Broken Arrow

 "Broken Arrow"は、“核兵器紛失”を意味する暗号である。1996年のクリスチャンスレーターとジョントラボルタ主演の映画ではステルス爆撃機に搭乗し低空飛行による国境突破の模擬演習中にトラボルタが演じるディーキンスは核弾頭の強奪を行い起爆装置のタイマーを起動してしまう。滅多に悪役を演じることのないトラボルタが悪役となるストーリーや西部の美しい背景が印象的な映画だ。

 実際にBroken Arrowは過去32回、発せられたことがある。例えばスペインのパロマレスで1966年に米空軍のB52型機と燃料補給ジェットKC135機は1月17日スペイン海岸上空で衝突事故を起こし両機とも墜落した。KC135機の乗員4名は全員死亡、B52側は4名が脱出した。このときB52機は4個の当時の標準的なB28核弾頭等を積んでいた。B52は戦略核兵器(水爆)を搭載する大型の8発ジェットエンジン機で、ベトナム戦争時には通常爆弾を多数積み、さかんに戦術的な用途にも使われた。パロマレスの事故は冷戦の産物である核弾頭を装備した戦略爆撃機の常時空中待機の結果であり、12機が常に高高度で待機させることのリスクの大きさを現実で示した。

 事故の起きた空中給油は給油機側からみると下の写真のようになる。給油される側は給油口が見えないので給油機担当者からの指示でドッキングする。パロマレスでは給油機とB52が衝突したとされた。確かに悪天候で給油中に事故が起こることはあり得る、空軍のパイロットにとっては緊張の一瞬である。給油パイプにはウイングがついていてオペレーターが操作するのだが、給油操作で何があったのだろうか。

 

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パロマレス事故の直後に米軍はBroken Arrowを発し大掛かりな核弾頭の捜索が行われた。4発の核弾頭(B28)の3個はすぐ見つかったが残る1個は行方不明が続き世界的な問題となった。必死の捜索の結果、最後の1発の弾頭も見つかったのだが、深刻な問題を残した。

 4個のうち2発は起爆用の通常爆薬爆発を起こしたためウランとプルトニウムが飛散して周囲を汚染した。起爆装置が働いてもなお安全システムが衝撃に耐えて核爆発がさけられたのは幸運であった。核弾頭には6重の安全装置が組み込まれているので、事前および使用時にそれらを解除しなければ、起爆装置が働いても核爆発はまぬがれる構造になっている。しかし数Mトンの核爆発が起こっていれば悲惨な事故が起きていたことは事実だ。民間人が被爆し土壌汚染は1,400トンにのぼり回収されて米国に運ばれた。後の調査で30ヘクタールの土地が規制値の最大40倍のプルトニウムが検出された。

 しかしB52の事故が放射能汚染を引き起こしたのはこれだけではなかった。1968年1月22日にはグリーンランドのチューレ空軍基地に着陸失敗した後、墜落炎上して火災により付近を汚染した。乗員7名の内6名は脱出したが1名が犠牲になった。墜落場所は基地のある湾で氷に覆われていた。核弾頭は衝撃で起爆火薬が爆発し周囲が汚染された。事故原因は高高度で飛行中にジェットエンジンの余熱を暖房にしたため温度が上昇して機内火災を起こしたためである。最終的には乗員は脱出し無人状態で墜落した。冷戦の高まりとともに空軍はB52に核弾頭を積載し高空待機を24時間行うことになったが、これは冷戦の終結とともに1991年に中止となった。写真は回収された核弾頭でもちろん中身はないが、外側の変形が大きく事故の衝撃が大きかったことを物語っている。

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 原子炉は安全利用のために開発された高度な産業機器であり、安全性は徹底的に追求されたはずである。技術者も最善をつくしたはずだ。しかし利益を追求すれば安全性を犠牲にするのが現実であり、あり得ない事故が起きる。安全性を多重にして事故を起こさないことは重要だが、事故にいたる小さな事象の連鎖を断ち切れるのは結局、人間の判断ではないだろうか。現場の責任者の判断が適切せるようにあらゆる状況をシミュレーターで訓練する必要があるだろう。

 

 

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