LHC-ALICEがアップグレードで狙うもの

LHCの検出器群の中にあってCMSとATLASに隠れてしまいがちなALICE検出器だが、2018年12月にCERN加速器施設がアップグレードのためダークタイムに突入したと同時に、地下56メートルに設置されているALICE検出器のメンテナンスとアップグレード作業が開始された。

 

事故を除いて2回目となるLHCの長期シャットダウン(LS2)は2年間の作業が予定されている。 ALICEはLS2で、サブプログラムのアップグレードや交換、さらにはトリガーおよびデータ収集システムのアップグレードを行う(下図)。

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Credit: CERN

 

ALICEの目的は宇宙の最初の瞬間(〜数10マイクロ秒)に広まった物質の状態クォークグルオンプラズマ(QGP)の解明である(下図)。LHCで加速された粒子(陽子)と鉛の核を衝突させ、クォークの閉じ込めの殻を破り(注1)QGPを作り出しALICE検出器は実験データを収集する。

(注1)クオークは単独で取り出せないが、LHC衝突実験でクークが高エネルギーを得て引き離される状態ができる。

 

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Credit: ALICE日本G

高輝度LHC(HL-LHC)プロジェクトの稼働する2021年以降の輝度の増加で、ALICEの可能性が広がる。単位時間当たりの衝突数の増加により、ALICEは確率の低い現象の高精度測定が可能になり、QGP詳細、特にグルオン相互作用の手がかりが得られると期待されている。 

 

LHC高輝度化によってビームトランスポートの直径が小さくより細いビームパイプに置き換えられる。ビームパイプの内側では、粒子はほぼ光速で移動し、検出器のコアの内側で互いに衝突し、多くの新しい粒子を生成する。研究チームは相互作用点の位置の決定を目指している。ALICEは、より短い寿命で崩壊する粒子を検出する能力が向上する。

追跡システム(ITS)(下図)もより高度な新型に置き換えられる。新しいITSには、コンパクトなピクセルセンサーチップが搭載される。この追跡システムは衝突から発生する粒子の特性を測定する際に、粒子軌道を正確に特定して再構築する検出器の能力が劇的に向上する。

 

Detector upgrade v2

Credit: CERN

 

新しいITSのシリコンセンサーと読み出しチップは、ビームパイプの近くでミュオンを追跡するミューオンフォワードトラッカー(MFT)(上図)にも搭載される。

これにより優れた空間分解能が実現し、より高感度に、現在手の届かない新しい測定にも手が届くようになる。

 

3次元で粒子の軌跡を追跡するガスと読み出し検出器を有するALICEタイムプロジェクションチャンバー(TPC)(上図)のアップグレードも進行している。衝突点から噴霧された荷電粒子はそれらの経路に沿ってガスをイオン化し、円筒の終板に向かって電子雲がドリフトする。マルチワイヤー比例チャンバー技術に基づく現在の読み出しは、多段ガス電子増倍管(GEM)チャンバー(上図)に置き換えられ、検出器の読み出し速度が約2桁向上する。

 

さらに、新しい高速相互作用トリガー検出器(FIT)は、ビーム方向に対して小さな角度で散乱する粒子を検出し、3つの現在のトリガー検出器を置き換える。LHCルミノシテイ増大で大量のデータを処理が必要になり、計算能力を向上させるために地上に新しいデータセンターが設置され、データ蓄積が100倍になる

LHCとALICEはアップグレードでパワーアップして、QGPという「不思議の国」への旅に出発することになる。

 

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