放射線照射療法の細胞外マトリックスへの影響

癌治療患者の約半数が放射線治療を受けるという統計がある。特に日本では標準療法(外科手術、化学療法、放射線療法)が主流となっており、様々な非標準療法が提案されているが多くの病院では実施されていないのが現状である。

 

放射線の細胞外マトリックスへの影響

しかし放射線治療においては50-60Gyの線量を照射されることの副作用(オンコロジストの表現で実際には被曝による生体の変化)は無視できない。 放射線が癌細胞を狙い撃ちにする、というオンコロジストの説明の根拠は成長の早い癌細胞が成長時に放射線損傷を受けやすいアンフォールデッド状態にあるとされる。しかし癌細胞の成長には悪性度や個人差があるはずで、正常細胞と区別が難しい場合や、外科手術で癌細胞が切除された状態では正常細胞を多く殺すことになる。

またこれまで放射線効果に関する研究の多くが癌細胞に限られ、細胞外マトリックスへの影響の研究は少なく不明な点が多かった。 バンダービルト大学の研究チームは患者から取り出された腫瘍(in-vivo)と単離されたコラーゲン膜(in-vitoro)で細胞外マトリックスが放射線照射で軟化することを見出した(Miller et al., APL Bioengineering 2, 031901, 2018)。この研究は放射線照射がDNA切断以外の生物効果を持つことを実証した最初の研究である。

 

これまで細胞を取りまく微小領域への放射線照射効果の研究の多くは細胞内部の変化に関するものであったが、研究チームは赤外線分光法で、放射線が細胞外マトリックスの基盤となる構造タンパク質(コラーゲン)の繊維を切断しない代わりに、これらの繊維間の結合を切断することによって細胞外マトリックスを緩和し、その剛性を低下させ細胞外マトリック全体を軟化させることを見出した。

 

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Credit: APL Bioengineering

 

さらに硬い細胞外マトリックスを照射によって軟化した細胞外マトリックスで置き換えると、腫瘍細胞が広がりにくいことや、硬い細胞外マトリックスの細胞は、癌細胞が腫瘍から他に転移する様子と似た挙動を示すことがわかった。 軟化した細胞外マトリックスは細胞をより強固に固定するため、分割照射量を現状より低しても術後の転移を防げる可能性が示された。将来は照射量を低く抑えて転移を防ぐ予防処置としての放射線治療が一般的になるものと期待されている一方で、放射照射効果を総合的に理解する動きが活発になる。

 

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