エボラ出血熱と感染症対策(BSL-4について)

エボラ出血熱拡大の経緯

1年ほど前の2014年8月14日アフリカ中部のコンゴで、西アフリカとは別の種類のエボラ出血熱が確認された。西アフリカ地域では新しくないが、知られていなかったザイール種の新しい株のエボラウイルスである。さらにコンゴでは、スーダン種とザイール種とスーダン種の混合、2種類が確認された。

 

bsl4 1

Photo: Welcome to Wolfhazmat

 

「今回の流行は、これらのウイルスの多様性が我々の知っていたことより大きいという警告である。そうして、我々がこれまで知っていた特定のウイルスに対してのみ防護するのではなく、もっと広範に基づくものを開発する事が極めて重要である。」と米国国立衛生研究所(NIH)のウイルス学者 Jens Kuhn氏は述べた。

エボラウイルスは2014年10月に感染者1万人、死亡者4,900人と西アフリカを中心に広まり、脅威となった。2015年に入っても2月にWHOの予測通り感染者は2万人を超え、死亡者は 9,000人に達した。

2015年8月になりようやく シエラレオネで確認されていた最後のエボラ出血熱患者が24日、退院し、多数の死者を出した同国のエボラ熱流行がようやく終息したとの期待が高まっている。

 

感染症の診断と治療法

ここまでの間に様々な治療法の研究が行われ、エボラ出血熱への治療効果が期待される富士フイルムの抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」や、米国Hemispherx Biopharma Inc. は2つの新薬を開発、長崎大学が30分でエボラを診断できる検索キットを開発するなど、診断と治療の両面で少しづつ対策が整ってきた。

エボラウイルスには、まだ知られていない多くの種類が存在する可能性がある。しかし研究どころか国によってはエボラ感染者を扱うレベル4(注1)の施設さえない場合もある。まさに日本がそうだ。国は、ウイルスの危険度を4段階に分類し、危険度の段階に応じて扱える施設を定めている。 エボラウイルスは最も危険度が高く、最高レベル(レベル4)の設備を有した施設以外は扱うことができない(注1)。

(注1)世界保健機関(WHO)がウイルスの危険度、Bio Safety Level(BSL)に対応した4段階の施設基準による。

すでに日本ではBSL-4相当の設備が国立感染症研究所村山庁舎 (東京都武蔵村山市)と理化学研究所バイオリソースセンター(茨城県つくば市)に設置されたが、 地元住民の同意が得られず、現在も最高レベルでの運用は許可されていない。

 

Bio Safty Level(BSL)とは

Biosafety level(BSL)について簡単に説明する。微生物、病原体は以下の4つのリスクグループに分けられる。

 

img 0

 

リスクグループ1

ヒトあるいは動物に病気を起こす可能性の低い微生物。BSL1に対応。

BSL-1

一般の実験室で、取扱者は病原体取り扱い訓練(注2)を受ける。

(注2)

改正感染症法に基づく病原体等の管理体制の 確立について

 

リスクグループ2

ヒトあるいは動物に病気を起こすが、重大な被害は及ぼさない。BSL2に対応

BSL-2

実験中の部屋は窓、扉を閉めて実験者以外の立ち入りが禁止される。

 

リスクグループ3

ヒトあるいは動物に病気を起こす。生死に関わる重篤な病気となるがヒトヒト感染はない。BSL3で対応。

BSL-3

実験室へは外気を取り込む、内部は消毒、洗浄が可能なこと。エアシャワーを設け実験者は白衣着用。

 

リスクグループ4

ヒトあるいは動物に病気を起こす。生死に関わる重篤な病気となりヒトヒト感染がある。BSL4で対応。

BSL-4

BSL-3に加えて、オートクレーブ設置、実験室排気のフイルターによる浄化設備、クリーンルームに準じるエアシャワー室、防護服着用(注3)が義務付けられる。

 

BSL4labBig copy

Photo: NIH

(注3)

CBRNE(Chemical、 Biological , Radioactive、Nuclear、Explosive)防護服
CとB(ウイルス)に対しては空気中に漂う微粒子を吸い込むことを避けなければならない。このためには空気を遮断する防護服とマスクで全身を覆い、クリーンルームのように内部の圧力を1気圧以上に保つ。オレンジ色のスーツは酸素外部供給のレベルA(米国EPA基準)対応の気密服で最も基準が厳しい。HAZMATスーツと呼ぶことが多い。

 

Figure8

Photo: NIH

 

BSLの基準は徐々に厳しくなるのでなく、Level4で一気に基準が厳しくなることが専門施設が限定される理由である。アメリカにはCDCを筆頭に13箇所、ドイツ4箇所、オーストラリア3箇所と続き日本は国立感染症研究所村山庁舎 (東京都武蔵村山市)と理化学研究所バイオリソースセンター(茨城県つくば市)(注4)に設置されているが、稼働していない。

(注4)P4施設と呼ばれる場合もある。政府は、2005年12月27日に文科省付設の綜合科学技術会議(議長:小泉首相)で、「高度安全実験(BSL-4)施設を必要とする新興感染症対策に関する調査研究」を2005年度の科学技術振興調整費による研究課題とすることに決定した。研究は2008年度での終了を目途に、P4施設の早期稼動を目指すとしている。2006年6月21日には、「BSL-4施設を必要とする新興感染症対策」(責任機関が国立感染症研究所)が公表された。

 

理研P4施設は1984年にP1-P4レベルのDNA組み換えが実験できるDNA実験棟が完成するなど、国立感染症研究所に次ぐP4(BSL-4)施設として建設された。住民の反対運動により訴訟に勝訴するものの1989年にP4実験を終了したためBSL-4施設として機能していない。国立感染症研究所も住民の反対運動によりBSL3までの施設運用となっている(注5)。

(注5)

生物多様性条約に基づくカルタヘナ議定書の発効にあわせて、2004年(平成16)2月、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(遺伝子組換え規制法)」(平成15年法律97号。通称カルタヘナ法)が施行され、従来の「組換えDNA実験指針」等のガイド・ラインは廃止された。新しい「遺伝子組換え規制法」は基本的には従来の規定を受け継いでいるが、顕著に変わった点もある。その一つが、P4の規定がなくなったことである。物理的封じ込めの措置がP1~P3の3段階となり、全体的に緩和された。

しかし、重篤な疾患レベルの病原体を扱う施設の重要性は、世界保健機関(WHO)を中心として国際的に認識が高まっている。そこで、最近は、WHOの制定した基準をベースにして各国で定められているBSLという分類が重視されるようになった(P4施設)。

 

長崎大へのBSL-4設置が現在計画されているが、設置を巡って国立感染症研究所や理研P4施設と同様の住民の反対と訴訟問題に発展する恐れがある。

原発に頼る産業界と大都市の住民が再稼働にこだわる一方で、原発周辺住民の反対とどこか似ている。BSL-4設備がいまだに稼働していない我が国の感染症対策に必要な研究施設ではあるが、原発や使用済み核燃料保管場所と同様に付近住民の反対により日の目をみない可能性が高い。住民への説明や情報公開(透明性)が信頼を得るために必要なことは間違いない。

 

BSL-4設置と原発は国と設置場所周辺の住民の間の情報とリスク共有ができていない。安全性の理解が進み住民の信頼性が得られない状況において強行することを避けたい。同時に安全な設置が陸上で不可能であれば地下や海底、メガフロートなど可能性を尽くして議論を深化させるべきなのかもしれない。

 

コメント   

# 成田嫌い 2015年09月03日 17:43
国の都合で住民運動を無視して強行した施設はたいてい計画が甘く欠陥だらけの場合が多い。理研P-4、成田 空港、もんじゅ、六ヶ所村、そのほか多くのハコモノたち。それでもなんとか建設ができたのは情報公開がなさ れず国民の意見が反映されるしくみがなかったから。国立競技場は危なかったがセーフ。BSL-4は受け入れ たらどういう恩恵があるのだろうか。

You have no rights to post comments

hitachihightec

hitachihightec science

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.