方で成長期にある国々では(かつて先進国がそうであったように)、必要性から原発建設に走り出している。

(注2)ジェット戦闘機など航空機の生産で言えば「ライセンス生産」にあたる。国内に生産拠点を持ち生産からメンテナンスを自国技術で行うことで技術水準を一定水準に保つことができる。また多岐にわたる部品の調達を国内で行うことで関連産業に寄与が大きい。反面、世界最高水準の技術が要求されるため、技術者の養成を並行して進めなければならないので、産業が一定の水準以上にないと実行できない。

 

原発先進国の責任

仮に原発ラッシュが続くなら、原子力先進国はシステムとしての未熟さを解決して、原子力新興国を指導する責任があるのではないだろうか。我々の「いつか来た道」を歩むことになった国々が不幸を背負うことなくまた世界全体にとっての不幸を避けるために知恵を尽くす必要があるだろう。(ここで紹介できなかった国の原発建設については別稿に譲る。)

下の図に示すように明らかに先進国での建設は一巡しピークを過ぎたが、途上国を中心として第二のピークを迎えようとしている。避けられない現実であるならば少なくともコスト重視の第一のピークと異なる「質」のものであってほしい。それと脱原発した先進国が核廃棄物処理の技術開発で先導することは継続してほしい。(IAEAに基金をつくるなど、積極的な事務総長のアクションプランに期待したい。)

 

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Photo: World Nuclear Industry Status Report

 

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