放射線照射で物質が液体化する可能性〜これまでの中性子照射効果は過小評価か

放射線照射による結晶の非晶質化の研究の歴史は古い。アモルファス半導体物理が70年代にブームとなる以前から、照射による欠陥生成と格子変形で長周期性が失われることはよく知られていた。70年代後半にはランダムネットワークの計算機モデリングと中性子散乱の実験が組み合わされて、結晶の長距離秩序は損なわれても短距離秩序は変化しないことすなわち、「短距離秩序の保存」が、急冷や照射効果で得られる非晶質物質の特質であることがわかってきた。

 

非晶質物質の物性が概ね「結晶のぼけ」になる理由

物性の多くが近距離秩序に基づいていることから、非晶質物質は結晶構造の「ぼけ」で説明できてしまう。このことは非晶質独自の性質を期待した研究者にとっては期待はずれとなった。もちろん非晶質では局在化による独特の電子状態などユニークな物性があるし中距離構造に特徴がある物質も多い。また長距離秩序にもとずく物性も大きな影響を受けることはいうまでもない。では照射効果は近中距離秩序にどのような変化を与えるのだろうか。

物質が中性子線の照射を受けると、電荷はない粒子なので相互作用は小さいはずなのに損傷が大きい。このことは原子炉圧力容器や核燃料容器の破壊につながる重要な原子炉材料の課題となる理由である。中性子は格子点を占める原子で散乱された後、玉突きのように衝突を繰り返すので格子全体に影響を与える。

そのため歪んだ格子は超周期性を失うがネットワークはそのままなので近距離秩序は保存される「非晶質」状態となる。しかし最新の研究によると石英の放射線照射効果をMDでシミュレートして急冷による非晶質と比較した結果、両者が異なる乱雑度を与えることをみいだした。照射条件次第で非晶質より乱れの大きい状態がつくられること、すなわち固体(非晶質)よりも液体に近い近・中距離格子の変化(下図)が起きることがわかった(J. Chem. Phys. 146 204502 (2017))。

 

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Credit: J. Chem. Phys.

 

筆者の研究グループはかつてアモルファスセレンが低温で光照射すると液体状態になることをみいだして「光誘起液体」と呼んだ。この場合は1次元鎖構造でもともとアモルファスでは1次元鎖が寸断されていて、液体に近い。この場合には可視光による電子励起で液体にみられる1次元鎖の切断と隣り合う鎖との分子間結合がつくられる電子的な効果である。今回のようなSi原子が4個の酸素原子と強固な結合をつくる石英より、液体状態が実現しやすい。当時は10Kで液体状態、ということに興奮したものだった。

 

物質が液体状態になると

今回の結果は(計算機科学の範囲であるが)なぜ、中性子照射で材料強度が低下するのか、という大問題への指針を与えるかもしれない。またこのことは固体(非晶質)を前提とした圧力容器の材料劣化が問題を過小評価している可能性を示唆している。

中性子照射で原子炉圧力容器が「液体状」になってしまうと、機械的強度は一気に下がる、こうした圧力容器の強度リスクは欧州型原子炉の圧力容器の問題で工期遅れを引き起こしているが、同時に稼動後40年以上の老朽原子炉の容器の再点検が必要になる可能性がある。原子炉圧力容器の放射線効果は実験的、理論的に研究が精力的にお行われ安全性が確立したとされている。

 

しかし反応が予想を大きく上回る暴走状態では圧力容器の損傷がこれまで考えていたより大きくなる可能性があるということを頭に置く必要がありそうだ。

 

 

 

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