金と放射能

 今年5月にJPARCハドロン実験施設の放射線漏えいの事故は記憶に新しいが、そのときには50GeVシンクロトロンより取り出された 1次陽子ビームをハドロン実験ホール内の 2 次粒子生成標的に照射し、生成したK中間子、π 中間子等の 2 次ビームを使い様々な実験が行われていたが、2 次粒子生成標的として使われたのが金であった。高強度の陽子ビームの衝突によって、金は一瞬で溶解し放射性物質を含んだ金蒸気が建物内に流れ出たというものである。加速器からの放射線漏洩は国内初であり直接的間接的に加速器科学に与えた影響は大きい。通常は異常があればただちに加速器シャットダウンするのが普通なので、安全神話がなりたっていた。事実、放射線業務に携わる職業の中で研究者の被曝量は放射線医療関係者や技術者より圧倒的に少ない。放射線を理解し注意を払って来たからだ。


 ところで金の放射化というと、007初期のシリーズの作品であるゴールドフインガーという映画を思い出す方はいないだろうか。世界中の金の政府管理分の総量は3万トンであるが、もっとも保有量の多いのは8,000トンを有する米国である。米国政府は他国からの預かり分を含めて頑丈なケンタッキー州のフォートノックスに保管している。ゴールドフインガーはその金塊を核で汚染し、使えなくすることによって自身の保有する金の価格を釣り上げようと企んだ。原子爆弾の爆発により強力な熱線が発生するので融点の高くない金のブロックは溶融するだろう。同時に強力な中性子が照射される。発生する中性子線の強度をあげたものが中性子爆弾である。ゴールドフインガーが多少、物理を習っていたら熱線や爆風で金が空気中に飛散してしまう通常の核でなく、水素爆弾を改良した中性子爆弾を金庫室の外で爆発させたであろう。物質の透過力の強い中性子線なら金庫室の外で爆発させても問題ない。彼は保管されている金を奪おうとしたのでないのだから強欲とも片付けられない。


U.S. Bullion Depository-trim

 原子核が1個または複数個の中性子と衝突して合体し、より重い原子核に変わる原子核反応を中性子捕獲と呼ぶ。中性子ビーム強度が小さな環境では、1個の中性子が原子核に捕獲されるにとどまる。例として、金の原子核(金197)に中性子が照射されると高い励起状態の金198が作られ、その後すぐにγ線光子を放出して基底状態基底の金198に崩壊する。厳密にいえば原子番号の異なる元素がつくられたことになり、錬金術が存在することになる。中性子束が大きいため場合は、原子核が中性子を捕獲した後、ベータ崩壊を起こす間もなく次の中性子捕獲が起きるため、原子番号(すなわち元素の種類)は変わらないまま原子核の質量数が非常に大きくなる。最終的には不安定な原子核が多数回のベータ崩壊を起こして、原子番号の大きい安定または不安定な原子核に変わる。なので、中性子照射で金がほかの原子になってしまうのである。ゴールドフィンガーの思惑のように、単純な放射化なら数10年後に金が回収され、ふたたび金価格が下がってしまっただろうが、永久に使えない物質なら彼の保有する金の価格は永久に安定していたはずだ。


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 実はゴールドフインガーより悪賢い人たちがいてフォートノックスにはもうほとんど金が残っていないのだ。こうかくと信憑性のないうわさだと思うかもしれないが、フォートノックスで検索すれば関連情報がたくさんでてくるので、真偽のほどは各自の判断に任せたい。日本が保有する(はず)の765トンの金や世界第二の金保有国であるドイツははるかに多い2000トンあまりを、米国に、フォートノックスに預けてあるのだが、それが実際にないとしたら乱発された紙幣の価値が一気に暴落し、間違いなくリーマンショックどころの規模でない世界大恐慌が起こるのは必至だ。一説によるとフォートノックスにあるはずの金は中身がほとんど同じ比重の重金属であるタングステンに置き換わっているという。質量で差が無いが似て非なるタングステンの価値は無に等しい。このまま紙幣を印刷し続けるのかどこかできっぱり量的緩和に決別し、想像を絶する痛みを伴うが金本位制に戻るのか、米国はというか人類は決断を迫られている。

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