エネルギーミックスを広い視野で考えよう

 「脱原発」と「原発推進」の対立構図は以前よりは少なくなり、「エネルギー危機」は少し遠のいたと考える人は多いかも知れない。確かに311直後に比べると遥かに落ち着いた環境で視野を広げる余裕もできたし、「原発問題を包含するエネルギーミックス」の議論ができるようにはなった。

 

 しかし相変わらず「机上」の感情的とも思える論戦もなくなったわけではない。村上春樹氏の独特のウイットに富んだな言い回しの「脱原発」コメントも池田信夫氏の「原発容認論」のレトリックの前には霞んでしまうかにみえる。

 現在の88%という異常な火力依存性は先進国としては考えられない数字だし、年間3.6兆円の燃料費購入が貿易赤字と電気料金値上げに「貢献」し電力料金に反映されつつあることも合わせれば、「原発論争」はまさにこの国が抱える高度成長のツケともいえる「課題」である。

 そこで将来のエネルギーミックスを考えるときに、このコラムでは簡単な「脱原発」を巡る対立構造では済まないこと、すなわち問題は視野を広げれば広げるほど複雑で社会への影響力が大きく、考え方(切り口)次第で異なるソルーションがあり得る「多対問題」であることを指摘しておきたい。

 

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 核開発と共に進められて来た原子力のエネルギーミックスにおけるベース電源とコストの上での「価値」はその国の成長とともに変化するので、その国の産業経済の成熟度でベストミックスが変化ても不思議ではない。

 日本の特殊性は原油や天然ガスの輸入依存が極めて高いことである。そのためエネルギー安全保障の観点から(核開発は視野になくとも)ベース電源として、かつての水力に代わる原子力を国策として、また地方行政も絡み官民一体となって進めて来た。原子力は高度成長を電力供給面で支えたといえるだろう。

 

 一方で地球環境の劣化、とりわけ異常気象の多くは地球温暖化によるとされ、温室ガスの削減が先進国に課せられることになったが、排出ガスが少ないとされる原子力には好都合であった。しかし福島第一の以前から、(チェルノブイリやスリーマイル島の放射能汚染を契機として)先進国は風力や太陽光などゼロエミッションの再生可能エネルギーの導入が加速した。

 

E4

 

 日本では311直後の原発停止による電力危機を契機に、再生可能エネルギーの比率が高まりつつあり、エネルギーミックスでベース電源として従来路線を引き継ぎ原子力を20%下限、火力を温室ガス排出の観点から50%上限とすると、残りの20-30%以上を再生可能エネルギーとすればよいことになる。

 現状ではしかし府部内でも再生可能エネルギーを35%とした環境省案と25%とした経済産業省案が対立している。結論を無理にだすより再生可能エネルギーの発展に反対する理由はないので、特に上限を設ける必要性はない。一時的に電気料金の値上げとなったり、地熱のように法改正の必要性を伴っても、である。

 

 再生可能エネルギーには以下のようなカテゴリーがある。

・ 太陽光—ソーラーパネルによる発電など
・ 太陽熱—太陽熱を集光し、熱水を作りその蒸気でタービンを回し発電するなど
・ 風力—風車による発電など
・ 地熱—高温源泉による蒸気による発電や、マグマを利用した発電など
・ 水力—貯水式ダムや水車による発電
・ 潮力—潮の満ち引きで生じる海面差を利用した発電
・ 海流—寒流・暖流など潮の流れで水車を回す発電
・ バイオマス−植物からエタノールや軽油・重油を作る
・ ヒートポンプ—エコキュートなどの大気・地熱などを利用したシステム
・ 燃料電池—水素やアルコールと大気中酸素の結合反応を電気エネルギーとして取り出す

 

 日本では特定のカテゴリーのみが進んでいるのが現状である。固定買い取り制度(FIT)により着実に発電能力を伸ばしている太陽光だが、ベース電源には成りえない。しかし安定性なら地熱発電が見直されている。(電力会社のいうベース電源には安定性以外に発電能力や安全保障も考慮されている。)そこで多岐に渡る再生可能エネルギーを政策として押し進めれば35%も視野に入ってくる。

 エネルギーミックスにおいて50%以下となる火力においてもクリーンコールやコンバインド発電で効率を上げる必要はあるので、老朽化した火力を排出ガスの少ない施設で置き換えることも必要である。火力を88%から50%以下まで落とすのにはそれ以外のエネルギー源の全ての面で、国策と技術開発が連携して進められるべきだが、火力自身にも新技術の投入が求められる。

 

 さて再生エネルギー35%、火力50%となれば残りは15%とできるので原子力20%上限の必要性は薄れる。しかし未来の水素社会に必要な水素供給基地は次世代超高温原子炉に隣接させると効率が良いことなどから、原子力を残すなら旧型機を次世代炉に置き換えて安全性を高めることと、廃炉と中間貯蔵施設を含めた核廃棄物問題に取り組むことを条件にすべきだ。

 

 原発継続の条件として安心できる長期的な将来計画をつくることの方が20%下限を唱えるより重要なように思える。脱原発にあたっては、再生可能エネルギーでその分の電力を補えるか、という問題では済まない。廃炉や核燃料処理を含めて責務は残るということを認識しておく必要がある。以下にドイツのエネルギーミックスを示す。ドイツは「脱原発」を再生可能エネルギーで置き換えようとした国だが、FITにより電力料金は2倍に跳ね上がった。

 

Germany-energy-mix

 

 未来の社会に我々が胸を張れるためには、再生可能エネルギーと原子力の両方とも最先端の技術を駆使して、問題を解決する必要がある。その意味で簡単に「脱原発」も「原子力20%下限」もどちらも絵空事でしかない。また科学技術の進歩は日進月歩で核融合など新エネルギーの実用化も近づいて来ている。相当に柔軟にエネルギーミックスを考えなくてはならない。下はスコットランドのエネルギーミックス。バランスがとれている。はたして日本にとってのベストミックスは何か。視野を広げて冷静に考えてみて欲しい。

 

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