空気から燃料を合成するナノ触媒〜エネルギー危機を救うナノ科学

国内では57%が原発再稼働に反対だという。にもかかわらず原子力をベース電源に据え置く基本方針に変わりはなく、ようやく1兆2000億円をつぎ込んだ「もんじゅ」の廃炉へ向けて、核燃料サイクルの見直しが進むかにみえた。しかし結果は高速増殖炉を高速炉として、研究開発は存続させるというチグハグな基本方針に衣替えした。

 

原子力のジレンマ

高速炉の開発は各国で進められており小型炉開発は民間企業が実用化に近いところまでこぎつけていることは事実である。しかし政府はその国内開発をあきらめ、原型であるフェニックスを引き継いで現在、フランスで設計が行われているASTRID計画に参入することになった。原子力予算に依存する雇用を捨て去ってまでASTRIDに投資する意味があるかは極めて不透明だが、案の定フランス政府は開発費5700億円の折半を打診してきた。

欧州型加圧水型原子炉EPRの建設費の高騰も念頭におけば、設計段階での開発費見積もりが過小評価される恐れがあることは十分考慮しなければならないが、問題は共同開発を契約した場合、途中で引き返せなくなることである。同じくフランスに建設中の国際共同核融合炉ITERは建設に10年を予定しているが、参加国は途中で脱退が認められない。計画通りに資金が集まらないとEPRのように途中で頓挫してしまうからである。

なぜか中国で遅れて建設が開始された量産型EPRの方は順調に完成しすでに稼働していることも不思議であるが、プロトタイプや初期型の建設には設計変更がつきもので、試行錯誤的な部分が多いためコストが見通しより膨れ上がることは稀ではない。事実「もんじゅ」が当初から1兆円以上のコストがかかると知っていたなら、とっくの昔に消えていただろう。しかし一方では新しい技術の採用は開発コストに悩まされるのは一般的である。

 

再生可能エネルギーにも地殻変動が起きている

原子力推進派が指摘するように、しかしながら再生可能エネルギーの普及が遅いことも事実である。太陽光パネルの生産では当初の日本の優位性はなくなり原子力を放棄したドイツにとって代わられたが、その後の覇者であった米国もあいついで大手メーカーが倒産し中国企業の後塵を排するようになった。その米国は再生可能エネルギーとして太陽光の他に風力やバイオマスなど手広く手がけてきたが、最近になって温室効果ガスの排出量の評価に誤りがあり、植物の育成や製造過程を含めてみれば、環境に優しいどころかCO2排出量における優位性がなくなった。

このことは例えば原子力が原子炉運転中のCO2排出は少ないが、フロントエンド(燃料製造過程と輸送・保管)やバックエンド(再処理と高レベル放射性廃棄物の長期間保管)を含めれば、従来の概念では済まされないのと似ている。

 

バイオマスに見切りをつけた米国

オバマ政権になってからシェールガス・オイルの掘削を政府支援で強力に進めた結果、米国の国内原油生産量が輸入を上回り内燃機関の車に支障のない原油生産を確保できてはいるが、シェールガスも中東原油も化石燃料の枯渇は避けることができない。一方で2050年の世界のエネルギー需要は都市化が進み人口増大で倍増すると予測され、稼働中の100基の過半数の老朽化原子炉を更新できないことが明らかになると米国も新エネルギー開発に真剣さがみられるようになった。

最近、米国政府はエネルギー省に人工光合成や光触媒で大気中のCO2を窒素のように固定して燃料(エタノール)を合成する研究開発のために90億円の予算を投入することを決めた。すでにMITの研究グループによる「人工葉」と呼ぶ光触媒研究開発が有名だが、電気分解を一歩進めたCO2水素還元でCOを得る人工光合成の研究でもイリノイ大学グループがエネルギー変換効率10%を達成している。

日本の光触媒研究はさかんだがトップデータでも電気分解の変換効率が3%程度で、人工光合成は1%にも満たない。10%となれば実用に必要な15%の壁も視野に入る。このようなエネルギー変換効率の飛躍にはナノ科学によるところが大きい。イリノイ大学の研究グループはタングステン2セレン化物(WSe2)のナノフレークを触媒として用い、効率10%で炭化水素鎖の合成ガス(H2とCOの混合気体)を作る技術を開発した。エネルギー変換効率の向上には表面積を増大させたナノシートにしたことがポイントである。

 

原爆製造から新エネルギー研究に

こうした状況の中で原爆開発で有名なオークリッジ国立研究所の研究グループが画期的な触媒をみいだした(Chemistry Select 2016, 1, 1-8)。論文では基板にグラフェンシートを使い、銅金属ナノ粒子をグラフェンシート表面のナノ突起(Carbon Nanospike)に固定した触媒で、電気化学的に空気中のCO2からエタノールが生成されることを発見したのである。

下のHRTEM写真に示される基板断面では金属ナノ粒子がN原子をドープして伝導度を高めたグラフェンのナノスパイクで固定されている様子がわかる。ナノ粒子で表面積をかせぐのはイリノイ大学と同様の手法である。Nドープによって電極のI-V特性が向上し、1.2Vの電圧印可で電気化学によるエタノール合成反応が起きる。これまでにも銅金属電極で反応が進行することが知られていたがCO(還元が十分でない)やCH4(還元が行き過ぎる)副生成物化学種が多かった。今回の触媒反応では水に溶け込んだCO2をエタノールに転換することができる。

 

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Credit: Chemistry Select 2016, 1, 1-8

 

水分解で工業的に水素をつくる採算性ラインが15%といわれるので、62%という効率は画期的と言える。今後はスケールアップの工夫で水にCO2を溶け込ませる技術が必要だが、圧力下で行うなど解決可能な技術課題である。10年、一兆円以上という投資に比べれば、非貴金属ナノ金属触媒をつくるコストなど比較にならない。

 

2Song et al-2016-ChemistrySelect

Credit: Chemistry Select 2016, 1, 1-8

 

開発を支えるナノ科学と中国人研究者

再生可能エネルギーというものは地道な努力がものをいう。ナノ科学の論文数を調べてみると中国人研究者のものが圧倒的に多い。オークリッジ国立研究所の研究も筆頭研究者をはじめ11名のチームの6名が中国人である。日本が得意であったはずのナノ科学を国は積極的に支援すべきであろう。

 

先のみえないASTRIDに「もんじゅ」と同程度の投資をさせられる前に、核燃料サイクルの見直しをするべきかもしれない。少なくとも高速炉の研究がしたいなら先端に近い企業に援助する方が早いように思える。2016年は様々な分野で従来の常識が覆された。ITERの開発の理由は超高温プラズマの条件を点火に近ずけるには大型化が必要だったことにある。しかし今年になってpウラズマ条件は大きさと関係しない、すなわち小さい核融合炉でも実用に近づけられることが理論的に示された。実際、MITの小型トカマク炉はITERの1/800のスケールであるが、3,000万度、2気圧という世界最高圧力のプラズマ保持に成功した。Bigger the better時代の終焉は原子力や核融合にとどまらない。かつては世界最小の...はほとんどすべてが日本製だった。コンパクトな施設で実用化する技術は日本から生まれてほしい。

それにはしかしながら何か別の計画をあきらめて資金を集中させなければならない。 

 

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