イランとP5+1の核交渉

実のところは?

昨年にはEU3+3とイランの交渉と呼ばれていたが、アシュトン氏の退任後P5+1に戻ったようである。このところ注目度の低くなりがちなイラン情勢であるが、2006年7月の最初の国連安全保障理事会決議(1696)から9年が経過している。正直出口が見えてこないというのが実感である。先月末から外務大臣級の折衝がウイーンで進められており、イラン外務大臣のザリフ氏が段階的な制裁措置の解除に同意すると発言したとの報道もあるが実のところは不明である。

最近EUとギリシャの財政赤字、緊縮財政の交渉が続いているが、プレスとのインタビューでバルファキス財務相が「就任以来、公式の会議で言われていることと、報道のマイクの前で話されることの違いに驚いている。公式の会議でのEU各国の発言を聞くにつけても、国民投票で、EUの譲歩を引き出せることを確信している」と語っていたが、ザリフ氏の発言も割り引いて聞いておく必要があるだろう。

 

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Photo: The Huffington Post

 

国際交渉の実のところは難しいですね。

 

次のステップ

ひとつ確実なことは、期限であった6月30日には合意文書は発表されなかったことで、オバマ大統領が4月に「この合意は出来上がったものではない。これから作り上げるものである。(This is not a done deal.  We need to further work out)」と述べていたように、科学技術、核不拡散の専門家の意見を取り入れた効果的な査察監視体制の枠組みに合意することが期待されていたわけである。しかし6月30日の期限を前に、イラン国内から雑音が聞こえてきた。イランの宗教界 の最高指導者であるアリ·カメイニ師が「テヘランは軍事施設根の査察を受け入れないし、科学者への事情聴取も認めない」と発言した。従来、欧米側は軍事的側面の可能性(possible military dimensions、PMD)が制裁解除、緩和への鍵と主張し、イランの譲歩を迫ってきたので、このカメイニ師の発言が、合意へのボトルネックであることは明らかであろう。

 

査察を担当するIAEAの天野事務局長のインタビューが報道されている。IAEAはP5+1とイランの当事者ではないので、あまり深い発言ではなかったように思う。IAEAはイランと共に共同行動計画を進めてきており、さらに今後の合意枠組みを実施する用意があると述べており、12月を進展の次の目安に置いているとのニュアンスが示されたと思う。特に目新しい発言はなかったと思う。PMDを含む以前からの懸案に触れたものの、あらたな進展に関しての発言はなかった。

 

イランの核兵器開発

イランの問題が注目され始め、10年以上経過したわけで、過去をざっと振り返って、今後の行方を考えてみたい。以前にも書いたが、イランの原子力計画は1970年代のパーレビ国王時代にさかのぼる。豊かな石油資源からの財源をもとに、ヨーロッパのウラン濃縮開発に莫大な投資を行い、ドイツ企業とのブシェール原子力発電所建設の契約が行われた。当初からエネルギー事情のよいイランの原子力に対しては、核兵器開発への隠れ蓑ではないかとの意見があった。1980年代にイスラム化が進行し、イランー·イラク戦争で両国の経済が疲弊したが、イラクの核兵器開発が進む中、イランもまたパキスタンのAQカーン秘密市場からの濃縮技術の導入を模索し始めた。テヘランやイスファハンの原子力研究施設は早い時期から整備されていたが、1990年代には西側の援助が滞る中、中国、アルゼンチンなどとの協力を強め、のちに明らかになったように、この時代に、未申告のウラン濃縮研究がAQカーンの協力を得て進められていた。これと並行して秘密裏の核兵器開発計画が始められた。個人的には1990年代以降、大統領に率いられる政府と、アヤトラに率いられる宗教界と親衛隊の意見が一致したため、西側特に米国との融和を模索しつつも、ウラン濃縮を含む核兵器開発が秘密裏に進められたのではないかと思っている。現在問題となっているPMDの根源はこの時代に遡る。

9.11ののち米国との関係が悪化する中、ウラン濃縮の研究開発、ウラン精錬、転換、濃縮、加工などの施設が整備されたが、2005年に、科学技術の振興に熱心なアフマディーネジャード大統領が就任し、原子力政策も継続したが、その政権下で核兵器開発計画が進んでいるという明らかな指摘はないように思う。もっとも、先進技術、材料の獲得などでは一貫して健闘しているようである。

 

アフマディーネジャード政権の失敗

反体制派による秘密濃縮施設の告発に端を発し、イランの核開発を危惧する国々によりIAEA, 国連安全保障理事会の一連の決議が支持され採択された。これら決議が採択された背景には次の点がある:米国との対決を演出したアフマディーネジャードの政治姿勢、イスラムの盟友国パキスタンへの不利益の波及することへの危惧、パキスタンでの生産された極微量の高濃縮ウランを検出したIAEAの検認能力の過小評価である。いずれにせよ今日のイラン制裁はアフマディーネジャードの外交政策の失敗によるものである。

こうした経緯から現在問題となっているPMDは2005年以前に遡るものである。先にイラン社会のふたつの指導グループ、政府と宗教界、の関係は込み入っており、秘密裏に行われた核兵器プログラムの全容を知るのは困難であり、イランの政府からすれば、一部を認めれば更なる疑惑が生じるわけで、イタチごっこになるため、情報の提供、軍事施設への査察をかたくなに拒んでいうわけである。一方西側諸国から見れば、制裁の継続で自ら失うものがないので、イラクの協力姿勢を確認する踏み絵としてPMDを利用しているわけである。

 

どこへ?

筆者としてはこの折衝は簡単に、短期的には合意に行き着かないのではないかと思う。現在の交渉が中東和平に大きな進展を与える目的のものではなく、イランでの核開発にブレーキを掛けるのが目的と割り切って、効果的な査察監視体制に合意し、制裁の段階的緩和を実施するのが現実的と思うのだが。

 

 

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