Liの話題−物理学者の計算違いで生じた被曝

リチウムは安定な同位体6と7があり存在比はそれぞれ7.5%、92.5%となる。放射性同位元素も8種存在する。リチウムはz=3のアルカリ金属筆頭で酸化還元電位が最も低いため、リチウムバッテリーの原料として欠かせない。いまではほとんどの人がお世話になっている貴重な元素のひとつである。

 

そのリチウムが水爆、そしてその実験の犠牲となったビキニ珊瑚礁周辺の放射線被曝に深く関わる、といったら怪訝な顔をするかも知れない。しかしその原因をつくったのが国立研究所の核物理学者の「ミス」だったとしたらどう思うだろうか。

ちなみに熱核反応(Thermonuclear reaction)は核融合を起こすための高温実験の状態であり、熱運動で原子核間のクーロン斥力に打ち勝って互いに衝突して起す核反応だ。常温のつかない核融合反応といえばわかり易いだろう。

 

castle-bravo

 

アメリカが1952年に史上初の水素爆弾実験を行なったのはビキニ珊瑚礁の隣に位置するエニウエトク珊瑚であった。このときの水爆「マイク」は現在の核融合実験がターゲットとして用いる重水素と三重水素を低温で液化してターゲットとした、クライオ爆弾であった。

起爆剤と高温をつくりだす原爆についてはこれまでの開発が済んでいたが、「マイク」は外形と重量が大きくとても飛行機に積めるものではなかった。水爆の威力そのものについては確認できたが、小型化には固体爆弾をつくる必要があったため、その原理を考案した。

重水素や三重水素をそのまま液体で使うのでなくリチウムと化合させて固化することで大幅に小型軽量化できる。このために重水素化リチウムという固体化合物を使用した計画出力6メガトンの「ブラボー型水爆」が製作された。

 

Teller-Ulam device

 

予定では周辺の島に非難した住民や第五福竜丸の乗組員も安全圏にいるはずであったが、ひとつの重大なミスが起きた。「ブラボー」を製作した国立ロスアラモス研究所の計算では75%を占める7Liの核反応断面積の評価に誤りがあり、出力の過少評価となってしまう。

結局、6メガトンとなるべき爆発が15メガトンという3倍の威力を持つことになってしまった。またこのときの気象条件で放射性珊瑚礁の粉塵が上空に舞い上がりビキニ珊瑚から東側に流れたが、その経路上に第五福竜丸があった。

 

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結局第五福竜丸の乗組員と非難していた住民が空から降る白い雪のような放射性粉塵によって集団で被曝したのである。その原因が7Liの反応性の高さというのは皮肉な結果だ。

 

何故ならリチウムはBNCTで下記の反応によりつくられる7Liの自由行程が数ナノメートルであることを利用して、癌細胞のみを狙い撃ちにする新技術として脚光を浴びているからだ。

10B+n → 7Li + 4He

 

640px-Boron neutron capture therapy bnct illustration

 

原子力が諸刃の刃とよくいわれるが、水爆で威力を発揮する核融合のターゲットとして殺戮に使われたり、人間を救うのにも使える。また中性子反応断面積の大きいことを利用して、緊急時に原子炉心にボロン球を落とす安全策も提案されている。

 

結局、核の弊害の多くが知識不足であったことは否定できない事実である。ビキニ実験の悲劇のみならず、福島では非常用発電機の設置場所を誤った「ミス」が命取りになった。こうした事例から果たして何を学んだのだろうか。

 

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