トポロジカル絶縁体のスピン流を測定

量子物質表面を流れるスピン流を精密に測定する新しい実験手法はスピンエレクトロニクスへの一歩と考えられてきたが、これまで決定的なものはなかった。オークリッジ国立研究所の研究グループは代表的な量子物質、トポロジカル絶縁体のスピン電流を精密測定手法の開発に成功した(Hus et al. Phys. Rev. Lett. 119, 137202, 2017)。

 

スピン電流の測定はスピン角運動量の測定に他ならない。これまでトポロジカル絶縁体のスピン流の研究は精力的に行われてきたが、直接的な測定の報告はなされていない。微視的かつ「スピンに敏感」な実験手法が存在しなかったためである。

トポロジカル絶縁体表面の電子流のスピンは均一で同一の方向を持っている。そのスピンを直接観測するために研究グループはBi2Te2Seを試料として異なる方向のスピンの電子による電圧を微視的プローブで検出する(下図参照)、はじめてスピン方向に敏感な微視的測定手法を開発した。

 

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Credit: Phys. Rev. Lett.

 

この手法の原理は半導体の電気伝導度測定で使われる4端子法で、電極をSTMチップで行うところが鍵となる。4端子STM測定によって、非接触で微小領域のスピン方向を特定した電子流の測定が可能になった。これによって表面電流をバルクと区別して検出することもできるため、将来のスピンエレクトロニクスの応用研究に強力な測定手法となると期待されている

 

オークリッジ国立研究所がスピンエレクトロニクス研究に力をいれる理由

オークリッジ国立研究所といえばマンハッタン計画のウラン濃縮工場を引き継いだ原子力関連の研究所であった。トリウム原子炉や高温ガス炉などの開発で知られていたが、近年はエネルギー省のエネルギー基礎科学の拠点のひとつとして知られる。今回の研究もそうした研究分野のシフトの賜物であるといえるだろう。なお以前にもかいたが米国の国立研究所の一般の職員の環境は日本の研究者が想像するほど良くない(注1)。

(注1)筆者はロスアラモス国立研究所を訪れた際にバラックの建物やあまりにひどい研究所周辺のインフラに驚いた。案内してくれた友人は年金が保証されないと言っていたが、その後フランスの研究所に移った。彼は米国の破産状態を理解している数少ない米国人で、日本でも同じことが起きるといっていたのが印象深い。

話を戻すと国立研究所は例外なく大学または民間研究所と同等の厚生待遇を受けられるように、管理を外部に委託している。オークリッジ国立研究所の場合はテネシー大学である。大学職員と同等の厚生処遇を受ければ、予算規模自身は政府のエネルギー基礎科学の重点化で優遇されているので、こうした成果は驚くべきことではない。

 

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