スライドレス紫外線励起顕微鏡による細胞組織イメージング

ミューズ細胞(Multi-lineage differentiating Stress Enduring cell)は臓器の結合組織、骨髄、末梢血などに存在する未分化細胞すなわち多能性幹細胞である。紫外線励起の顕微鏡はミューズ細胞をスライドレスで生きたままで観察できるイメージング手法である。

 

カリフォルニア大学デイビス分校メデイカルセンターの研究グループは300nm以下の波長で表面から数ミクロンの深さまでのミューズ細胞を観測できる紫外線励起光顕微鏡システムを開発した(Fereidouni et al., Nature Biomedical Engineering online Dec. 4, 2017)。

 

41551 2017 165 Fig1 HTML

Credit: Nature Biomedical Engineering

 

上図に示されるように紫外LED照射によって可視光では分解できなかった構造が280nmの励起で鮮明なイメージが得られる。この手法はレーザー顕微鏡や共焦点顕微鏡とは異なり、多波長照射やコヒレントトモグラフイと異なり、より簡単な実験装置であるため、ミューズ細胞の観測の強力なツールとなる。というのもミューズ細胞の研究ではスライドを使わず迅速にその場で細胞イメージを取得することが重要になるためである。

スライド顕微鏡ではようやくスライド全域走査型顕微鏡が使われだしたが、スライド作りのステップが不要のスライドレス顕微鏡はより迅速に生きたままの状態を保って観察することができるので、今後の発展が期待される。

 

研究開発とスピンオフの関係

このスライドレス紫外線励起顕微鏡はMUSE Microscopy Inc.から市販が予定されている。米国の大学では研究開発した装置の市販化を開発に並行してスピンオフ企業で行うのが一般的である。そのスピード感は日本の比ではないが、一つには起業化(法人化)の簡素化されていることと、融資環境に恵まれていることがある。日本でも産学連携といった古い概念から脱却する大学発ベンチャーが珍しくなくなってきたが、潮流を変えるには研究開発の現場の意識から変えていく必要があるだろう。

しかし「結果を出すための開発」なのだが、現実には「結果」が全てとなる風潮が強い。開発現場に与えられる時間は徐々に少なくなって来ている。「開発より結果」を要求されるため、十分な開発研究時間が確保できない。これが結局は競争力を低下させる。放っておくと近い将来、思っても見ない問題(開発能力の衰退)が浮上するだろう。

 

国立大学への運営交付金は年3%で減り続け、慢性的な研究予算不足に陥ることとなったが雇用費の圧縮により、退職教官の補充ができない学部も増えている。ノーベル賞を受賞した大隈教授の指摘する研究環境の変化が無視できないのが現実となりつつある。開発を避けざるを得ない根幹的な問題は予算が減って開発より成果を優先しなければならない事情にあるのかもしれない。

 

関連記事

1, 日本の科学技術の将来展望

2, 新しい科学技術の評価〜経済効果(英国科学技術施設協議会の場合)

3, 科学技術立国を目指すには〜研究環境の変質によるリスク

4, 研究できない 日本科学の危機

5, 科学技術に必要なのは研究者の流動性か

6, <自然科学論文数>日本4位に転落 中、独に抜かれる

You have no rights to post comments

スポンサーサイト

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.