科学論文の非合法オープンアクセス化の論理 〜アカデミアのロビンフッド

日常的に科学論文を読むことが必要な人たち、つまり研究者にとって、電子化とインターネットの普及は計り知れない。それまでは図書室にこもり製本されて重い雑誌を引っ張り出しては、コピーして元に戻すという労働に頼らざるをえなかったからである。

 

論文へのフリーアクセスが当たり前になってしまっているが、オープンアクセスはまだまだ少ない。購読契約されていない専門誌を斜め読みしたい時など、"Purchase"というメッセージが出るとイラっとしたことはないだろうか。そもそも科学論文は人類が共有すべき資産であるし、研究費の元は国税であるから国民として知る権利があるのでは、などと考えたくなる。そうした「ロビンフッド」的な考えのもとに、勝手にオープンアクセス化を実行した人が現れた。

 

27歳の大学院生、Alexandra Elbakyanはオンラインデータベースサイトを自分で立ち上げて、5000万本の科学論文をアップロードしてしまったのである。もちろん著作権を無視した海賊行為として、追及されるべきところだが、本人は身を隠そうとはせずに堂々と独自の論陣で司法当局を無視している。

彼女によれば「著作権侵犯と海賊行為」の中には正当なものがあり、今回のアップロードはそれにあたるとしている。「教育と研究」のための複製は違法ではない、というのだ。科学史を専攻する彼女のロジックでは人類が共有すべき知的資産は利益を追求する出版社から守らなければならない。情報が制限されたソ連に育った幼年期の影響もあり情報公開に敏感になっていった彼女は、「ロビンフッド」と形容されることに対し、ロビンフッドは違法な行動だが彼女のオープンアクセス事業は完全に「合法」なのだそうだ。

 

ナップスターを代表とする楽曲のダウンロードに関する紛争と同類に扱われそうだが実は深い問題提起をしているかもしれない。科学論文への(商業的利用や悪意のある行為を除いて)フリーアクセス化は(出版社の経済損失を超えて)、研究の効率化を促し科学の進歩に寄与するであろう。オープンアクセス化や電子出版リポジトリを促進する目的で設立された団体、SPARCの理念と重なる。

もちろん出版社業界はこのようなオープンアクセス化は海賊行為として断固反対である。しかし新聞や雑誌などではペーパー媒体から電子化が進んだ中で多くが無料化をしている中で、学術論文のみがフリーアクセスを拒否していることも批判されている。またアカデミアにも論文で研究者を評価する基準を作り上げたために、(論文の著者でなく)出版社が権威を持つようになった責任はある。高IF雑誌を「ブランド」化したのはアカデミアかもしれないが、いつしか自由であるべき研究者はブランド化した出版社に鎖で繋がれるようになっていった。研究所も高IF雑誌の数を競い合い地道な学会系雑誌を軽視する傾向になった。この傾向に逆らうようにロスアラモス研究所のXサーバーの未発表論文リポジトリは人気を呼び、論文投稿前にTwitterやBlogで新発見が送信され論文自体の「新鮮さ」は低下しつつある。

 

論文が出版されると著作権が出版社に渡ることに疑問を持つことはないだろうか。研究を行ったのは著者であり、その研究費を払ったのは国民で、審査は無償で行われたにも関わらず、研究成果の「法的所有権」が媒体に過ぎない出版社にあるのは不可思議である。国民が研究費を払い、その結果である論文を見るのにもお金を払うのは理屈に合わない。さらに出版社の購読料の値上げはインフレ率を上回るが、それは新しい雑誌を出版し続けることで利益を増やすためだという批判がある。

世界中の科学論文雑誌は28,100あり、毎年250万ページの論文を掲載している。現在の出版費用は1986年と比べて4.6倍になったというが、電子化と矛盾する出版費用増大の理由が理解しがたい。

 

 

 

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