もうひとつの核拡散−劣化ウラン(DU)

 アイゼンハワー大統領が1953年12月の国際連合総会で行った「平和のための原子力(Atoms for Peace)」として知られる演説とそのアウトプットとしての国際原子力機関(IAEA)設立の経緯は、別記事で詳しくかかれている。IAEAの絶え間ない監視と調査によって、また大国の大量殺戮兵器の過剰な配備への反省によって、核の拡散と削減は成功したと考えられている。しかしその隙間をかいくぐってすでに拡散してしまったものもある。

 

 ここでは既拡散核の代表格である劣化ウラニウムについて取り上げる。劣化ウラン(Depleted Uranium)は略称DUと呼ばれ、ウランには違いないのだが定義は核燃料同位体U235の同位体含有量が天然ウランの0.72%より低いものである。ウランを核爆弾や原子炉燃料とするには、この同位体比を濃縮していく。天然ウランかよりU235の同位体濃度が低いのは何故か。

  ウラン濃縮後の残りのU235同位体比は約0.2-0.3%である。天然ウランには熱中性子による核分裂反応を起こし易いU235と起こしにくいU238が存在する。劣化ウランを原子炉の燃料として再利用するには、高速増殖炉ではU238を中性子でPu239に変換することで原理的には可能であるが、現実には技術的に困難でメドがたたない状態が続いている。

 

 簡単にいえば天然ウランからU235を分離した残りかすあるいは使用済み核燃料に含まれるやはり燃えかすである。したがって核爆弾あるいは核燃料の製造過程や原子炉からの使用済み燃料として、膨大な量の劣化ウランが存在するのである。ここまでは事実でどのくらいの劣化ウランが存在するのかは、各施設の資料を合計すれば統計がでるはずなのであるが、各施設とも公表していないので推察にとどまる。それは驚くべき数値で世界の総計は150万トンといわれており、中でも核開発で圧倒的な劣化ウランをつくりだしたのは米国でおよそ半分に達する。

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 これらの劣化ウランは産業廃棄物(注)だが投棄できずに特殊なコンテナ(写真)に封入されて、核施設(ハンフォードなど)に保管されていた。しかし核開発と原子炉運転で年々増えて行く厄介なお荷物であった。一方で劣化ウランといえども立派な重金属ウランで、圧倒的な密度19g/cm3を生かせば、その砲弾に添加して強度を増して徹甲弾の威力を増すために使用される。これが劣化ウラン弾(下の写真)である。劣化ウランの知識は教育を受けた一部の将校しか持っていないため、砲弾破片に近い場所にいた兵士や粉塵を吸い込んだ住民は被曝した(フォローアップ参照)。

 

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(注)天然ウランの放射能は25.4Bq/mgで劣化ウランは14.8Bq/mg。なおU235の崩壊はアルファ線を放出して、トリウム231となる。日本での一般食品の規制値は100Bq/Kgなので、上記の値は107倍となる。粉塵として0.1gが体内に取り込まれれば最大0.7mSvとなり、体内被曝となり得る。米軍は(公式に認めていないが)危険性を理解していたと思われる。

 

 劣化ウラン弾は湾岸戦争で大量に使用され、後のイラク空爆を含めると300トンが使われた。これによる住民や米軍兵士の被爆で癌や白血球異常が報告され訴訟に発展しているが正式に認められていない。被爆者の症状と被曝の因果関係を当事者が認めないのは、どのケースでも同じであるが、劣化ウランが核の既拡散となったことは事実である。

 今後は国際法での規制で(生物化学兵器同様に)劣化ウラン弾の使用禁止を実現して欲しい。しかし最も重要なことはIAEAに全てを任せればよい、というのでなく国民全員が劣化ウランのリスクを認識し新たな核拡散を避ける政府をつくるように、努力すること、そのためにその重要性を教育することが重要なのではないだろうか。

 

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フォローアップ10.28.2014

Michio追記

(1)ウラン金属は比重が高く、かつ硬度が高いことで知られている。そのため先端のとがったPenetratorに加工され、対戦車砲弾として用いられる。Penetrator(2枚目の写真)が戦車の車体を貫通する過程で、摩擦熱が生じ、これが引き金となりウランが発火し(いわゆるテルミット反応)、その熱でPenetratorのまわりの車体金属が溶融し、そこに爆薬の入った戦車砲弾本体が入り込むので、高い爆発力を得られる。

(2)金属が溶解するので、戦車の乗員は高温にさらされ、死亡率が高いものと思われる。また高温の空気(金属の粒子や金属の蒸気をふくむ)を吸い込むので呼吸器の障害が重度となる。

(3)劣化ウラン弾と放射線障害の関係は確定事項ではない。高温の煙,気体を吸い込んだことによる呼吸器系の障害が問題となる可能性が高い。

 

 一方で劣化ウラン弾が使用されたコソボ住民、イラクのバスラ地域の住民、米軍帰還兵に癌発生が多発しているとの報道が相次ぎ物議をかもしている。劣化ウランの直接的被曝とは考えにくいが、これらの事実をどう説明するのか疑問は残る。もしかしたら重金属による癌発生メカニズムがあるのかも知れない。この問題に関連しては中国のある地域では重金属汚染により癌患者が多い「癌村」が存在するとの報道もある。

 

コメント   

# 桜子 2014年10月28日 07:23
Youtubeみました。劣化ウランの使用を科学者が軍に提言したそうですね。そういう人たちは本来反対す るべきだったのに。残念です。

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