事故発生への連鎖を断ち切るには〜ヘリ事故から原発まで Part2

事故を未然に防ぐには要因の連鎖を断ち切ることが必要であることをPart1で書いた。ここでは最近の重大事故として福島第一事故の1号機を取り上げて、連鎖が起きた背景を考えてみたい。

 

福島第一事故における事故要因連鎖(1号機の事例)

政府事故調査報告書によれば、

福島第一原発 1 号機に備わっている IC(注1) が、実際には機能不全に陥っ ているにもかかわらず、正常に作動していたと認識されていた 。しかしIC の基本機能では、 全電源喪失直後にはフェイルセーフ機能によって IC 隔離弁が閉状態になる可能性が高いことが認識されていなかった。

(注1)非常用復水器(非常用炉心冷却装置のひとつ)。初期の沸騰水型軽水炉(福島第一では1号機のみ)で使用されている圧力容器からの蒸気を純水のプール中に通した配管によって冷却凝縮し水にして再び圧力容器に重力で戻す装置。

 

鎖が断ち切れなかったIC関連問題

一方、現場はIC が作動していない疑いを持ち、発電所対策本部に報告したが、本部はIC作動中との誤認を継続した。この時点でIC再稼働できれば事故回避の可能性はあった。IC が作動しないため、1 号機の代替注水が必須となり、注水を可能とするための格納容器減圧操作(ベント)で、大量の放射性物質が放出され、その後の炉心融解(メルトダウン)で深刻な放射能汚染を引き起こした。

この報告書では1号機の事故に至る要因の連鎖を記述しているが、度々最大の要因となったIC停止による冷却不全を回避できる機会があった。不幸にしてその全てが事故につながる選択となり、取り返しのつかないベントやメルトダウンにつながった。背景にはICの知識不足と訓練不足、コミュニケーション欠如と緩慢な意思決定があることも、調査報告書は指摘している。ICを巡る事故に至る要因の連鎖(時系列)は「福島第一原発1号機の時系列 非常用復水器(IC)はなぜ誤認されたかに詳しい。何度も途中で状態を把握できた機会があったが、不幸なことに全て機会を失った。

なおICが使われているのは1号機のみである。その他の原子炉では進化系のRCICが使われている。ここが1号機の特殊性であったが、基本的な原理と機能は同じである。

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Credit: 原子力規制委員会「東京電力福島第一原子力発電所 事故の分析 中間報告書」

 

事故調の権限と中立性

しかしIC機能喪失の直接の原因である全電源喪失について、問題の根源である非常用発電機システムの設置場所については触れられていない。施工担当者でも呆れるこの問題は、設計ミスというよりもターンキー方式の契約条件によるもので、米国型原子炉の早期導入を目指した政府、電力会社の共同責任であることは明らかであるが、刑事訴訟への影響を配慮する事故調の限界を感じさせる結果となった。結局、刑事責任に波及する結論を利益相反する立場に影響されずに得るためには、事故調をその場その場で立ち上げるのではなく、すべての権限をもつ専門職員を要する部局が必要になるのだろう。

最後になるがICが稼働していると誤った判断をした、直接的な原因は稼働していれば水蒸気が大量に吹き出す排気口(豚の鼻)から湯気が立ち込めていたため稼働と判断したことにある。しかし原子炉から発生する熱容量と初歩的な熱力学の知識があれば、「モヤモヤした湯気」程度で済まないことくらいわかりそうなものだが、パニックになると人間は本能的に、都合が良いように解釈することが裏目に出た。巨大な蒸気タービンの戻り配管を切断したらどうなるか。しかしその判断をした作業員を責める前に、定期点検でIC稼働を40年間、省いてきたことが基本的な問題であることは明白である。

 

ちなみに米国の同型機の点検ではICを稼働させて運転員に稼働時の状態を覚えて置くように訓練しているという。定期点検の際に、IC稼働を回避したのは、シビアアクシデントが起るはずはない、という安全意識の欠如と、もしそういう事故を想定してICを稼働した訓練を行うと、事故が起きるかもしれないことを認めたと取られるからだろう。

点検にIC稼働を含めなかったことと非常用電源を高台に設置しなかったこと、さらに言えば原子炉そのものを冷却に便利な位置にわざわざ土地を削り取って下げたことは人災であり、(米国なら)刑事訴訟の対象となって然るべきである。根本的には高台に設置できないがんじがらめのGE社との契約に問題があったこともあるが、安全神話に固執するあまり設計変更をしなかったことと、訓練を怠った側にあることは確かである。

 

危機的状況が複数箇所で同時に起きると、指揮系統能力が麻痺してしまう。それをさけるには普段から危機を想定して訓練を行うことを恥としない、危機対応型の考え方を徹底する必要があるのだろう。

 

 

 

事故発生への連鎖を断ち切るには〜ヘリ事故から原発まで Part1

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