セシウムボールに関する論文の波紋〜線量計測値公表には注意が必要

一方では国内でもセシウムボールが事故直後の原子炉の状態を知る上で、手がかりとなるため研究発表が相次いでいる。ここでは些細な表記上の間違いが元でメデイアがパニックになっているセシウムボールを(注1)含む高線量放射性粒子に関する論文Science of The Total Environment, 607-608, 1065 (2017))を紹介する。なおセシウムボールについては本コラムの記事「セシウムボール」を参考にしていただきたい。

 

 

再びセシウムボールパニック

(注1)2013年につくば市の気象研究所の研究グループがセシウムボールをフイルターから採取している(Adachi et al., Sci Rep, 3 (2013), p. 2554)。セシウムボール密度の計測を続けると3/14夜から3/15朝と3/20夜から3/21朝にピークがあり、CTBT高崎観測所の放射性粒子の線量測定結果によく一致することから、この時間帯に福島第一原子炉からセシウムボールを含んだプルームが大量に放出されていたことが明らかになっている。

ここで紹介する論文は計測したセシウムボールの最大線量が1015Bq/kgであるとしたため、このありえない「異常な数値」が一人歩きして、そのままメデイアに流れて話題となっている。論文をよく読めば1MBq/kgを1MBq/μgとした誤りであることがわかるのだが、メデイアはabstractしか読まなかった。国内でも最近、福島第一の格納容器内のロボット調査でも、測定ミスから高線量の計測結果を海外のメデイアがそのまま伝えたことで風評被害が起きている。

 

ここでは問題の論文を紹介し、誤解が何故起きたのかをみてみよう。論文の試料となったのは2011年から5年間に渡り日本国内と北米で採取された粉塵と土の計235個で、分析手法は一般的なもので、ガンマ線スペクトロメータ、SEM、エネルギー分散X線分析(EDAX)である。

その結果、Cs134とCs137が検出された試料は日本で採取された180個のうちの142個で、線量中央値3.2kBq/kg±1.8kBq/kg、平均25.7kBq/kg、σ=72kBq/kgとなった。北米の試料では線量平均が0.030±0.10kBq/kgのセシウムが、32個の粉塵試料の1個、74箇所から採取された土試料32個に観測された。測定結果は下のヒストグラムにあるように、セシウム全体(Cs134+Cs137)の最大で高々1000Bq/kgを超えた程度である。

 

0-1

 

なお日本国内の中の一部(9試料)が250kBq/kgと異常に高い値を示したため、線量平均が押し上げられることとなった。これまで日本国内で300以上のセシウム含有量が1%以上の高線量粒子(セシウムボール)が報告されているので、それらの中には高線量のものもあると考えればこの研究の高線量粒子がセシウムボール出会っても不思議ではない。論文はこうした高線量粒子を吸引したとすれば、シリケートが肺に留まり排出されないため、内部被曝の恐れがあることを指摘している。またこのためこれまでの人体への影響の見積もりには空間線量が使われていたため、高線量のセシウムボールを含めて評価を行う必要があるとしている。この議論には問題はなさそうである。では一体、何が問題になったのか。

今回の論文では高線量(>1MBq/μg)のセシウムボールが含まれていた可能性を示唆しているが、そのような異常に高線量のセシウムボールが粉塵として空気中を漂っていると報道された。これが間違いであることは論文中(Resultsの最初のパラグラフ)に下記の記述があることからはっきりする。

The activities of the dust and soil samples ranged from undetectable (< 0.1 kBq kg− 1above background) to 1500 kBq kg− 1.

これがabstractでは下記のようにとんでもない数値に化ける。

Some particles reached specific activities in the MBq μg− 1 level and higher.

 

こうした些細な間違いは計測者や論文の著者、そしてそれらを鵜呑みにするメデイアによって拡散される。仮にパニックにつながるような数値が出てきたら、まず計測結果を疑うべきだろう。細かいことを言えば線量が強すぎると検出器が飽和して、計測できなくなる場合もある。例えばスリーマイル島の事故では半導体検出器)(SSD)が飽和して計測不能に陥った。

話を福島第一に戻すと間違いとは言え海外に今でも多くみられる誤った認識を正し、疑惑を晴らすためにも、プルーム放出と炉心溶融の対応関係を電力会社は公表すべきなのではないだろうか。

 

追記:08.10.2017

最後にこの分野の専門家である「セシウムボール」記事の著者から以下のコメントがあったので追加しておきます。筆者も車のエアコンフイルターの線量計測をやろうと思います。まだまだ研究対象としては多くの未知の部分があるこのテーマを若い研究者の皆さんが興味を持って、研究していただけたら、という意見に筆者も同感です。

コメント

セシウムボールは微小であり、一般の放射性セシウムと同様、あるいはそれ以上に、再浮遊がおこっても不思議ではありません。2011年の夏以降に長崎に飛んできたエアロゾルに含まれていた放射性セシウムの多くが朝鮮半島に降下したものの再浮遊物であると考えられます。コケに含まれる放射性セシウムは、全国規模に分布しています。このことから、放射性セシウムは再浮遊によって拡散しているのではないかと思います。セシウムボールも風が吹いたら舞い上がり、再浮遊して拡散するのではないでしょうか。これを実証するために、遠距離に拡散したセシウムボールを簡単に捕まえる手段があるといいのですが。

 

 

コメント   

# 兼業主婦 2017年10月17日 14:25
はじめまして。
NHKのセシウムボール番組から、気になり調べだした、関東在住の者です。
素人の理解では、不溶性で広域に飛散ということは、いまでも関東などで、たとえば風の強い日には子どもを外で遊ばせたりしないほうが良いということなのでしょうか?
人体にどれほど影響があるのか、いまも飛散しているのかなど、いちばん懸念となるポイントが謎で、心配だけ募るばかりです。
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