損傷DNAを修復するゲノム編集技術〜難病治療に光

ゲノム編集で損傷を受けた脳のDNA配列を修復する新しい技術が開発された。これによって従来は不治の病とされてきた脳機能障害を治療することが可能になろうとしている。放射線によるDNA切断は生物に様々な障害をもたらすが、意図的な切断、挿入、削除を治療に使う遺伝子治療技術が2013年以降、注目を集めているが増殖しない細胞に対してもゲノム編集が可能にななった。

 

ウイルスDNA切断とゲノム編集技術

米国の研究所の遺伝子工学の研究チームは免疫機能を発展させ新しいゲノム編集技術を開発し、この技術を使って、先天的に(遺伝子異常で)視力を失ったマウスの視力が復させることに成功した(Nature Letter 2016 )。これまではゲノム編集技術は目、脳、心臓、肝臓細胞に適用することはできなかった。

新しく開発されたゲノム編集技術(HITI)(注1)でこれらの細胞への適用が可能になった。この技術で難病(先天性異常)な疾患を治療したり、増殖を停止した(老化した)細胞に適用できるため「若返り」も可能になると期待されている。

(注1)Homology-Independent Tageted Integration。理研が開発したゲノム編集技術でCRISPR/Cas9に基づいている。

 

成人の細胞のほとんどは年齢とともに増殖が弱まる(老化)ため、これらに対してはDNA配列に手を加えることが難しかった。新技術によって分裂しなくなった細胞に対してもゲノム編集が可能になったことは画期的なゲノム編集技術の進展といえる。ゲノム編集とは簡単化すれば下の模式図に示すように、DNA配列を切断してドナーDNAを挿入する操作である。

 

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Source: phys. Org Dec. 17, 2015

 

ゲノム編集技術として知られるCRISPRは意図しない場所のDNA配列を切断する可能性もあるが、正しくDNAを修復できれば老化によって変異を生じた箇所を元に戻す(若返り)ことも夢ではなくなる。今回の成功は同時に遺伝子編集が遺伝子損傷による難病を治療できることを示している。研究チームは人間では4,000人に1人の発症率の網膜色素変性症(retinitis pigmentosa)で視力を失ったマウスにHITIを適用し、視力を回復させることに成功した。HITIはこれまでのゲノム編集技術(CRISPR)(注1)を改良したものである。

(注1)CRISPR/Cas9

 

CRISPR/Cas9(clusterd regularly intersed short palindromic repeats/ CRISPR associated proteins)とは遺伝子配列の特定場所を編集(削除、置換、挿入)する技術(Mali P, Yang L, Esvelt K.M., Aach J, Guell M, DiCarlo J.E., Norville J.E., Church G.M. RNA-Guided Human Genome Engineering via Cas9. Science 339(6121), 823-826 (2013). )をいう。元々はウイルスやプラスミドなど侵入してくるDNAを標的として攻撃し破壊する免疫機能を応用したもの。

 

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Credit: sites.tufts.edu

 

CRISPR/Cas9 

CRISPR/Cas9システムは侵入してきたウイルスのDNAを以下のステップで切断する免疫機能を持つ。CRISPRは侵入DNAを判別する機能を持つ(Marraffini, L. A., & Sontheimer, E. J. Self versus non-self discrimination during CRISPR RNA-directed immunity. Nature 463 (7280), 568-571 (2010))。CRISPR RNAにDNA配列が転写されトランス活性化因子を持つCRISPR RNAと一緒にガイド RNAを作りこれが、標的(ウイルス)DNAを切断する。

この免疫細胞のウイルス攻撃手法を使うとDNAの特定部分を編集することに応用できる。それがゲノム編集技術の原理である。(項目番号は上図のプロセス番号に対応する。)

1. ウイルスあるいはプラスミド(細胞内で複製され娘細胞に分配される染色体以外のDNA)のDNAが細胞内に侵入。

2. 侵入したDNAがCRISPR配列に取り込まれる。

3. 遺伝子配列がpre-crRNA(RNA)に転写される。

4. CRISPRはトランス活性化因子の遺伝子配列をもつRNA(tracrRNA)に遺伝子配列を複写してガイドRNAがつくられる。

5. Cas9蛋白(注2)がガイドRNAと結合する。

6. 標的DNAにガイドRNAが結合する。

7. Cas9蛋白が侵入してきたDNAを切断。

 

(注2)(注2)RNA誘導型ヌクレアーゼ であるCas9 タンパク質。Streptococcus pyogenes 由来のCas9 ヌクレアーゼを、組換え大腸菌で発現・精製した もの。ガイドRNA が標的部位で Cas9 と複合体を形成する。RNAに誘導されるCas9ヌクレアーゼは標的配列を特異的に認識し、切断する。

 

人間への本格的な遺伝子編集治療には効率よく編集機能を持つ分子を正確に標的(DNA配列)に近づけることが不可欠となる。今回の手法の最も大きな特徴は分裂しない細胞を対象としてゲノム編集を可能にした点にある。

 

 

 

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