ウラン(III)複合体による室温窒素固定
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- カテゴリ: 原子力/エネルギー
- 作成日:2018年11月13日(火)10:08
- 投稿者: Hiroyuki
空中窒素の固定技術によって窒素肥料の原料となるアンモニアが大量生産できるようになって以来、食糧事情が安定し人口増加につながった。
工業的使用のための原料(「原料」)としての窒素の使用は、窒素固定として知られる反応である。この反応において、分子状窒素(N 2)は、水素または炭素のような他の元素と結合する2つの原子に分解され、窒素をアンモニアとして貯蔵するか、またはより高価な化合物に直接変換することが可能になる。
Credit: Nature Chem.
しかし、アンモニアは産業レベルで作るのは簡単ではない。 ハーバー・ボッシュ法と呼ばれる主なプロセスは、450度C前後の温度と300バールの圧力下で、鉄系触媒を使用する。このプロセスの低コスト化のために、より少ない低エネルギー条件で窒素を有用な化合物に変換する新しいシステムが開発がされている。
2017年、エコールポリテクの研究チームは、2個のウラン(III)イオンと3つのカリウム中心を含む化合物を窒化物基で合成することにより、分子窒素をアンモニアに変換する複合化合物を創成した(Falcone et al., Nature Chem. online Nov. 12, 2018)
。
Credit: Nature Chem.
またこのグループはウラン系の窒化物架橋をオキソ架橋で置き換えることによっても、窒素に結合することができることを示した。さらに、結合した窒素は、一酸化炭素によって容易に切断されるので、農業、医薬品および様々な有機化合物に広く使用される化合物であるシアナミドを生成することができる。
オキソ架橋窒素複合体の反応性は、従来の窒化物複合体および当分野で知られている他のいくつかの窒素複合体と比較して著しく異なる。計算科学的研究により、研究チームはウラン - オキソ/ナイトライド橋の結合との反応性の違いを明らかにした。
この研究で窒化物および酸化物材料に及ぶべき構造と反応性との関係について重要な知見が得られた。新しい触媒系にこの化合物を導入すれば、肥料生産の低コスト化につながる。また厄介者の印象が強かったウランの新しい使い道としても注目される。
なおウラン(III)金属複合化合物と窒素の反応は2017年に同じグループによって発表されていた(下図)。この反応後にCOと反応させて炭素化合物として取り出すのが今回の研究である。
Credit: fm17.chemistrycongresses
現在空気中のCO2を還元してCOを得る人工光合成の研究が急ピッチで進んでいるが、炭素も窒素も室温固定技術が普及すれば、大気汚染も解決し工業原料も合成肥料も低コストで生産できる。
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