E3/EU+3とイラン:包括的共同行動計画 で合意(2015年7月15日)

歴史的合意

放射線ホライゾンで ウィーン便りを書き始めてから2年が経ち、2013年11月からは時に応じてイランの核交渉を取り上げてきた。2013年8月にロハニ大統領が就任し、柔軟な外交政策に変わり、2013年11月に包括的共同行動計画 (JCPOA, Joint Comprehensive Plan of Action) が合意され、それに基き、IAEA の査察、検認、監視活動が進められてきた。JCPOAの実施により、ウラン濃縮、重水炉をはじめとするイランの核開発の進行にブレーキがかかり、その規模も縮小されてきた。こうしたイランの対応が国際社会で一定の評価を受けてきたことを反映したのであろうか、先日2015年7月14日にE3/EU+3 (英、仏、独, EU, 米、露、中)とイランの間で、新たなJCOPA が合意され、制裁措置の軽減、終了に向けての道筋が示された。安保理の制裁を合理的な道筋に沿って、各国の長い協議を経て、制裁解除に至ることになるので歴史的合意といえよう。

E3/EU+3とイランと共同声明

今回のJCPOAは EUのモゲリーニ上級代表とイランのザリフ外相により、E3/EU+3とイランの共同声明として発表された(*1)。予定より、約2週間遅れて発表されたが、その中身は、イランが核兵器開発を遅らせる措置を自発的に定め、これら措置が成功裡に実行されたことをIAEAが検認すれば、国連安全保障理事会(安保理)決議、一国または複数の国のグループの政府が定めた制裁措置が包括的に解除されるというものである。今後のIAEAの検認の方向性、時間軸、実施計画の決定に十分なガイドとなると思われる。

 

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Photo: European Union

 

JCPOAの内容

JCPOAは159ページに及ぶ文書で、18ページの主文と5つの付属文書から構成される。主文の冒頭では、「JCPOAを完全に実施することでイランの核プログラムが純粋に平和目的であることが保障され」、「どのような状況でもイランが核兵器を求めず、開発せず、保有しないことが再確認され」、「JCPOAを成功裡に実施することで、イランは原子力の平和利用をNPT非核兵器国として享受でき」、「JCPOAにより安保理決議による制裁やそのほかの多国籍、一国による制裁が包括的に終了することになる」と述べられている。JCPOA の定める詳細により、IAEAはイランの核関連の自発的措置の実施を監視し、検認し、その報告書を理事会、国連安保理に提出する。今回の合意により、E3+3は「JCPOAにより合意された核関連措置が実施されたことを、IAEAが検認した時点で、国連安保理のイラン核関連の一連の決議案の実施を終了させる」旨の決議案を速やかに国連安保理に対し提出する。

JCPOAではイランは核兵器開発の可能性をなくすための自発的な措置をとり、E3/EU+3をはじめとする各国が制裁措置の解除するための措置を自発的にとることが定められている。双方が自発的に定めた措置を責任もって実施することが基本となっているので、実行可能性が高く、双方が相手の措置の有効性を認めて合意したので核問題の解消に有効であると考えられる。

JCPOAの実施に当たり、イランとE3/EU+3は次の措置を自発的に定め、実施する(抜粋):

 

核関連の自発的措置(付属文書I):

(1)ウラン濃縮に対しては旧型の遠心分離機(大幅に削減)による運転をナタンツに限り、フォルドーではウラン濃縮を停止し、汎用研究施設に変更する。最初8年間は新型遠心分離機の利用を制限。濃縮ウランの蓄積に厳しい制限を設ける。15年をめどにイランの濃縮、核燃料生産能力の向上を目指す。

(2)アラク重水炉は大幅な設計変更を行い、プルトニウム生産能力を制限する。重水生産は過剰在庫の生じないように制限する。15年にわたり再処理関連施設、R&Dなどの活動を制限する。

(3)透明性、信頼を醸成するための措置を行う。イランは追加議定書、議定書3.1項(設計情報の提出)を受け入れ、実施する。

(4)過去から現在に至るイラン原子力プログラムに関する未解決の懸案の解決(GOV/2011/65) へのロードマップをイランとIAEAは合意し、共同で実施する。以下のIAEAとイランの共同声明参照。

(5)核関連自発措置の実施を監視するためIAEAの広範なアクセス(e.g. ウラン鉱山、遠心分離機ローターの監視、査察官のアクセス)を20-25年後の将来にわたり認める。

制裁の解除のための自発的措置(付属文書 II):

JCPOAにより合意された核関連措置の実施を、IAEAが検認したことをもって、国連安保理決議、EU、米国による制裁を終わらせる。E3 +3は先に述べた決議案を国連安保理に対し提出する。EU加盟国、米国は制裁解除のための法的措置をとる。

民間の核関連協力(付属文書 III) :

イランが国際社会で、核関連技術協力を再開することが定められている。

共同委員会(Joint Commission)の設置(付属文書IV):

E3 +3とイランは、JCPOAの実施状況を監視し、見解の相違を解決するため共同委員会を構成する。

JCPOAの実施計画(付属文書 V):

行動の順序、時間軸を定める:
Finalisation Day, Adoption Day (国連安保理によるJCPOA の受け入れ後90日目),
Implementation Day (IAEAがイランが核関連の自発的措置を実施したと検認した日)、
Transition Day(Adoption Day から8年目),
UNSC resolution Termination Day (Adoption Day から10年目)。

JCPOAについて気付いた点

イランのとる核関連の自発的措置(付属文書I)のうち、制裁の解除にかかわる項目は付属文書 Vに詳細に定められているが、ウラン濃縮(規模、R&D、フォルドー、遠心分離機製造)、重水炉(設計変更、重水製造)などに限られ、明らかに実現可能である。

ウラン濃縮能力は旧型の遠心分離機によるナタンツでの運転に縮小されるが、小規模ながら新型機のR&Dも続けられそうで、制裁が解除されれば、先進技術、材料の獲得への道が開けることを思えば、ウラン濃縮技術開発への痛手は限定的かもしれない。IAEA査察官のアクセス、監視などが強められ、高濃縮ウランの生産は難しいので、ウラン濃縮経路からの核兵器開発は難しいであろう。

重水炉、再処理を通じてのプルトニウム経路はそもそもイランではあまり進んでいなかったので、設計変更されたアラク炉に各国の支援を得て、将来への技術蓄積の機会かもしれない。国際支援=国際監視の側面があるので、各国の眼をかすめ、将来にわたりアラク炉のプルトニウム生産はしにくいであろう。

透明性、信頼のための措置は追加議定書、議定書3.1項は実行されるであろう。しかし、未解決の懸案については、平行線の溝が埋まらず、後述するが、IAEAとイランのロードマップにゆだねられたようである。

制裁解除に関しては、米国、EU各国の制裁関連の法律の複雑さ、制裁の対象となった企業、個人、船舶、飛行機などのリストの長さに感心したが、理解することは諦めた。IAEAとイランのロードマップの実施にかかっているが、米国共和党の反応、国連安保理での討議、決議にも注目したい。国内の反対を牽制するためと思われるが、オバマ大統領の会見を紹介する。

 

民間の核関連協力の再開は朗報である。イランの核技術能力の向上につながるであろう。未来の核技術供給国を目指すイランの成果とみることができる。PWRを含むプロジェクトの進展を見守りたい。

JCPOAの実施計画で定められた時間軸は遅いようであるが、制裁が始まった2006年以来、近い将来制裁が解除されても10年近い歳月が流れていることを思うと決してイランにとっては悪い取引ではないと思うし、国際社会から見ればイランの核兵器開発能力を封じ込めている成果があろう。最初のマイルストーンのImplementation Dayは歴史的な日となるであろう。安保理の制裁を合理的な道筋に沿って、制裁解除に至るまれな例となるからである。また8年後のTransition Dayを経て、イランの核開発の制限解除のプロセスは将来の糧となる試みであろう。

前回の投稿では「現在の交渉が中東和平に大きな進展を与える目的のものではなく、イランでの核開発にブレーキを掛けるのが目的と割り切って、効果的な査察監視体制に合意し、制裁の段階的緩和を実施するのが現実的と思うのだが。」と書いたが、今回の合意はこの線でまとまったものと思う。軍事的次元の可能性(Possible Military Dimension, PMD) や過去、現在にわたる疑惑の解明は合意が難しかったようで、それらの解明の道筋を明確に定めず、詳細はIAEA とイランのロードマップ(後述)にゆだねているようである。

IAEAとイランの共同声明(2015年7月14日):ロードマップ

JCPOAの発表と同じ日に、IAEAの事務局長の天野氏と、イラン副大統領兼イラン原子力機構代表のサレイ氏が共同声明を発表した (*3)。 IAEAとイランは、共同で過去から現在に至るイラン原子力プログラムに関する未解決の懸案(GOV/2011/65)(*4) の解決へのロードマップを共同で作成しその実施にあたることに合意した。具体的には8月15日までにイランは懸案の説明文書と関連書類を提出し、9月15日までにIAEAは提出された情報をレビューし、イランにはっきりしない点を質問する。イランはIAEA への質問に答える専門家会議などをテヘランで開催する。懸案のパルチン(Parchin)  関する措置は、イランとIAEAの間で別途合意された。10月15日 までにこれらを完了し、未解決の懸案を解明し、理事会への報告書にまとめ、12月15日までに理事会の承認を得る。

 

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Photo: ALALAM

 

制裁解除に向けて

筆者の理解では、この理事会への報告書は二つの要素が含まれれるであろう。

ひとつめは、IAEA事務局長はイランの定めた核関連の自発的措置が実施され、それを検認してきた旨を報告し、JCPOAの付属文書 Vに定められる制裁解除にかかわる付属文書 Iの措置の実施状況に関する報告である。

ふたつめは、かの未解決の懸案についての進捗状況の報告である。、JCPOAの主文ではイランとIAEAの合意したロードマップに定められたのと同じ時間軸を示し解決を求めているが、付属文書 Vではかの懸案の解決が制裁解除の要件とはしていない(と筆者は理解した)。12月15日の理事会には、未解決の懸案の解決の進捗状況を報告するものの、たぶん全面的解決はないと思う。制裁解除の判断については理事会が決めると思う。懸案のパルチン(Parchin) などに 関する措置の進捗が理事会の判断に重要であることはイランも承知しているだろうから、いくつかの譲歩は得られる可能性があろう。想像の話で、申し訳ないが筆者の語学力、想像力の限界なのであいまいさを斟酌していただきたい。

歴史的なImplementation Dayが早ければ12月にも訪れることを期待している。

(*3) https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/iaea-director-generals-statement-and-road-map-clarification-past-present-outstanding-issues-regarding-irans-nuclear-program

(*4) https://www.iaea.org/sites/default/files/gov2011-65.pdf

 

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