核実験でできたガラスが月の起源を解明

月の形成については地球に隕石が衝突して分離したとする説などいくつかの説があり決定的な解明には至っていない。アポロ宇宙船が月の岩石を持ち帰ったのは半世紀も前のことであるが、その分析結果から起源に迫ろうとする研究は数多くなされてきたがまだ全貌解明には結びついていない。

 

月岩石にステイショバイト

2015年に広島大学の研究チームが分析したところシリカ(SiO2)の高圧相であるステイショバイトを確認したことで、天体衝突説が有力となった。

月の表面に見られるクレーターは小天体が月に衝突してできた痕跡と見られているが、その岩石試料中に高圧相のステイショバイトをSPring-8の微小試料X線回折で見出した(American Mineralogist 100 1308 (2015)。これまでステイショバイトが発見できなかった理由は、結晶が数100nmと小さいためである。

このことで持ち帰った試料(Apollo 15299)が採取されたクレーターが小天体衝突によって形成されたことが明らかとなった。実験に使われたSPring-8 BL10XUは筆者も立ち上げに加わった真空封止アンジュレータを光源とした高輝度X線ビームラインで、高圧実験に威力を発揮している。

 

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Credit: American Mineralogist

 

クレーターが小天体衝突によって形成されたことは地球も同様に巨大隕石に衝突して一部が月となり分離した衝突説を支持している。しかしこれはあくまで類推であり、直接的証拠ではない。形成過程の詳細な機構解明には至っていないのである。

 

開けられたパンドラの箱〜トリニテイ実験

1945年7月16日はニューメキシコ州で人類初の核実験であるトリニテイ実験が行われた人「パンドラの箱を開けた日」となった。トリニテイ実験は長崎型原爆(爆縮型プルトニウム原爆)で、この時はわずか20キロトンでしかなかったが、その後の原爆の主流となり標準的な各兵力として米ソが配備を競った。

そのトリニテイ実験が月の起源に役立つとは誰も予想しなかったであろう。核実験サイトには高温で溶けて固まった放射性ガラスがみつかっている。カリフォルニア大学の研究グループがトリニテイ実験場から採取された放射性ガラスを分析し、爆発が45億年前の地球に火星ほどの大きさの小天体が衝突した時のものに近いことを見出した。

有力視される月の起源はTheiaと呼ばれる火星と同程度の大きさをもつ小宇宙が地球に激突した際に飛び出たとする「衝突説」だが、爆発の高温によって揮発性の物質は宇宙空間に放出されたと考えられている。

そこで研究グループは高温にさらされたトリニテイ実験場から採取されたガラスの分析を行った。1945年7月16日の核爆発で地表の砂は溶けてシリカとなったが、この岩石はトリニテイからとってトリニタイトと呼ばれる。

トリニタイト中には爆心地に近いほど揮発性の亜鉛成分が少ないことから、高温で成分が揮発したと推測できる。残された亜鉛は揮発性の少ない質量が大きい同位体であった。

 

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Credit: Scientific Advances

 

このことから研究グループは衝突エネルギーで核爆発時と同程度の高温状態ができたことが推定される。月の岩石にも揮発成分が少ないという分析結果(ステイショバイト)も説明できるとしている(Scientific Advances Feb. 8, 2017, 3 e1602668)。

 

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Source: astronomynow.com

 

実際に衝突で分離した月の形成過程はシミュレーション(上図)で見るしかないが、実験結果は積み重ねられていて検証も近い。

人類初の核実験が月の起源解明に結びつくことを誰が予想したであろうか。ところでパンドラの箱は一旦開けられたら閉じることは容易ではない(箱を開けたことにより利益が生まれる)し、閉じても出て行ったもの(核廃棄物)は元に戻せない。

 

 

 

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