事故と平常の分岐点

 デンゼルワシントン主演の2012年の映画「フライト」は突然、制御不能になった機体をとっさに背面飛行で切り抜け、胴体着陸で乗客を救った機長を描いている。英雄として扱われた機長はしかしアルコール中毒で、あらぬ疑いをかけられてしまう。戦闘機(下の写真)では普通だが旅客機で背面飛行はあり得ないことであった。背面飛行で水平を保つのは高度の技術が要求されるし、民間のパイロットはそのための訓練を受けていない。

 

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 しかし全日空機(Boeing737)で2011年9月、副操縦士がスイッチを誤操作し、機体が背面飛行に近い状態になって急降下した。一歩間違えば全乗客が帰らぬ人となるところであった。運輸安全委員会はこの副操縦士が以前乗っていた飛行機と勘違いして、ドア解錠スイッチとラダートリムコントロール(注)を勘違いしたことが原因とする最終報告書をまとめた。

(注)ラダートリムコントロール

 方向舵の制御を行うメカニズム。方向舵全体を動かす粗い制御と別に小片(トリム)の調整で細かい制御を行う事ができる。方向舵の動きは左旋回モーメントをつくりだし結果的に機体を回転させる。事例では何段階かの調整位置を通り越して調整しろいっぱいに入れられていた。下の写真で垂直尾翼の可動部分がラダートリム。トリムといってもあなどれない。スラビライザー(水平尾翼)トリムの駆動部の破損が致命的な事故につながったアラスカ航空261便墜落は記憶に新しい。

 

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 旋回しながらの1,900mの降下中は重力に逆らうGが発生するので乗客は逆さになっても落下することはなく、シートベルトのおかげで客室乗務員の軽傷で済んだ。しかしラダーコントロール(方向舵)スイッチとドア開閉スイッチの色や動作が回転であることは、似ていても感覚として単純回転するスイッチと安全のため押し込んで回転するスイッチを間違えるだろうか、という疑問も上がっていた。Boeing737のコックピット(下の写真)はスイッチや計器類は整理されて配置されてはいるが、旧式のままの部分もある。そもそもオートパイロット中にその指示と反する手動入力が加えられたことによる事故は他にもあり、今後は相反する入力が加えられたときの対応については、見直さなければならないだろう。アポロ宇宙船の3システムの多数決によるredundancyは有名である。

 

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 どんな装置でも熟練オペレーターは操作感覚(入力に対するレスポンス)が身に付いているはずである。しかし精神的な問題や体調不良、もしくは何らかの注意を引く予期せぬ事象があれば別である。オートパイロットで飛行中にピトー管が凍結し速度計の表示が矛盾したことがきっかけでパイロットが混乱してエールフランスAF447機が大西洋に墜落した事件が有名である。この場合はパイロットは速度超過と思い込み最後に失速して墜落した。しかし優秀な人材であったならたとえ速度計が異常な数値をだしていても、スロットルでエンジン推力が推測できるので失速するほど絞り込むことはしないだろう。

 

 中国の新幹線事故は落雷停電で停車中の車両に後続車両が追突して、悲惨な事故を引き起こした。そのとき官制センターは継続走行を希望した先行車両に停車指示を出して、運転士が命令に従ったために衝突した。自動制御システムの動作不良と上位の人間の判断ミスが重なって事故は起きた。一方、福島原発では政府の注水中止命令に反した所長が、独断で継続してなんとか格納容器の爆発が食い止められた。

 平常と事故への分岐点はとなる最後の判断が人間側に委ねられている。熟練職員の育成は時間と経費がかさむものだが事故を減らすにはこれが基本なのではないだろうか。

 

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