米韓原子力協力協定の改定(2015年4月22日)

米韓原子力協力協定の改定

報道によれば、米国と韓国は2015年4月22日、米韓原子力協力協定(Agreement for Cooperation between Government of the United States of America and the Government of Republic of Korea concerning Civil Use of Atomic Energy)の全面的改定に合意した。米韓協定は1956年2月に署名され、1972年と1974年に改訂され、現行の協定は2014年3月で終了するものであったが、2010年10月に開始された改訂のための交渉が長引き、米韓が2年間(2016年3月まで)の延長に合意し、現在も継続している。延長期間内に米韓の議会の承認を受ける必要がある。

交渉の焦点は、ウラン濃縮と使用済み燃料の再処理であった。濃縮、再処理に関する制約を取り除くことを韓国が求めるのに対し、米国は核不拡散の配慮から米国が供与した核物質、施設などを用いての濃縮、再処理を制限するという政策の継続を主張した。核不拡散条約に加盟する非核兵器国で、ヨーロッパ以外で濃縮、再処理を行うことが米国との原子力協力協定で合意しているのは日本だけで、韓国は長年にわたり、濃縮、再処理の自由を求めて、外交努力を続けてきている。

http://nnsa.energy.gov/sites/default/files/nnsa/05-13-multiplefiles/2013-05-02%20Korea_South_123.pdf

二国間原子力協力協定

このコラムで二国間原子力協力協定に触れてきたが、本題に入る前に、簡単にその役割を考えてみたい。1950年代前半にAtoms for Peace により、核兵器国から非核兵器国に対し、研究用原子炉とその燃料が供与された。1970年代まで、東西冷戦の中で、原子力技術の移転供与は続けられ、同盟関係の証しでもあった。1950年代、西ヨーロッパではEURATOMが地域保障措置を開始したものの、IAEAの保障措置の確立、NPTの合意は1960年代まで進まなかった。こうした状況に対処するため、供給国、非供給国の間で、二国間原子力協力協定により、供与された、技術、物質、施設などが平和目的以外に用いられないことに合意し、そのための技術的手法も定めた。初期にはプロジェクトごとに協定が結ばれたが、NPT が発効する70年代からは包括的な協定に移行した。米韓協定は1974年に改定され、40年の期限がつけられ、日米協定は1988年に改定され、30年の期限がつけられている。

二国間原子力協力協定は1954年の米国原子力法(U.S. Atomic Energy Act)の第11章(国際的活動)第123条(他国との協力)で定められる要件(保障措置など)が含まれなければならないことから、123協定ともよばれる。

1970年代の後半には、先の第123条は濃縮、再処理に対し米国の規制を強める方向で改定され、近年オバマ政権の下ではさらに濃縮と、再処理を明示的に禁止する「ゴールデンスタンダード」に基く二国間原子力協力協定を求めるようになっている。

http://nnsa.energy.gov/aboutus/ourprograms/nonproliferation/treatiesagreements/123agreementsforpeacefulcooperation

米韓協定改訂の合意内容

合意された米韓協定では「ゴールデンスタンダード」は適用されていないと思われ、報道では「韓国の濃縮、再処理に道が開けた」という見解から、「米国の合意なしには濃縮、再処理はできない」「何も変わっていない」という見解まで広範な解釈が紹介されていた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150424-00000010-rcdc-cn

こうした中で、中央日報日本語版に掲載されたキム・ギョンミン漢陽大学教授(政治外交学)の「半分の成功おさめた韓米原子力協定」と題された記事が目につき、客観的に書かれているので簡単に紹介する。今回の合意の要点が以下の5点にまとめられている。

(1)協定有効期間が現協定の42年から今後20年に短縮され、将来、韓国の原子力産業の発展を反映した改定がしやすくなった。

(2)協定により、安定した原子炉燃料供給の道が確保された。

(3)乾式再処理(パイロプロセシング、Pyro-processing) の韓米共同研究の継続が合意された。

(4)米国産の原子力発電所の部品などの輸出手続きが大きく簡素化され、時間も短縮されることになったので、韓国の原子力輸出が自由に行いやすくなった。

(5)韓米の常設高位級(i.e. 次官級)委員会を新設し、毎年定例会議を通じて原子力協力の履行過程を点検して協力することになった。例えば、米国産ウラニウムを20%未満に低濃縮しようとした場合、この委員会を通じて両国の合意の下で一定の手続きと基準により進行できる推進経路も設けられた。

結局のところ、濃縮については高位級委員会で合意して開始する道が開けたものの、韓国は当面濃縮を行わないことが確認され、再処理についても共同でパイロプロセシングの研究を続けることに合意したということで、米国の「ゴールデンスタンダード」は明文化されていないが、正直米国が取るべきものは取ったといえよう。韓国へのウラン供給の安定を保証し、核拡散が懸念される濃縮を封じ込め、韓国内の使用済み燃料の保管については技術協力を約束し、乾式再処理については共同研究を続けることに合意したものの、韓国の求める使用済み燃料を減らす手段としての商業規模での再処理施設は将来に棚上げにされた格好である。

一方で、韓国の技術力が認識され、韓国の原子力輸出の自由度が増したのは確かで、この点では韓国の成果といえよう。

こうした理由で、表題の「半分の成功おさめた韓米原子力協定」はおおむね正しいと思う。

http://japanese.joins.com/article/508/199508.html?servcode=100&sectcode=120

http://japanese.joins.com/article/509/199509.html?servcode=100&sectcode=120

韓国の核燃料再処理

私の手元に「韓国の自衛的核武装論」(趙 甲•(•はさんずいに齋)統一日報出版部)という本があるが、内容は表題ほど刺激的ではなく、韓国の原子力技術導入などの経緯も詳しく面白く読むことができた。その中に1970年代前半まで、韓国が朴正煕大統領政権の下で、カナダからのNRX 研究炉(重水減速、軽水冷却)の輸入と、フランスからの再処理技術の導入を計画したとの記述がある。結局これらの計画は、米国からの圧力のため両方とも挫折し、核拡散を恐れる米国の圧力により、韓国は1975年NPTを渋々批准した。北朝鮮の核開発に先んじて、韓国が再処理によるプルトニウムの分離に関心を持っていたことは興味深い。NPT批准後、再処理技術の取得はいったんは忘れられたようであるが、1980年代の終わりごろから、日本に影響されたのか、韓国でも高速増殖炉への関心が高まり、再処理を含む閉じた核燃料サイクルの必要性が議論されるようになった。また韓国では24の原子力発電所が運転され、22GW をこえる発電容量があり、増加する使用済み燃料の貯蔵に悩んでおり、再処理の必要性の根拠として挙げられている。経済性では乾式貯蔵に遠く及ばない再処理への道を求めるのは説得力が薄い。先の「核武装論」に影響されたわけではないが、北朝鮮の核の脅威に備え、核兵器開発保有の技術を確保しておきたいという、国民的感情があるのかと勘繰ってしまう。だが、同じことは日本の高速増殖炉、再処理の国策に外国から向けられている視線と同じであることと自覚するのが重要だと感じた。

http://www.world-nuclear.org/info/Country-Profiles/Countries-O-S/South-Korea/

最後に

一口で言って米国の核不拡散へ向けての姿勢の硬さを感じる今回の米韓協定の合意であった。米韓の議会の承認を受けた後に開示される正式文書を見るのが楽しみである。本稿では触れなかったが、韓国の濃縮、再処理を認めないことで、北朝鮮を刺激することを避けたのも、今回の米国の硬い姿勢の背景であろう。 2018年に迫っている日米原子力協力協定の改訂を見守ってゆきたい。

 

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