ウクライナのエネルギー問題—ロシアリスク

 このところ世界情勢を伝えるニュースでウクライナ問題が取り上げられることが多い。放射線と関係は薄いようであるが、歴史的な背景にはチェルノブイリ原子力発電所の核汚染やソ連時代の核兵器の処理、旺盛なエネルギー消費需要による原子炉建設など数々の問題がある。また天然ガスパイプラインを巡るロシアとの確執は、クリミア併合により紛争の火種となるリスクが高まった。

このような事情でウクライナの地政学的な概要を頭において、この国の実情を見直してみたい。

 

ウクライナとはどういう国?
 ウクライナは下の地図に示すように東ヨーロッパの重要な場所にあり、ロシアと国境を接するばかりか、西に位置するハンガリー、ポーランド、スロバキア、ルーマニアに近く東欧の中心となる要所である。人口4500万で首都はキエフである。黒海に面することからソ連は地中海に進出するため、黒海艦隊の拠点をウクライナの港においていたが、ソ連崩壊後は2004年のオレンジ革命後、親欧州政権のもとで拠点を失いかけたが、かろうじて親露政権のもとで存続を許されている状態である。ロシアの地中海への展開においてウクライナ母港の軍事的意義が高い、ことはウクライナ(クリミア)への強い執着の一端とみてとれる。

 

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 穀倉地帯として知られウクライナはチェルノブイリ事故で汚染による多大な被害を出した。また鉱物資源や石油、天然ガスに恵まれたことで、重工業、石油化学産業が栄えた。地中海へのアクセスという軍事的価値に加えて資源豊富なことでロシアにとっては手放せない「かつての領土」であった。15世紀後半から独立意識の高いコサックが、時の権力に対して反乱、抗争をたびたび起こした歴史から民族独立の高い意識が行き渡っていることが伺われる。コサックの独立精神はロシアから独立しようとする強い意志を支えていることは容易に理解できる。

 

キエフ
キエフは人口300万弱だが東欧で最古の都市である。11月から始る冬場は氷点下30度の極寒となり、2月までのエネルギー確保は生命にかかわる重要事項となる。ナチスドイツの占領後もソ連に組み込まれたウクライナは独立に向けた道を模索していた。オレンジ革命で達成されたかにみえたが、親露政権後に不安定になった。聖ソフイア大聖堂に代表されるように東ローマ帝国時代の由緒ある境界が市内のあちこちに存在感を放っている。ウクライナ国立歌劇場劇場のキエフバレー団は日本でも人気が高いが、キエフは東欧州芸術の街として知られる。

 

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原子力発電
 北国境に近いチェルノブイリ原子力発電所の1号機が国内初の発電を始めてから全部で4カ所に15基が稼働中(2013年時点、ATOMICA)(注)全体で約14MWの発電量を持っている。チェルノブイリの4号機は1986年の爆発事故で同型機4基全てが停止している。現発電力の占める全電力の約半分を占める。写真はウクライナのZaporizhia原子力発電所。

 

(注)詳しくはMichioさんコメント参照。

 

Kernkraftwerk Saporischschja

 

 2020年までに設計寿命を迎える12基について現在、寿命を延長するために改修工事が行なわれ、20年の延長が可能になった。しかし原子炉が旧ソ連製の黒鉛型軽水炉(注)であるため、核燃料をロシアから調達せざるを得ないためロシアリスクを抱えることとなった。これに対処するために西欧から燃料を調達する努力が行なわれロシアから独立した運転を目指している。

 使用済み核燃料の処理についてはしかしいまだにロシアに頼らざるを得ないが、やがてロシアから高レベル核廃棄物が戻ってくるため、貯蔵施設の建設を急いでいる。(ATOMICA

 

天然ガス
 ロシアはソ連時代から天然ガスを欧州に供給して輸出産業の中核としていた。そのためパイプラインで天然ガスを輸送して各国に輸出していた。パイプラインはウクライナを経由するため、ウクライナには体制崩壊前は割安な価格で供給していた。ウクライナ側はソ連時代からロシアにパイプラインの途中でガスの抜き取りを行っていたが、ロシア側もウクライナへの天然ガス価格を一方的に上げたことで、紛争が勃発し今日に至っている。写真はウクライナのパイプライン(JonnyBrazil)。

 

1280px-Pipelinebau in der Ukraine

 

 ロシアのガスライン閉鎖によりウクライナへのガス供給が停止すると、ウクライナばかりかその先にある欧州各国が影響を受けるため、ウクライナを迂回する新しいルートのガスラインが計画されている。依然としてウクライナはロシアへのガス料金の未納を続けており、ウクライナ問題の原因のひとつとなっている。

 

核兵器
 ソ連崩壊時にウクライナには大陸間弾道弾(ICBM)176基、1240発が存在していた。このためウクライナは世界第三位の核保有国となった。1992年にリスボン議定書が調印され、NPT加入することとなった。しかしウクライナ議会の抵抗でロシアへの核兵器移動はずれ込み、1996年に核兵器の移動が完了した。ウクライナは国家の方針として核兵器を使用しない非核国を主張している。(以上、「ウクライナの核廃絶」、末澤恵美)

 しかしロシアによるクリミア併合でウクライナ問題は再び悪化し、ウクライナ議会には格武装も辞さない、という声もあがっている。これはロシアからの想定される侵略に核兵器の使用もあり得る、という非核国との決別となる重大な転機を迎えたといわざるを得ない。

 

ウクライナのエネルギー
 人口4500万人のウクライナのエネルギー消費量は欧州でも突出しており、内訳は天然ガス37%、原子力18.6%で、これらが過半数を占めるため、両方とも生命線といえる。石油及び天然ガスの埋蔵量は石油換算で230億バレルだが87%は天然ガスであるまた1975年に天然ガスの算出ピークを迎え現在は70%をロシアから輸入している。

核燃料としてのウラン鉱山を持ち1500t/年の採掘を目指して開発を行なっているが、原子炉に使われる燃料の30%に過ぎない。ウクライナはエネルギー消費国で将来のエネルギー確保が安全保障の前提となる。ウクライナのエネルギー確保が国家としての生命線であるが故に、紛争の火種は絶えず深刻化する一方である。

 

800px-Protestors with demands of European values in Ukraine. November 26 2013

 

 注)加圧水型原子炉(PWR)と沸騰水型原子炉(BWR)
PWRはPressured Water Reactor、BWRはBoiling Water Reactorの略で、WRの名の通り核分裂で生じる炉心付近の熱を加圧された水(1次冷却水)を沸点以上に加熱し、熱交換で2次冷却水を加熱することで得た水蒸気でタービンを回して発電する。原子炉といえども(核融合炉ですら)、蒸気タービンで電気エネルギーに変換する古典的な手法に頼っているのである。

一般に原子炉の緊急時にはECCSと呼ばれる非常用の冷却システムが作動する。またパワー制御には制御棒を上から挿入し、万が一電気系統が故障しても重力で制御棒の全挿入(スクラム)が可能であるとされる。しかしチェルノブイリでは低出力時にこれを行なったがために、原子炉の暴走が起こった。

ロシア型BWRは格納容器がないので、緊急時にECCSに頼らざるを得ない。チェルノブイリ4号炉ではストレステストのために低出力運転で危険が無いと判断しECCSを停止していた。また制御棒を引き抜いた後で急激に出力が上がる特性に慣れない捜査員が、予期しない出力増加に慌ててスクラムを試みたが間に合わずに爆発した。ECCS停止は致命的であったが、IAEAに指摘されていたロシア型PWRの危険性を実証する結果となった。またロシア型BWRはフェルミが最初につくった黒鉛を減衰材として用いる「黒鉛型」であったことも、爆発後の火災を誘発して被害を大きくした。驚くべきことにいまだに1割の原子炉は黒鉛型といわれる。

PWRとBWRの差は前者では1次冷却水がタービン駆動に直接使わないが、後者では直接駆動することである。PWRでは2次冷却水は熱交換のみで1次冷却水と接触しないので、高レベル汚染水が原子炉外に漏れない構造のため、安全とされ大型の原子力発電所の他、小型のものは潜水艦や原子力空母に設置して稼働している。

PWRでは、このため蒸気タービンが原子炉と分離されて放射性物質を閉じ込めることが、有利とされる。しかし一方では熱交換器のトラブルが起これば、2次冷却水が汚染される可能性もあり、また熱交換器の存在で熱から電気エネルギー変換において損失が起こる。商用原子炉にBWRが多いのは熱効率が高く、構造が単純で大型化しやすいことによる。

ちなみにドイツではほとんどがPWRであり、日本でも敦賀原発など商業原子炉でもPWRを採用する電力会社もある。

 

 

 

コメント   

# Michio 2015年02月19日 21:01
旧ソ連製の黒鉛型軽水炉(RBMK)はチェルノビルの4基だけで、残りの12期はロシア型PWRのWWER 炉です。ウクライナは燃料のロシア依存を減らすためWestinghouse方の受け入れを目指しています

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