欧州の大型施設の戦略−LHCから大出力レーザーELIまで

LHC/CERN
 欧州の加速器としてはCERNのLHCが有名である。世界最大の円形加速器LHCはヒッグス粒子発見の偉業を達成した後、2000年に休止してアップグレードに入り2011年から再び稼働した。LHCは周長27kmの加速器で陽子ビームをエネルギー7TeV=7000GeVまで加速し衝突を行なって発生する粒子を複数の検出器で観測する。2020年には高輝度ビーム(注1)でより精密な衝突実験が予定されている他、2030年から33TeV建設計画をCERNは提案している。

(注1)放射光ビームの輝度はBrillianceという単位で計るが加速器ではLuminocityという単位であらわす。

 

European XFEL
 欧州では別の加速器研究施設が話題を集めている。X線自由電子レーザー(XFEL)である。欧州連合が1200億円の共同プロジェクトでドイツのDESYに隣接して建設された全長3.4kmの加速器で、発振波長0.05nmを目指している。X線領域のコヒレント光(XFEL)は単分子構造解に圧倒的な強みがある。X線領域では、物質との相互作用が小さいため、蛋白質の構造が破壊される以前に散乱像が記録できる。つまり、原理的には、1回の照射で原子レベルの構造解析に必要な散乱回折データが得られる。

 

 DESYには小型(260m)の自由電子レーザーFLASHが2005年から6nmまでのVUV-軟X線領域のコヒレント光の実験が行なわれている。European XFELとの関係は興味深い。DESYは入射器と1.7kmに及ぶ超伝導加速器の運転を受け持ち、3.4kmに及ぶXFEL施設を両者で運営する。(European XFELはDESY傘下の独立した会社組織である。)下の写真がDESYのキャンパスにあるXFEL入射器部分から引き出された電子加速器とXFEL。

 

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 XFEL施設として米国スタンフォードのLCLSや日本のSACLAがすでに稼働中である。欧州連合はDESYとEuropean XFELに予算を重点的につけて欧州の科学者がアクセスし易い共同研究体制で基礎科学の底上げを狙う。欧州と米国では応用研究へのアプローチが異なる。米国では民間と官学の連携で応用技術開発を目指すが、欧州は基礎科学の優秀な人材を官学が育成し、民間に送り込むことを狙う。European XFELは欧州の若い研究者が競争的に研究を行う活気にあふれた若い研究所である。欧州連合の人材育成が投資に先行する考え方は一理ある。

 

Extreme Light Infrastructure
 最近、欧州に新たな巨大科学プロジェクトが現れた。Extreme Light Infrastructure (ELI)である。ELIは複数の世界最高出力のレーザー施設を別々の場所(3カ所)につくり、これらを関連させて最終的には第4のレーザーを含めて施設を共同研究に開放する(注1)もので、加速器、放射光、X線自由電子レーザーのようなスタイルで光科学を推進する。

(注1)ELI=3+1 レーザー、と表現される。最後の1が計画中の第4番目の施設である。

 ELIは現在世界最強出力のレーザーの10倍の出力10PW(注2)のフェムト秒レーザー(注3)の実現が目標である。これにより医療イメージング、診断、照射治療などの分野での応用が期待される。注目されるのはELIが主に東欧につくられることである。最初の施設はチェコ共和国につくられるELI Beamlinesで、ここでは大出力レーザーをターゲットに照射してつくりだされるX線を用いて物理、生体、物質科学の分野で応用研究が行なわれる。

 

ELI-TRIM

 

 第2番目の施設はELI Attosecond でハンガリーに設置され、アト秒領域(注4)の短パルス応用技術を開発するためのものである。第3のELI Nuclear Physicsはルーマニアに設置され、光核物理の研究を目的としている。10ペタワットのレーザーで起こる現象は未知の世界で無つまり真空中に入射しても何が起こるか予想できないパワーフロンテイアの世界である。

(注2)ペタワット、ペタとは10の15乗、テラ(1兆)の1000倍、すなわち1000兆を意味する単位である。例えばスパコン「京」は処理能力10ペタフロップスである。

(注3)フェムト秒は10の−15乗秒。フェムト秒レーザーを使ったポンププローブ実験で化学反応の中間体を調べる研究がさかんである。

(注4)アト秒は10の−18乗秒、フェムト秒の1000分の1。2000年頃から発達した技術でフェムト秒で立ち入れなかった、分子内電子軌道の時間変化をも可能とするポテンシャルがある。

 

 第4の研究施設は詳細が決まっていないが3施設と補完的あるいは有望な分野のさらに発展させる目的で、現在計画が練られている。それぞれ異なる仕様、応用分野の大出力レーザー施設を連携して運営し、関係者が知恵を寄せ合い強力な連携でまとめあげていく計画性はCERNに劣らない。東欧諸国にとっては経済効果も大きい大型施設の設置は願ったりである。何故東欧なのかという疑問は自然であるが東欧の自然科学や大学の歴史は古く、またこれまで優秀な研究者も多かったが経済状態に依存する大型施設と縁遠かった。

  これまで欧州共同体の大型施設といえば、例えばグルノーブルのESRFなど(建設時にはストラスブルグと誘致合戦を繰り広げた)のようにインフラ重視で建設候補地が選ばれてきた。ELIはルーマニア、チェコ、ハンガリーに分散して建設され全体として連携して運用される。東欧諸国はソ連崩壊後の経済状態が悪くドイツの寄与が大きい欧州の経済成長に取り残されて来たが、ELIはその流れを変えるだろう。

 

 日本には放射光が地方に分かれて多数存在している。地方分散ととらえるにしてもそれら全ての維持と更新は困難で持続性に問題がある。もしELIのように3-4カ所に限定してそれらを大きな連携体として、重複なく運用するのはどうだろう。そうすれば個々の都合でなくトータルアウトプットを最大にすることと、持続性の問題が解決できるのではないか。欧州方式が成り立つためには関係者が議論を深め建設計画がPeer Reviewに裏付けられることが必要であることはいうまでもない。

 

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