ESRによる広島原爆犠牲者の蓄積放射線線量

広島と長崎の原子爆弾投下は、民間の標的に対する(無差別の)核兵器使用の最初で、現時点では過去唯一の使用であった。今でこそ大量殺戮兵器として核兵器拡散は初期段階からマークされ、拡散が防げているが北朝鮮はすでに10個以上の核兵器を所有、中東(イラン)への拡散の懸念もある。

 

サンパウロ大学の研究チームは、広島原爆の犠牲者が被爆した放射線量とDNAおよび健康全般に対するこの被爆の影響に関して、1980年代から調査研究を行ってきた。最新の論文では、犠牲者の骨によって吸収された放射線量を正確に測定する方法を紹介している(Kinoshita et al., PLOS ONE online Feb. 6, 2016)。研究チームは、電子スピン共鳴分光法(ESR)技術を用いて蓄積放射線線量測定を行った。広島原爆の被爆者の蓄積放射線線量測定については、様々な計測値が公表されているが、計測手法によってばらつきがあり、正確な評価ができていない。

 

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Credit: PLOS ONE

研究者チームは、以前の研究で使用された顎骨の一部(数mmサイズ)を分離し、追加照射法と呼ばれる技術を用いて、実験室で再照射し線量測定信号の増大分から更正評価が行われた。

この較正方法は、各骨と同じ骨の各部分が異なる放射線感受性を持つため、異なる試料を測定した(下図)。その結果、約9.46グレイ(Gy)の線量が計測された。これは現在の致死線量5Gyの倍となる量である。 この値は、非生物学的試料(例えばレンガおよび屋根瓦断片に存在する石英粒子の発光測定によって得られた線量と同等であった。また生存者のDNAの変化をパラメータとして用いた長期間観察の結果にも近かった。

 

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Credit: PLOS ONE

下図に示す直線関係から蓄積放射線線量の正確な評価が可能になった。化学分析でいえば内部サンプルによる更正に相当する。

 

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Credit: PLOS ON

 

現代の核攻撃はICBMによる全面戦争よりむしろ大都市でのテロ攻撃である。皮肉なことに広島・長崎の原爆投下から70年後に別の脅威に晒されることになった。X線とガンマ線の照射は、骨組織のミネラル部分のヒドロキシアパタイト(結晶性リン酸カルシウム)が二酸化炭素イオンを吸収し、試料が照射されると電子が失われてCO2になるために常磁性を生じ、放射線線量のマーカーとして働く。この研究は核攻撃が全面戦争でなくテロ攻撃であっても人体に吸収された放射線量をバックグラウンド信号から分離することが可能になったことを意味している。

米国が核テロ攻撃の標的になる可能性は国際テロ組織の表面的な壊滅と裏腹に逆に増大した。皮肉だが米国は広島・長崎の犠牲者の蓄積放射線線量の再評価に迫られることとなった。

 

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