新型ダイアモンドショットキーダイオード原子力電池

原子力電池もしくは核電池ときくと縁遠い存在のようだが、ここで紹介するベータボルタ電池は、原子力電池のなかでも身近な存在で、ペースメーカー使用者にとっては命にかかわるものである。

 

モスクワ物理技術研究所(MIPT)の研究チームは、放射性同位体であるニッケル-63のベータ崩壊から発電する原子力電池を考案した。これはベータボルタ電池と呼ばれるもので、歴史は意外と古い。この原子力電池試作機は、グラム当たり約3,300ミリワット時のエネルギーを発生する。これは、ニッケル-63を基にした他の原子力電池よりも高く、市販の化学電池の比エネルギーの約10倍である(Bormashov et al., Diamond and Rel. Mat. 84, 41, 2018)。

時計、懐中電灯、玩具、および他のデバイスに電力を供給する通常の電池は、電子が電解質を介して一方の電極から他方の電極に移動する、いわゆるレドックス化学反応のエネルギーを使用し、電極間に電位差が生じる。 ガルバニ電池としても知られている化学電池は、高出力密度、すなわち生成電流の電力とバッテリの体積との比が性能を表すパラメーターとなる。

一般に化学エネルギーは比較的短時間で消費される、すなわち寿命が短いため用途が制限されている。

 

ベータボルタ電池の歴史

1913年、ヘンリー・モズレーは放射能崩壊に基づいた最初の原子力電池を発明した。彼のアイデアは、内側が銀メッキされたガラス球で、放射エミッタは絶縁された電極の中央に取り付けられる。ラジウムのβ崩壊に起因する電子は、銀膜と中心電極との間に電位差を生じさせたが、実用にはならなかった。

 

A simple 1 D schematic diagram of betavoltaic battery

Credit: researchgate

 

1953年、Paul Rappaportは、ベータ崩壊のエネルギーを電気に変換する半導体材料の使用を提案した(上図に原理を示した)。放射性物質によって放出されたベータ粒子 - 電子と陽電子 - は半導体の原子をイオン化し、補償されていない電荷担体を作る。 p-n構造の静電界が存在すると、電荷は一方向に流れ、電流が流れる。ベータ崩壊によって動力を供給されたバッテリーはベータボルタ電池として知られるようになった。

ガルバノ電池と比較して主な利点は、その長寿命にある。放射性同位元素は、数十年から数百年の半減期を有するため、その出力は非常に長い間ほぼ一定である。しかし出力エネルギー密度は、ガルバニック電池の出力密度よりも著しく低い。それでもペースメーカーに電力を供給するために1970年代に使用された。

 

もうひとつの原子力電池RTG

ベータボルタ電池は、放射性同位元素の熱電発電システム、すなわち広く知られた原子力電池であるRTG(ラジオアイソトープ・サーモエレクトロニック・ジェネレーター:放射性同位体熱電気転換器)とは異なる原理で動作する。熱電セルは、放射性崩壊によって放出された熱を熱電対を使用して電気に変換する。 RTGの効率はわずか数パーセントであるが、宇宙機材に電力を供給するために広く使われている。 RTGは以前は灯台や自動気象ステーションなどの無人遠隔施設で使用されていたが、使用済みの放射性燃料は環境負荷が大きく、やがて使われなくなった。

 

ベータボルタ電池の鍵となるショットキーダイオード

ロシアの研究チームは、核電池の電力密度をほぼ10倍に高める方法を考え出した。物理学者は、放射線源としてニッケル-63を用い、エネルギー変換にショットキー障壁ベースのダイヤモンドダイオードを用いてベータボルタ電池を開発した。

プロトタイプ電池は約1マイクロワットの出力を達成したが、1立方センチメートルあたりの電力密度は10マイクロワットであり、現代の人工心臓ペースメーカには十分であった。 Nickel-63の半減期は100年であるため、電池は電気化学電池よりも1グラム-10倍高い約3,300ミリワット時間の電力を供給できる。

核電池プロトタイプは、ニッケル63と安定ニッケル箔層(図)の200個のダイヤモンドコンバータで構成される。コンバータによって生成される電力の量は、どれだけ多くのベータ粒子が吸収されるかに影響し、ニッケル箔およびコンバータ自体の厚さに依存する。

 

1 prototypenuc copy

Credit: V. Bormashov et al./Diamond and Related Materials

 

目標は、ニッケル63バッテリの電力密度を最大にすることで、数値的にベータソースとコンバータを通る電子移動をシミュレーションで解析した。 Ni-63ソースは厚さ2マイクロメータで最も効果的であり、ショットキー・バリア・ダイヤモンド・ダイオードに基づくコンバータの最適厚さは約10マイクロメータであることが判明した。

 

困難な技術課題をクリア

技術的な主な課題は、複雑な内部構造を持つ多数のダイヤモンド・コンバータで、各コンバータは、わずか数十マイクロメートルの厚さになる。ダイヤモンド基板上に薄いダイヤモンドプレートを合成し、超薄型コンバータを量産する独自の技術(注1)を開発した。

(注1)約700ナノメートルの基板に100ナノメートルの厚さの欠陥を導入、化学蒸着を用いてこの層の上に厚さ15マイクロメートルのホウ素ドープダイヤモンド膜を成長させた。次いで、基板を高温アニール処理して、埋め込まれた欠陥層の黒鉛化し、上部ダイヤモンド層を回収する。

 

エッチングによる欠陥層の分離に続いて、半完成の変換器にオーミックコンタクトおよびショットキーコンタクトを取り付けた。開回路電圧および短絡電流は、それぞれ1.02ボルトおよび1.27マイクロアンペアである。 0.93マイクロワットの最大出力電力は0.92ボルトで得られ、この電力出力は、約3,300ミリワット時間/グラムの比出力に相当し、市販の化学電池または以前のニッケル-63ベータボルタ電池の10倍となる。

医療応用では最先端の心臓ペースメーカーは、約10マイクロワットの電力を必要とする。これは、新しい電池を使用して、設計やサイズに大きな変更を加えることなくこれらの機器に電力を供給できる。宇宙産業も期待される応用分野である。ベータ線を自然放射線から得て、利用すれば環境負荷のない永久的寿命を持つベータボルタ電池が可能だとする特許もでている。下図はペースメーカーに搭載されたベータボルタ電池。

 

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Credit:  slideshare

 

原子力という言葉に人々が眉をひそめる社会になってしまった感がある。原子力から連想するのは原爆だった時代があるが、いまは福島の事故だろう。電離放射線は原子力電池のように重要な役割を持つ平和利用もあることを頭に置くべきかもしれない。教育で原子炉を持ち出すよりは、電離放射線による物理現象の視野を広げるべきなのだろう。視野を広げれば電離放射線は宇宙から生命の起源にかかわることが理解され、原子力の誤解も少なくなるのではないか。

 

 

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