放射線治療の後遺症(難聴)にHGF発現とc-Met活性化が関与

放射線治療は癌細胞のみを死滅させるとされるが、実際には個人差により異なる様々な副作用が存在することは事実で、多くの患者が治療後の後遺症に悩んでいる。つまり放射線治療は正常な細胞にも少なからぬ損傷を与える。後遺症をなくすための研究で腫瘍の増殖に関与する分子経路が明らかにされた。

 

マサチューセッツ総合病院の研究チームは後遺症のひとつである難聴を常染色体優性の遺伝性疾患である神経線維腫症II型(NF2)が後遺症を減らす効果があることを示した( Yingchao Zhao el al., "Targeting the cMET pathway augments radiation response without adverse effect on hearing in NF2 schwannoma models," PNAS (2018) )。

 

神経線維腫症II型(NF2)と放射線治療

常染色体優性の遺伝性疾患では腫瘍の治療に放射線治療が使われる。この疾患による難聴患者に対する放射線治療では、放射線治療で難聴が悪化することであった。研究チームによればクリゾチニブ(注1)を投与する治療法は(放射線治療の感度が上がるため)ドース量が減らせることと、神経線維腫症II型(注2)患者の培養腫瘍細胞の生育を阻害する効果があるとされる。

(注1)未分化リンパ腫キナーゼ(ALK),ROS1,および別の癌原遺伝子受容体チロシンキナーゼである MET に対する低分子チロシンキナーゼ阻害薬

(注2)第22番目の染色体22qにあるNF2という遺伝子の変異でmerlinという蛋白が正常に働かなくなって起こる病気。腫瘍に対して放射線治療が行われる。

 

神経線維腫症II型による前庭神経鞘腫は難聴を引き起こすことが知られている。この腫瘍に対して外科手術あるいは放射線治療が行われるが、それらの治療では難聴の度合いが強まる「後遺症」が避けられない。神経線維腫症II型の腫瘍は良性だが神経系に広がって様々な神経障害を誘発する。第八脳神経に多く見られる腫瘍は聴覚と身体のバランスを脳に伝達する機能を阻害する。 

 

 腫瘍増殖に関係するHGF-c-Met経路

これまでに血管新生阻害剤ベバシズマブの投与が一部の神経線維腫症II型患者の難聴を改善することはわかっていた。さらにc-Metタンパク質と関係する肝細胞増殖因子(HGF)の低い患者に効果が大きいことから、HGF-c-Met経路(注3)が腫瘍の進行に関係すると考えられていた。

(注3)肝細胞増殖因子は、上皮-間充識細胞間相互作用における重要なパラクリン伝達分子である。この因子は間充識細胞によって分泌され、上皮細胞の増殖、移動、形態に影響を与える。この因子の多様な生物活性は、c-Metと呼ばれる高親和性チロシンキナーゼ受容体との結合 (Kd=0.1-0.5nM) とその活性化によって起こる。

 

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Credit: clincancerres.aacrjournals.org

 

神経線維腫症II型のマウス実験で放射線治療がc-Metシグナル伝達活性(注4)を増大し放射線治療耐性を引き起こすことがわかり、c-Metシグナル伝達活性を阻害するクリゾチニブ投与が試された。

(注4) c-Met に結合して増殖シグナルを オン にする活性化は癌細胞の進行や薬剤耐性の獲得に寄与いる。そのためHGF-Met シグナル伝達活性を阻害する薬剤の開発が精力的に行われ.ている。

 

放射線治療の後遺症(難聴)にHGF発現とc-Met活性化が関与

研究チームはHGF発現とc-Met活性化が腫瘍の増殖に関係する分子経路であるとしている。この研究は放射線治療による後遺症としての難聴の悪化を抑えるとともに、今後の薬剤開発に大きな意味を持つと期待されている。  

 

放射線治療は分子生物的な腫瘍増殖の経路を立つ阻害薬剤との組み合わせて、照射の効果を高めることで後遺症や副作用(被曝による人体の放射線効果)を極小にできる時代が近い。

 

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