「D-シャトルプロジェクト」〜広域個人線量ネットの構築に向けて

「D-シャトルプロジェクト」とはフランスの高校生たちによる個人線量計「D-シャトル」による福島を中心とする広範囲の地域の個人線量の大規模測定の試みである。その成果は東大早野教授の指導で論文に公表されている(J. Radiol. Prot. 36 49 (2016))。

 

半導体方式ポケット線量計

半導体方式のポケット線量計は半導体pn接合に放射線が入射してつくられるホール(正孔)と電子の対生成することを利用して線量を測定する原理でTLBなど積分型にくらべてリアルタイム線量測定が可能であることが特徴である。逆バイアスで電極に集まる電荷出力を計測するが、ガス封入電離箱よりも感度が高く小型であることから、積分型に代わりに個人線量計として用いられ始めた(注1)。D-シャトル以外にも多くの製品があり、最近では産総研の開発したポケット線量計も県内に大量に配布されている。 

(注1)筆者の知る限りポケット線量計の先駆的な製品はフランスのEURYSIS社(現キャンベラ社)のクレジットカードサイズのものであった。今から30年以上も前の頃でメモリーに記憶された線量データはリーダーでまとめて読みだす形式だったのでリアルタイム計測はできなかった。飛行機に持ち込むと成層圏の宇宙線で放射線量が増えることが確認できた。

 

「D-シャトルプロジェクト」の結果

論文(J. Radiol. Prot. 36 49 (2016))によれば計測結果は次のようにまとめられる。プロジェクトの詳細は解説記事も参考にされたい。

・ 2014年に福島県内の6高校を含む日本全国で12校、フランスの4校、ポーランドの8校、ベラルーシの2校の生徒と教師216人による個人線量計測が」行われた。

・ 全員が半導体式のポケット線量計「D-シャトル」を2週間に渡って着用して個人線量を測定し、行動記録と線量を記録した。

・ その結果、居住が許されている福島ベラルーシで得られた個人線量値は自然放射線の範囲内出会った。すなわち放射線の汚染による個人線量は計測されなかった。

 

下の図(J. Radiol. Prot. 36 49 (2016)より転載)は国内各地の高校で計測された年間線量(mSv/y)を欧州の測定値と比較したものである。地域差は認められるものの福島県内外の系統的な差異は認められないことが明らかである。年間許容値2mSvの約1/2程度である。自然放射線は宇宙線と自然放射性核種で約2.4mSvとなるので、これを上回る福島原発事故によるが外部被曝の恐れはない。

 

Adachi 2016 J. Radiol. Prot. 36 49 copy

Credit: J. Radiol. Prot.

 

一般人の被曝の危険性なし

この結果により「居住可能指定」地域の日常生活において被爆の危険性が無いことが検証されたことは大変有意義な進展である。もちろん避難区域や原子炉周辺では事情は異なるが、少なくとも「住民の日常生活において被爆の危険性が無い」ことを待ち望んでいた住民がほとんどである。

今回のプロジェクトは住民が積極的に加わる線量計測ネットワークの有効性を実証することにもなった。世界的にもこのような動きは一つの大きな潮流になろうとしている。放射線量だけでなく化学物質やマイクロ波(注2)など環境汚染が広がっている中でモニターネットワークの必要性が高まりつつある。

(注2)放射線監視ネットとしては政府機関(EPA)主導のRadNetやNGO主導のSAFECASTが知られている。最近では電磁波の広域監視網をインターネットでつないで可視化する試みもある。

 

実際には各国に政府系ネットとNGO系ネットがあり、その規模は様々だが総数はここでは紹介できないほど多い。計測器をインターネットにつないでデータを収集し、可視化、データベース化する動きはこれからも活発化が続くものと期待される。今後の課題は自動化とネットへのつなぎこみなどアップグレードであるが、ここまでくれば有効性は明らかである。長丁場になりそうな廃炉と核廃棄物の安全保管を監視するのはその大きな役割である。

 

 

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