無重力下の光分解〜長距離宇宙飛行支援技術としての利点と課題

宇宙機関や民間企業は、今後数年間で人間を火星に送り込む計画を進めており、本格的な惑星植民化が始まるのも遠い将来の話ではない。火星移住は惑星移住のための前線基地であり、現実に地球に近い環境の惑星が探索されつつある。長距離の宇宙旅行はSFでなく現実のミッションとなる日が近い。

 

人間が宇宙で生き延びるのは容易ではない。長距離宇宙飛行の主な課題の1つは、宇宙飛行士が呼吸するのに十分な酸素と、複雑な宇宙船に電力を供給する燃料を輸送することである。宇宙で利用可能な酸素はほとんどないと言ってよく、長距離飛行では補充が困難である。

カリフォルニア工科大学の研究チームは、無重力で半導体材料と太陽光(または星光)を用いて、水のみから水素(燃料用)と酸素(生命維持用)を生成することが可能であることを示した(Brinkert et al., Nature Comm. 9: 2527, 2018)。

 

再生可能なエネルギー利用は同時にエネルギー貯蔵技術が伴う必要が生じる。このための理想的な方法は、水(H 2 O)を水素と酸素に分けることすなわち水分解である。原理的には、電解質を含む水試料に電流を流す水分解は、様々な方法が研究されている。ただし現時点では、水分解反応はエネルギー効率が低く、水素補給ステーションなどの水素関連のインフラストラクチャを増設する必要があるため、地球上ではまだ実用化されていない。

 

宇宙空間の利点は太陽エネルギー

水から生成された水素と酸素は、宇宙船の燃料として使用することもできる。酸素、水素の製造には2つの選択肢がある。ひとつは、電解質と太陽電池を使って太陽光発電を行い水分子を電気分解することです。水から水素ガスを生成するもうひとつの方法は光触媒で太陽光を半導体材料に吸収させ、電子・正孔ペアが生成される。自由電子は水中でプロトンと反応して水素を生成、正孔は電子を受容しプロトンと酸素を生成する。

水素と酸素は、「光触媒作用」によって太陽エネルギーを化学エネルギーに貯蔵し、燃料電池で電力を利用することもできる。生成物として水のみを排出するので、水はリサイクルすることができる。これは長距離宇宙旅行には最適な性質である。

光触媒は、装置が電気分解に必要な重量よりもはるかに小さく、最大の利点は太陽光の連続利用で、長距離宇宙旅行支援技術には最良の選択肢となる。

 

無重力下での課題

微小重力実験タワーをでは物体が自由落下で地球に向かって加速するにつれて、重力によって作用する力が加速による等しい力および反対の力によって相殺され、重力の影響は減少する。気泡が形成されるとガスを生成するプロセスを妨げる触媒表面から気泡を除去する必要が生じる。地球上では、重力が泡を自動的に表面に浮かせるので、次の泡が生成されるための触媒と水分子の接触が持続する。

これは無重力では不可能であり、バブルは触媒の上またはその近くにとどまる。研究チームは、気泡が先端から容易に外れて媒体中に浮遊するピラミッド形状のゾーンを作り、触媒中のナノ構造(下図b)でこの問題を解決した。

 

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Credit: Nature Comm.

 

しかし重力が存在しない場合、たとえ触媒が触媒から遠ざけられても、気泡は液体中に残ってしまう。重力があれば、気体が浮き上がることができる。重力がなければ、気泡は表面に浮遊せず溶液中に残る(上図a)。

この問題の解決には宇宙船の回転による遠心力を利用してガスを溶液から分離する必要がある。しかしそれでも宇宙旅行中の酸素製造に光触媒が最有力であることに変わりはない。

 

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Credit: Nature Comm.

 

 

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