Liイオンバッテリーの電解質添加剤のメカニズム

EVに最適なエネルギー貯蔵システムは(エネルギー密度の観点から)、Liイオン電池である。EVのバッテリーでは、蓄えられるエネルギーが多いほど、走行距離が長くなるからである。しかしLiイオンバッテリーは多くの問題も抱えている。例えば最大エネルギー貯蔵容量正極の性能が正極材料に強く依存し、ボトルネックとなっている。

 

Liイオンバッテリーのボトルネック

その限界を打破するためには、高容量で高電圧で動作する正極材料が必要である。このような材料は存在するが現実的ではない。つまり実用化できない。充放電サイクルの間に活性化された負極と接触する液体電解質を劣化させるため、それらの長期使用ができないからである。

 

添加剤のメカニズム

この問題を解決するための周知の手段の1つは、液体電解質に性能向上のため添加剤を挿入することである。電解質の分解を止める保護層を形成することによって正極表面を改質する添加剤のひとつは、TMSPiとしてよりよく知られているトリス(トリメチルシリル)フォスフェイトであるがメカニズムは今まで不明であった。

アルゴンヌ国立研究所の研究チームは、最新の研究でTMSPi分子自体が正極の保護には直接関与していないことである。活性成分は異なる分子、PF2OSiMe3であり、これはTMSPiから化学的に誘導される別の物質であることを見出した。PF2OSiMe3が主に、正極表面に存在する電解質酸化のための触媒中心の阻害によって、活性中心への溶媒反応を(キャッピング配位子を形成することによって)阻止できることを明らかにした(Peebles et al., J. Phys. Chem. C, 122, 9811, 2018)。

 

PF2OSiMe3の役割

この化合物は、電解質中のLi塩としてゆっくりと形成され、TMSPiと反応する。反応生成物は、充放電サイクル中に電池セル内で通常発生する電気抵抗の上昇を抑制する。負極と正極との間で移動するLiイオンの減速と、負極組成の不可逆的な変化が抵抗の上昇を引き起こす。この抵抗上昇を減少させられれば、Liイオンバッテリーの急速充電および放電が可能になる。

TMPSi生成物はまた、正極材料中の遷移金属(典型的にはコバルトまたはマンガン)の損失を低減する。正極から放出された遷移金属イオンは電解質を通過して負極に到達し、充放電サイクルでその性能を低下させる。 TMPSiは遷移金属の損失を制限するだけでなく、充放電プロセスを劣化させる寄生電流の発生を低減する。

 

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Credit: J. Phys. Chem. C

 

研究チームの計算機シミュレーションはまた、反応生成物PF2OSiMe3が負極表面上の反応中心に結合し、電解質とさらに反応して、正極上の反応中心を保護する結果、TMPSi電解液添加剤が古くなるにつれて、電池性能は増大することを示唆している。電解質添加剤の進歩でLiイオンバッテリーの性能は向上し、長期使用が可能になると期待されている。上図ではLiPF6とP(OSiMe)3の反応がピクルスの生成過程に比較されている。

 

米国アルゴンヌ国立研究所には新しく建設された放射光NSLSIIがある。その強みは研究所内に物理、物質科学研究部門を有することで、放射光施設と接近した研究環境は非常に恵まれている。その点では西海岸のスタンフォードのSSRLやバークレイのALSと同等な研究環境である。日本の放射光施設は共同利用機関的性格が強く、施設を維持することが優先されがちである。しかし組織内部に研究組織を作ることはバッテリー科学のような分野では威力を発揮する。

また長いスパンで見れば放射光を中心としたフォトンサイエンス研究組織、放射光科学研究所への布石となるだろう。

 

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