ウイーン発:シリアからの難民

今年のウイーンの夏は記録的な暑さで、8月から9月初めまで最高気温が30度を上回る日が続いていました。言い訳ではないですが、あまりの暑さで、冷房のない我が家で原稿を書く気にもならず漫然と過ごしてしまいました。Hiroyukiさんの難民の記事に刺激され、ウイーンの近況を報告してみたいと思います。

運び屋(Schlepper)

8月27日にハンガリーとの国境の近くの高速道路脇に、冷蔵車が乗り捨てられ、乗せられていた71人の難民の腐乱死体が見つかったニュースを記憶されている方も多いと思います。実は昨年来,我が家の周辺でも昨年来、大変な問題が発生していました。最初に気が付いたのは1年以上前に、最寄り駅であるプラーターシュターン駅からの狭いバス通りの脇に駐車していた大きな荷物運搬車でした。この車は何週間も違法駐車し続け、タイヤを施錠され、さらに何週間も放置されたのち、最終的に警察か市により撤去ました。当初はあまり気にも留めなかったのですが、我が家の周りにも乗り捨てられ、施錠された車をしばしば見かけるようになり、気になるころになるとさすがに新聞報道などで大々的に取り上げられるようになり、ハンガリー方面からの難民の移動に使われた車であることが明らかになりました。世界中を驚かせた難民死亡事故はこうした車の一台だったわけです。

私の住むウイーン2区、レオポルドシュタットは、ハンガリー国境のニッケルスドルフからウイーンへ至る高速道路の出口に当たり、ドナウ運河沿いに幹線道路が走り、緑の豊かなプラーター公園のある地域です。乗り捨てられた車は、アフガニスタン、シリアをはじめとする国々からの難民の移 動に利用されたものです。多数の難民を車に詰め込み、オーストリアまで運んでくる組織的 "運び屋(Schlepper、シュレッパー)" の 仕業です。彼らは難民を車に詰め込み、ウイーンまで運び、高速道路の出 口に近いプラーターの周辺で(多分闇夜に紛れて)難民を降車させ、放置するようです。難民を運んだ車は、ときに処分を兼ねて乗り捨てられ、違法駐車する車となったわけです。こうした運び屋は難民から多額の輸送費を取り、安全を無視した搬送を行い、荒稼ぎをしており、組織犯罪とのつながりも想像に難くないと思います。

我が家の周りで見かけた車の写真を紹介します。スイスナンバーのアウディは我が家の脇に乗り捨てられ、施錠されていたものです。大きなバンはプラーターの近くで2台隣り合って乗り捨てられ、施錠 されていました。ハンガリーとルーマニアのナンバーでした。警察の通知がトルコ語、ブルガリア語、ルーマニア語、ハンガリー語、チェコ語、ポーランド語、 スロバキア語、スロベニア語、クロアチア語で貼られていました。

難民死亡事故の後、ハンガリーからウイーンへ向かう運び屋の車への規制、取り締まりが強化されたようで, 我が家の周りで乗り捨てられた車を見かけなくなりました。

 

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乗り捨てられ、クランプされたAudi (アウディ)、こうした高級車が難民の移動に使われるのは珍しい。

 

 

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プラーターの森の脇でクランプされていた2台の車。ウインドウに警察からの告示が多国語で貼られていた。

難民のルート

シリア、イラクなどから戦火を逃れる難民の多くは、トルコ、ヨルダン、エジプト、レバノンなどの近隣諸国にまず逃れます。クルド人、イスラム国(IS)など複雑な民族、宗教を巡る争いの続く地域に逃れるため、難民の生活は厳しいものでしょう。戦火の地から逃れるために多くの難民が財産を失い、さらなる避難をできないのが現実でしょう。しかし、一部の人々は残された財産を使い、ヨーロッパへ逃れるべく、ボスフォラス海峡、エーゲ海を渡る危険の大きい旅に挑戦しているわけです。エーゲ海を渡る場合、トルコからギリシアのコス島、レスボス島へ小型船で向かい、上陸し(時には救助され)、そこから船でギリシア本土に渡ります。ギリシア本土、ヨーロッパ側のトルコからさらにドイツ、オーストリア、北欧諸国を目指し、北へ向かう旅が続くことになります。

シェンゲン条約

ヨーロッパの多くの国が移動のためのビザを撤廃(シェンゲン条約)しており、難民に対しては最初に入国したシェンゲン加盟国で、難民申請をすることを定めています。しかし、多くの難民が受け入れ後の生活条件を考え、ドイツ、オーストリア、北欧での難民申請を希望するのを好むようで、ギリシアでは難民申請せず、ルーマニア、ブルガリア、マケドニア共和国、セルビアなどのシェンゲン未加盟国を陸路通過し、ハンガリー(シェンゲン加盟国)を目指すことになります。難民で混雑するギリシアとマケドニアとの国境、ハンガリーとセルビアの国境の報道を見られた方も多いと思います。これらシェンゲン未加盟国を違法に通り抜け、シェンゲン加盟国へ入るために先に述べた運び屋による難民輸送が行われてきたのです。このためシェンゲンへの難民申請をしていない多くの難民がハンガリーに集まり、彼らを収容する施設が満杯になり、業を煮やしたハンガリー政府は違法入国者の制限を目指し、南のセルビアとの国境警備を強化するため、国境に鉄条網を設置し、他のシェンゲン加盟国(ギリシア)を経由してきた(ビザを持たない)難民の受け入れを制限するなどの政策に変更し、規制を強めたわけです。これに対し、ドイツは特例としてハンガリーからオーストリアを経て難民が鉄道でドイツへ入国することを認め、シリア難民を8万人受け入れることを表明し、EU各国に相応の分担を求めました。ハンガリー、スロバキアなど反対する国がありつつも、多くの国がなん見抜け入れ枠を受け入れることを表明しています。今年中にヨーロッパに到着する難民は20万人と推定されています。メルケル独首相の見せた指導性は素晴らしいものがあります。

ドイツへ向かう難民

かつて冷戦時には、ハンガリーからウイーンへの国境は、国境検査を待つ車が長蛇の列をなし、車の下まで鏡で調べられる厳しい検査が行われていたものです が、シェンゲン条約により最近では何の検査もなくオーストリアへ入国できるようになっています。しかし、ビザを持たない難民に対し、ハンガリー政府はこの国境を歩いて超えることを求めているようです(個人的には。嫌がらせと思います)。シェンゲン条約加盟国の国境といえどもビザなしの通過は違法ですから、難民には気がかりの種が増えたと思います。

昨日(9月13日)ドイツがオーストリア国境での難民に対する入国検査を開始すると発表しました。バイエルンに勢力を持ち、ドイツ連立政権の一翼であるキリスト教民主党が大規模な難民受け入れに対し懸念を示しており、それに配慮したためです。

今朝のニュースによれば、難民の移動経路が変化しているようで、スロベニアとオーストリアの国境に難民が向かい始めたとのことです。難民に友好的でないハンガリーに行くより、旧ユーゴスラビアを横断し、スロベニアを経てオーストリアに入るのが得策と考えてのことと思います。

難民、移民の受け入れ

いくつかの国の難民、移民の受け入れに対する私の主観的な感想を書きます。間違い、誤解、独断があると思いますのでその節は許してください。

オーストリア:ハプスブルグ帝国以来、トルコとの戦争、ボスニア、セルビア、ハンガリーの統治を通じて、ウイーンは様々な民族を受け入れてきました。我が家近くのバスの中ではスラブ系の言葉を話す人が多いのが目につきます。ちなみにうちの家主夫人はチェコ出身です。ユーゴスラビア崩壊後、家族を頼ってウイーンへ来て働く南スラブ系の人が増えた気がします。ちなみに我が家の掃除をしてくれていたセルビア人の女性は娘夫婦を呼び寄せ、一緒に暮らしています。また、21世紀になって感じるのは、アフリカ系の人が増えたことです。シェンゲン条約でフランス、スペインから移ってきたのではと思っています。また1989年のベルリンの壁崩壊の時には、避難民の受け入れにオーストリアとハンガリー、チェコスロバキアの国境が開かれたことも印象的でした。

ドイツ:1960-70年にかけ労働力不足を補うべく大量のトルコ移民を迎えました。私たちがウイーンへ来た1980年代には夏になると、トルコへ向かう車が列をなしていたものですが、最近ではドイツへの定住が進んだようでめっきり減りました。また、冷戦後、ドイツは東ドイツ系住民を受け入れ、財政的に支え、今日の繁栄を遂げているわけですが、現在のシリア難民の受け入れに関しても将来の労働力として受け入れると積極的な姿勢を示しているのが印象的です。ただ、先に述べたオーストリア国境に近いバイエルンや相対的に貧しい旧東ドイツ地域での難民への抵抗も予想されると思います。

英国:アラブの春以来、地中海西部では北アフリカ(主にリビア)から南フランス、南イタリアへボートによる大量の難民が流入しています。多くが英国を目指すため、英仏を結ぶトンネルの入口に「ジャングル」と呼ばれる難民キャンプができています。英国は難民受け入れに消極的でしたが、最近受け入れを拡大し始めています。以前から、技術、専門知識のある人材の受け入れには寛容なようで、優秀な労働力として難民、移民を受け入れてきたことに学ぶ必要がありそうです。

このほかのヨーロッパの国々には触れませんが、第二次大戦中、戦後を通じてヨーロッパ各国は数千万人と言われる難民が発生しました。多くの国が難民を受け入れ、統合して復興を進めました。そうした意味で、ヨーロッパ各国の難民への受容性は極めて高いと思います。難民の多くは戦争で荒れた母国から生命の危険をおかして逃げてきたわけで、人 道的に受け入れられるのが理想ですが、ヨーロッパ各国政府、国民ともその負担に限界を感じているというのも一方での実情と思います。

最後に

最近イエメンへの空爆が強化されたとの報道があり、シリアの内戦、各国とISとの戦いは収まる気配がみられていないと思います。これからも膨大な数の人々が戦火を逃れ、近隣国、さらにヨーロッパを目指すことになると思います。

 

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