染色体異常のできかた

低線量の生体影響はあるのかないのか」で、「核に荷電粒子が1個あたったときに発生する染色体異常の頻度」は、LETの2乗に比例すると述べました。このことの意味を考えるために、染色体異常はどのようにしてできるのだろうか、ということをまずは検討してみたいと思います。

図は、「低線量の生体影響はあるのかないのか」のところで触れた、dicentricという染色体異常が、どのようにしてできるかについての説明図です。細胞が分裂する際に染色体として現れるものは、DNAがタンパク質などと結びついて太く短く縮み上がったものと考えられています。DNAは、通常、細胞の核の中で細長く存在していて、それが分裂に際しての都合によって、太短い形状になるもののようです。多くの細胞は、分裂しないときにはG0(ジーゼロ)期と呼ばれる状態にあります。また、分裂を始める準備段階のうち、DNAの複製が始まっていない状態をG1(ジーワン)期、DNAの複製が進行中の状態をS期、DNAの複製は完了しているが、分裂に至らない状態をG2(ジーツー)期、分裂最中の状態をM期といいます。G0期あるいはG1期にDNAが直接的間接的な電子の作用で切れる(二重鎖切断)と、修復によって、もとのように繋がります。ところが、たまたま近くに切れたDNAがもう1本あると、繋がる相手がわからなくなるため、修復によって誤った繋がり方をします(誤修復)。図で、DNAのトポロジカルな形状が、一番右にある染色体の形状として反映されていることに注意してください。染色体異常

図.交換型染色体異常発生メカニズムの説明図。G0期あるいはG1期の細胞核内にあるDNA(染色体DNA)のうち、近接した2つのDNAが切断されると、修復に際し再結合させる相手が複数あるため、誤った修復が行われることがある。近接した2つのDNA切断は、一つの一次荷電粒子を起源としても発生するので、低線量でも発生する。なお、他の細胞周期で、DNA複製後にDNAが切断された場合には、この図とは異なった状況となる。

ここでDNA上に示した黄色い丸は、動原体(どうげんたい)と呼ばれる部位になる部分です。染色体像においては、染色分体(せんしょくぶんたい、染色体を 構成する2本の紐状器官)が、ここで互いに接近し、くびれたように見えます。これは、細胞が分裂するときに、紡錘糸(ぼうすいし)とよばれる糸状の器官が 接続されるところです。複製されたDNAは染色体を形作ったのち、紡錘糸に引かれるようにして、染色分体ごと2つの細胞に分配されます。しかしながら、動原体が2つある 染色体(dicentric)と、動原体がなにもない染色体(fragment)は、2つの細胞に正常に分配され難いため、分裂後の細胞は遺伝情報の過不足などによって、死んでしまったりするようです。二動原体染色体の場合は、1本の染色分体が2つの動原体に接続した紡錘糸によって、別々の細胞の方に引き 寄せられることが有ります。Fragmentの場合は、どちらの細胞へも引き寄せられることなく、放置されます。これらのことが、分裂後の2つの細胞に DNAが正常に分配されない原因となります。

これらの染色体異常は、染色体のもとになるDNA(染色体DNA)のつなぎ換わりによって生じるため、交換型(exchange type)異常と言われます。図のうち、真ん中の段の異常は、分裂時の不都合がなく、分裂を経ても細胞は安定して生存すると考えられるため、安定型異常と 言われます。Dicentricやfragmentは、それに対して、不安定型異常と呼ばれます。図から、安定型異常は、不安定型異常とほぼ同数発生することがわかります。

図の一番左側に、近接した2つのDNAに作用している2つの電子が描かれていますが、この電子は、「生物に放射線障害を引き起こすのは電子である」で示した、一次荷電粒子によって作られる大量の二次電子のうちの2つをあらわしています。この2つの電子は1つの一次荷電粒子によって作り出される場合と、別々の一次荷電粒子によって作り出される場合があります。低線量被ばくの場合は、一次荷電粒子はまれに飛んで来るだけですから、圧倒的に前者(1つの一次荷電粒子)によるものということになります。図のようなメカニズムによって染色体異常ができるのならば、狭いところに電子が集中して飛び交っているほどよくできるということになります。これが、LET(エルイーティー)依存性の原因と考えられます。

染色体異常ができる様子をビデオカメラで撮影するということはできませんので、ここに紹介したメカニズムは、いろいろな実験や観察によって、「このように見える」ということに過ぎません。そのため異論もありますが、このように考えると多くのことが説明できることも確かです。

次回以降も、LET依存性など、放射線の生物作用の線質依存性について、少々の文献も紹介しながら、さらに考えていきたいと思います。

 

コメント   

# toshiさん 2014年06月16日 21:11
toshihiro様;

王車線生物学のほぼすべての研究者が犯す間違いですが、
こういう論理で、染色体異常を説明してはいけません。


私の解説をお読みください。

2011年04月21日00:27
放射線にヒットされた細胞が損傷を受ける、という誤解(専門家向け解説)
http://blog.livedoor.jp/toshi_tomie/archives/51945150.html
# Toshihiro 2014年06月17日 00:20
ご紹介いただきました専門家解説
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この二次電子(及びそれが作る活性酸素)が、分子を切断するのです。
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私もそう思います。「生物に放射線障害を引き起こすのは電子である」をお読みいただけたでしょうか。少し書き方がまずかったかな。あらすじは変わりませんが。ちょっと検討します。高エネルギーの電子は最初少し飛びますね。
私の図の書き方が悪かったんでしょうね。図の中の電子は、二次電子のつもりで書いているのですが。
# Toshihiro 2014年06月17日 17:05
対応するところの記述を少し変更しました。
# Guest 2014年06月16日 23:59
このコメントは管理者によって削除されました。
# 一太郎 2014年06月17日 07:52
なるほどです。
わかりやすい説明です。

ところでGMO食品に危険性を唱える人によると、放射線では切断により染色体の「過不足」のうち、不足だけがおこるので、それによる劣勢遺伝ですむが、GMOで怖いのは「過不足」の「過」によって、得体の知れない、有害な性質を持つ恐れが生まれる、としています。

放射線でも「過」が生じる可能性がある、ということですね。

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