WHOが警告:低レベル放射線長時間照射で癌リスクが高まる〜検証されたLNT

フランス、英国、アメリカの300,000人の原子炉作業員と放射線による癌発生の関係を調べたWHOの癌研究部門(International Agency for Research on Cancer, IARC)による最新の研究結果が公表された。IARCによれば低レベル放射線でも長時間の労働もしくは居住で癌による死亡率は上昇する、ということがわかった。癌発生のメカニズムを下に示す。

 

 

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Image: Defender Shield

 

この結果は権威ある科学雑誌BMJ(British Medical Journal)に発表され、過去最大規模の調査結果に基づくもので、低レベル放射線下での長時間被爆と癌リスクの関係を示す証拠が得られたことになる。300,000人の作業者の働いた1943年から2005年までのデータが調査対象となった。低レベル放射線の長時間照射と癌発生率の関係は過去、議論になってきたが決定的な証拠がなかったため結論が先送りされていた。論文はオープンアクセスでBMJサイトからダウンロードできる。

最新、最大規模の調査で低レベル・長時間の放射線被爆で癌発生が増えることが検証されたといえる。最近、福島第一の作業員が癌発生で労災申請していた際には17.4mSvの被爆であった。労災認定の下限は5mSv。自然放射線による2.4mSvと比べると、CTやPETでは何百倍も高い被爆を受けるが放射線治療の照射時間は短い。一方、規制値を下回る環境とはいえ何年にも渡って作業する場合、もしくはそういう地域に住む場合の影響については注目されるところだが、これまでの蓄積データでは低レベル放射線被爆と生体損傷の相関を明らかにすることができなかった。

確かにこれまで大量の被爆者から得られたデータ(下の図左)に対して低レベル放射線(下の図右)では極端に低い被爆領域のデータをどう取り扱うのか議論が分かれていた。損傷効果の発生率を放射線被爆量に対して0を通る直線とみるのか切片を持つ(有意な損傷に閾値が存在する)かである。

 

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Source: radioactivity.eu.com

 

ノースカロライナ大学とパリ南大学の研究チームの研究」によれば過去40年間の審査された46の論文の結果を整理すると、自然放射線レベルの低線量放射線の影響が統計的に有意のDNA損傷を与えることが明らかとなった(Biological Review)。この結果は世界中の地域にまたがる多くの調査結果を反映したもので低レベル放射線によるDNA損傷の可能性の議論に結論がようやくでたことになる。

パリ南大学の研究チームは低レベル放射線として自然放射線(バックグラウンド)に関する過去の5,000報の論文を整理して、その中から研究対象を比較できる46報に絞り込んだ。これらの論文ではそれぞれコントロールとより高い放射線を浴びたグループを比較して被爆量を精密に定量化したもので、相互に比較ができる。論文の一部は動植物への影響も含まれるがほとんどはヒトへの影響を調べたもの。

 

放射線障害の結果と考えられるDNA障害のデータを最新の統計処理を施して解析した結果、免疫学、生理学、突然変異と病気(ダウン症候群など)の発生の分類に依存した統計では説明できない損傷をみいだしたとしている。

注目すべき点はこれまでの議論の中心になっていた「閾値」(注1)は認められなかったことだ。過去数10年に渡って「閾値を超えなければ放射線は安全」、とされてきた。これを根拠に年間被爆量に関する規制値が設定されそれ以下では長時間労働や居住が許される一方、上回れば労働が許されず住民は退去となる。ただし原発作業員や特殊任務に当たる場合は一般人より多く(100mSv)設定されている「矛盾」があった。

(注1)ある放射線レベル以下の被爆では生体損傷はないが、それを超えると有意の放射線障害があらわれる、とする説。放射線規制値を設ける根拠となっている。「閾値」がないと規制値は目安でしかなくなりそれより低レベル放射線でも長時間照射で損傷を受けることになる。

 

「閾値」説に真っ向から対抗する、どんなに低くても被爆量に対応した損傷が起こるとするLinear-No-Threshold(LNT)説(下の図参照)は、規制値で管理するのには都合が悪いので、最近は片隅に追いやられていたが、今回の研究結果で再び日の目をみることになりそうだ。下の図で政府(電力会社)見解は100mSvに境界値があるとするAを仮定した。今回の結果はLinear HypothesisがHypothesisでない真の姿であるというものなので、100mSv以下でも損傷はある、という結果になる。そもそも100mSvの根拠となる都合の良い図のようにみえるが、どのくらい多くのデータ、によるものか知りたくなる。学生がAのラインを引いて持ってきたとしたら物理の指導教官はきっと非直線性の理由をきくだろうし、きっとオリジナルデータをプロットしてこい、と追い返すことだろう。そのくらい不確かな線引きなのだ。

 

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Photo: The Japan Times

 

パリ南大学の研究チームは過去の原発事故、とりわけチェルノブイリ、福島第一を通じて政府と電力会社は付近の住民がフォールアウトで受ける被爆を自然放射線の高々数倍程度であるので無視できるとして過小評価してきたが、自然放射線レベルでさえ無視できない障害を与えることになる、としている。

しかしこの結論は珍しいものではない。National Academy of Scienceによればヒトの受ける安全が保障できる放射線レベルなどない、としている。過去のデータをみればわずかな被爆量増加に対しても対応した損傷が起こることを示しているという。福島第一の後でI131(注2)、Cs137の(内部)被爆で癌発生率が高まるので、食事や飲料水の摂取で放射性物質を取り込まないようにすべきだという議論が沸き起こったが、それには根拠があるということだ。

(注2)福島第一の場合にはI131は崩壊しているのでどうすることもできないが、被爆量と地域をSPEEDIで確定して、住民(子供を持つ親)に伝え追跡調査をして対処するほかない。こうなるとSPEEDIの結果や米軍情報を封印した政府の責任はまぬがれないが、いまからでも被爆したと思われる子供たちにできる限りの処置を国がする責任があるだろう。

Radiation Physics & Chemistryでは放射線効果に関する特集号を予定している。Springerといえば昔、Radiation Hormesis and the Linear-No-Threshold Assumption (C.L. Sanders著)が出版して話題になったが、来年出版の特集号を是非一般の方々にも読んでもらえたら幸いである。

 

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Photo: Springer

 

LNT検証というと眉をひそめたり反論する人も多いと思うので、BMJの内容については別の記事に紹介する予定であるので反論はその記事でお願いしたい。科学的な検証は多数の人の再検証で確認されなければならない。私自身は個体差がああるのでLNTに個体差が重なった結果次第でホルミシスや閾値があるようにみえるのかもしれないと思っている。つまり母体が少ないということになる。もしかしたらDNA修復能力の個体差は我々が思っているより大きいのかもしれない。このコラムでは癌発生問題と一緒に考えていきたい。

 

 

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